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中間選挙で更に深まるアメリカ社会の分断

立岩陽一郎InFact編集長
中間選挙から一夜明けて会見するトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領への事実上の審判と見られたアメリカの中間選挙は現地時間の11月6日に投開票が行われ、当初の予想通り、上院ではトランプ大統領の共和党が過半数を維持したものの、下院では民主党が躍進して過半数を奪還した。選挙を通じて見えたのは、コアなトランプ支持者の揺るがぬ支持と、その結果、更に社会の分断が深まっているということだ。

トランプ支持者の街

「トランプ大統領の支持に変わりはない。大統領として、しっかりと仕事をしてくれていると思う」

バーク家の人々
バーク家の人々

ジョージア州アトランタの郊外で、デール・バーク氏はそう話した。伝統的な南部の保守の牙城であるジョージア州は、共和党支持の州として知られる。トランプ大統領の支持者も多い。中間選挙直前の5日、トランプ大統領を支持する一般の人々の生の声を聞こうと自宅を訪ねた。

バーク氏は2016年の大統領選挙でもトランプ氏に投票した。その直後に取材をしており、二度目の取材となる。トランプ支持の気持ちに変化は無いという。

何が特に、トランプ大統領の良い点なのだろうか?

「各国との通商関係を見直すというトランプ大統領の政策は正しいと思う。アメリカは多くの点で他国に譲歩してきたが、それは公平ではない」

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実は彼は、メキシコで製造した瓶をアメリカに輸入してコカ・コーラなどに供給している会社の現地マネージャーだ。メキシコ、カナダ、アメリカの間から関税などの障壁を撤廃するNAFTA=北米自由貿易協定は彼にとって悪いものではない。トランプ大統領は既にこの自由貿易を撤廃する政策を打ち出している。

インタビューに答えるデール・バーク氏
インタビューに答えるデール・バーク氏

「トランプ大統領の政策は、あなたのビジネスにとってマイナスなのではないか?」

そう尋ねると、少し困惑した様な答えが返ってきた。

「多少、不安は有る。しかし、そうならないことを祈っている」

もう少し食い下がってみると、「多少、ビジネスに影響が出ても、トランプ大統領を支持する考えに変わりはない」と話した。

バーク氏も既に投票を済ませていると話した。

「今回の選挙は、かつてない盛り上がりだと感じる」

ローニー・クリスト氏と夫人
ローニー・クリスト氏と夫人

一方で、こうしたトランプ支持者の多い地域でも、一部だが「トランプを支持したが、それは間違いだった」と話す人も出てきているようだ。

ソフトウェアの開発会社で技術者を務めるローニー・クリスト氏は苦り切った表情で語った。

「トランプ支持者に共通するのは、事実を無視する点」

そして続けた。

「話しているうちに、トランプ大統領の言っていることは辻褄が合わなくなると感じる時があるが、『まぁいい。トランプ大統領が間違っているわけない』と結論づける」

それを聞いた時、通商政策に関するバーク氏の多少戸惑った返答を思い出した。

クリスト氏は、「自分はリベラルではない。どちらかと言うと保守だ。それでも、トランプの言っている通商政策などはでたらめだと思う」

クリスト氏に会ったのはバーク氏の自宅で行われたパーティーだった。周囲に聞かれないように小さな声で話すクリスト氏が印象的だった。

「わかるだろ。デール(バーク氏)もトランプ支持者だ。ここに集まっているのは私と私の妻以外は皆トランプ支持者だ」

そして言った。

「近所とも、政治の話は一切できない」

トランプ批判などしたら、この地に住めなくなる・・・そんな雰囲気が既にできているのだという。2人の話から、ジョージア州では、トランプ大統領への支持は揺らいでいないと感じた。

今回の選挙で、改選人数の少ない上院では共和党が過半数を維持し、全員が改選の下院では民主党が過半数を奪還した。それだけ見れば、民主党の善戦とは言えるが、民主党が圧勝したわけではない。

また、クリスト氏がバーク氏について語った時の表情などを見ると、それぞれの党を支持する人間関係がこじれ始めていることも感じた。

「分断は更に深まっている」

分断を加速するフェイクニュース

この選挙で私がもう1つ注視していたのがフェイクニュースだった。日本でも沖縄の知事選挙でフェイクニュースが拡散したことが報じられている。2016年の大統領選挙でも、「ローマ法王がトランプ氏を支持」と言った全く根拠の無いフェイクニュースが拡散され、少なからず有権者の投票行動に影響を与えたと考えられている。

