Yahoo!ニュース

米兵のトモダチは高線量で被ばくしていた フクシマ第一原発事故プロジェクト(2)

立岩陽一郎InFact編集長
空母「ロナルド・レーガン」(U.S Navy Photo)

東京電力福島第一原子力発電所における事故を検証しているNPO「ニュースのタネ」が、事故直後からアメリカ政府が日本各地で放射線量を計測したデータを分析したところ、トモダチ作戦として被災住民の救助にあたっていたアメリカ軍の空母が当時、極めて高い放射線を浴びていたことがわかった。(鈴木祐太、山崎秀夫、立岩陽一郎)

海上からみた東京電力福島第一原子力発電所(撮影:山崎秀夫)
海上からみた東京電力福島第一原子力発電所(撮影:山崎秀夫)

このデータは、アメリカ軍とアメリカ・エネルギー省が事故の直後から日本の各地の20000件を上回る地点で放射線量を計測したもので、近畿大学で長年にわたって放射性物質の分析に携わった山崎秀夫氏がエネルギー省のウエブサイトからダウンロードしたものだ。現在はその一部しか公開されていない。

NPO「ニュースのタネ」はデータの中に、USS Ronald Reaganと書かれた記述を見つけた。横須賀を母港とし、当時、「トモダチ作戦」として被災者の救助活動に参加していたアメリカ海軍の原子力空母ロナルド・レーガンのことだ。

発生翌日の3月12日に計測されている。その数値を見ると次の様になる。

午後4時00分 3マイクロシーベルト/時

午後4時45分 9マイクロシーベルト/時

午後6時00分 6マイクロシーベルト/時

日本政府が被ばくの許容量としている0.23マイクロシーベルト/時を遥かに超える高い数値となっている。最初の値で10倍以上、次の値にいたっては約40倍という高い値だ。最初から2時間後に計測した値は少し落ちるが、それでも許容量の20倍以上の値となっている。

これはつまり、少なくとも数時間にわたって乗組員が高い値で被ばくしていたことをあらわしている。

がれきの撤去に従事する米海兵隊(U.S.Marine Corps Photo)
がれきの撤去に従事する米海兵隊(U.S.Marine Corps Photo)

午後4時のデータの説明欄には、「USS RR Deck- reading taken at 1m.」と書かれている。これは、艦上のデッキから1メートルの高さで測定されたと考えられる。午後4時45分も同じだ。しかし、午後6時のデータには、「USS RR- deck, closed window」と書かれている。これは、窓を閉めて室内で測定したことを示すものと思われる。断定はできないが、艦上での測定は危険だとして、艦内の閉め切った中での測定に切り替えたのだろう。

「ロナルド・レーガン」は原子力空母であり、艦内には放射線の専門家もいる。当然、この高い放射線量が乗組員の健康を害する危険性を有していることも承知していた筈だ。

データには計測された緯度経度も記されている。それを地図上に落としたのが以下の図だ。

空母「ロナルド・レーガン」の進路と放射線量(アメリカ政府のデータを基にニュースのタネが作成・日付は全て2011年3月12日)
空母「ロナルド・レーガン」の進路と放射線量(アメリカ政府のデータを基にニュースのタネが作成・日付は全て2011年3月12日)

空母が高い線量から逃げるように日本から離れ、更に北に移動していることがわかる。ところが、データが示すのは、空母は被ばくを避けることはできず、高い線量を浴びつづけていたという事実だ。

この数値はアメリカ政府のウエブサイトで現在も確認することができるが、データから空母「ロナルド・レーガン」の名称は削除されている。私たちは数値が同じであることから、アメリカ政府が何かしらの理由で艦名を外したものと考えている。

参考記事 福島第一原発事故で新事実 事故直後の首都圏で高レベルの放射線量が計測されていた 1F首都圏プロジェクト

この「ロナルド・レーガン」の乗組員をめぐっては、その後、癌を発症するなど体調を崩すケースが多発し、現在、東京電力などを相手取った集団訴訟に発展している。朝日新聞の田井中雅人記者とフリージャーナリストのエィミ・ツジモト氏の共著による「漂流するトモダチ」(朝日新聞出版)によると、裁判は2012年に始まり原告は400人以上になっていて、そのうち9人が既に死亡しているという。また、裁判で、東京電力は、乗組員の健康被害と原発事故との間に因果関係は無いと主張している。

宮城県女川町で地上に書かれたメッセージ「THANK YOU USA」(U.S.Navi Photo)
宮城県女川町で地上に書かれたメッセージ「THANK YOU USA」(U.S.Navi Photo)

しかしデータを見ると、かなり高い線量の中で乗組員が作業をしていたことがうかがえる。

「トモダチ作戦」を日米安保条約の象徴として描くことに熱心だったメディアは多い。日米安保体制の意義を強調するメディアもあった。しかし、参加したアメリカ軍兵士が健康被害を訴えていることはあまり報じられていない。

参考記事 福島第一原発事故で新事実 事故直後の首都圏で高レベルの放射線量が計測されていた 1F首都圏プロジェクト

空母「ロナルド・レーガン」は航空部隊の人員も含めると約6000人が乗り込んでいる。また、外務省の資料によると、「トモダチ作戦」では、アメリカ軍約24500名、艦船24隻、航空機189機が参加し、被災地に食料品など約280トン、水770万リットル、燃料約4.5万リットルの配布を行っている。

私たちが現在分析しているデータは、原発事故直後にアメリカ政府が日本各地で計測した放射線量を記載したものだ。データから私たちが知らない多くの事を読み取ることができる。今後ともこのデータに基づく事実を報じていく。また、私たちは現在、日米両政府にこのデータがどのように使われたのか取材をしている。その詳細についても今後、報じていく。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

立岩陽一郎の最近の記事