今回の選挙では、特に移民の恐怖を流布するものが目に付いた。そして、共和党の候補が民主党の候補を「アメリカの国益を守らない」と批判するというものだ。

ポリティファクトのHP
ポリティファクトのHP

また虚偽の情報を流して相手候補を攻撃するケースも多かった。例えば、ミネソタ州では民主党の候補者について「18の容疑がかけられ人生のほとんどで法律から逃れてきた」と中傷する広告が出たが、そのほとんどは道交法違反などの微罪だったという。カンザス州では、共和党の候補が会社を立て直したという事実を嘘だときめつけたが、実際にそうした役割を担っていたという。

民主党候補に対する社会主義者、或いは共産主義者のレッテル貼りも目立っている。これは、トランプ支持者と話していて多く聞かれる言葉だが、民主党候補者を社会主義者と呼ぶケースは多い。ヒラリー・クリントン氏を「社会主義者」と批判する言葉もよく聞かれた。

フロリダ州では、上院選挙で共和党の候補が、民主党の候補を「社会主義者」と批判している。オハイオ州でも、民主党の候補の政策に対して、「マルクス主義への傾斜」とか「共産主義的志向」といった批判が流された。

また、候補者に対して、軍に批判的だという偽の情報を流すケースも見られている。軍人に対して敬意を払うことが当然のこととされるアメリカでは、候補者を攻撃する手段として、「軍への敬意が無い」とか、「軍役に虚偽の報告をしている」といった情報が利用される。その中で、フェイクニュースが作られているということだ。

このほか、麻薬対策や課税などの政策でも、相手候補を非難するのにフェイクニュースが使われるケースが有ったという。

こうした状況を専門家はどう見ているのか?ファクトチェックによって選挙でのフェイクニュースの拡散を防止している「ポリティファクト」をフロリダ州に尋ねた。

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事務局長のアーロン・シャロックマン氏は次の様に話した。

「今回の選挙では、2016年の大統領選挙の時の様な完全な嘘偽りを流布させるという形でのフェイクニュースは見られなかった。ただ、相手候補を中傷するための過剰な表現や、掲げる政策を正当化させるために都合の良い情報を使うといったものはかなりにのぼった」

その結果、下院選挙 、上院選挙 、州知事選挙に加えてトランプ大統領の発言と、全部で375件についてファクトチェックを行ったという。その全てが全くのフェイクニュースというわけではなく、「半分事実ではない」などが多かったとのこと。

ただ、深刻なフェイクニュースは見られなかったというものの、今回の選挙でもトランプ大統領の発言にフェイクニュース的なものが多々見られたという。

「中南米からの移民について、その中に中東からのテロリストが含まれていると言ったり、事実と異なる発言は相変わらず多かったという印象だ」

ポリティファクトが入る建物
ポリティファクトが入る建物

シャロックマン事務局長は、フェイクニュースが社会の分断に拍車をかける危険性を語った。

「ネット時代の今はフェイクニュースは簡単に作られ拡散していく。反対に、それをチェックする作業は人手もかかり大変だ。だから、選挙ではフェイクニュースが今後も拡散することになるだろう。そして、それを信じる人々とそうでない人の相互不信は更に強まる。これが、社会の分断に拍車をかけている」

中間選挙がこの2年間のトランプ政権に対して下した審判とは何なのかは、実際のところ、まだ判断できる状況ではない。トランプ大統領も、民主党もそれぞれの立場で事実上の勝利宣言をしているからだ。

しかし、はっきりしていることは、アメリカの分断が修復されるのは容易では無いということだ。

トランプ大統領は選挙結果が出て早々に、「素晴らしい成果」とツィート。選挙後の国民の融和を呼び掛けることはなかった。また、選挙後の記者会見では、CNN記者を「フェイクニュース」と罵倒。

アメリカ社会の分断はアメリカ国内だけにとどまらず世界に影響を与える。しかし、それをを食い止める気がこの大統領に無いことも間違いなさそうだ。

(写真撮影:立岩陽一郎)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを一部負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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