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FBI長官解任でトランプ米大統領の姿が辞任した大統領とだぶり始めた

立岩陽一郎InFact編集長
FBI長官の解雇でホワイトハウス前には抗議の人々が(写真:ロイター/アフロ)

FBI長官を解任した米トランプ大統領。解任は火曜日だったが、メディアは40年以上前に起きた「土曜夜の惨劇」の再来と伝えている。それは、後に辞任に追い込まれるニクソン大統領が自身を捜査対象としていた独立検察官の解任劇を指す。多くの人に、トランプ大統領とニクソン氏が重なって見え始めた。

FBI長官の解任というトランプ大統領の決定を、本人のジェームズ・コミー氏は出張先のテレビで知ったという。最初は冗談だと思ったというからその驚きぶりがわかる。長官としての日程をこなす権限を失ったために、急きょ出張を切り上げ長官専用機に乗り込むコミー氏の姿が全米で伝えられた。

(参考記事:FBIをはじめとする情報機関が分析した大統領の報告書とは?

その異様な解任劇から、「土曜日夜の惨劇」という言葉を米メディアは一斉に使い始めた。これは、1973年10月20日、ニクソン大統領が自身の関わったウォーターゲート・スキャンダルを捜査するアーチ・ボルト独立特別検察官を解任した事案を指す言葉だ。今、多くの人が、その後に辞任に追い込まれたニクソン大統領とトランプ大統領をだぶらせ始めている。

ワシントンポスト紙のベテラン記者は、「ニクソン大統領がそうしたようにトランプ大統領も事件をもみ消そうとしていると思われても仕方ない」と話す。

その事件とは、ロシア政府が大統領選挙にハッキングによって関与し、そこに当時候補者だったトランプ大統領の陣営が関わっていた疑いがもたれているもので、FBIが捜査している。当時、オバマ大統領がウクライナ情勢をめぐってロシア政府に制裁を科しており、この制裁の解除について働きかけを受けていたかどうかも焦点となっており、ニクソン大統領が失脚した「ウォーターゲート事件」と事件の入り口をもじって「ロシアゲート」という言葉を使うメディアも出始めている

(参考記事:トランプ大統領の背後で暗躍するロシアの真の狙いとは)

大統領側は、今回の措置は民主党のヒラリー候補に対する電子メール事件の捜査に問題が有ったからだとしているが、それを鵜呑みにする関係者はいない。

公共放送NPRの記者は次の様に話す。

「クリントンの電子メールの事件へのコミー氏の対応については現在、司法省が調査をしており、解任するならば調査結果を受けて行えば良い話だ。また、電子メールの問題が理由であれば、そもそも大統領就任時に解任するのが筋だ」

FBIの関係者もNBCテレビに出て、「少なくとも、FBIの中では、トランプ大統領の陣営が捜査対象となっているロシア政府による選挙への関与が理由だと受け止められている」と話した。

トランプ大統領の就任式では多くの民主党議員が参加をボイコット。こうしたことも、スキャンダルに揺れる中で選挙に勝ったニクソン大統領の二期目以来だった。ニクソン大統領は独立検察官を解任して間もなく辞任に追い込まれている。

(参考記事:トランプ氏の大統領就任式に民主党議員が大量欠席 途中退陣したニクソン大統領以来の事態)

ワシントンで大統領の問題を追及している調査報道記者は次の様に話した。

「この大統領はどこまで信用できるのか、多くの米国人が不安に思っている。それが今回のFBI長官の解任劇で更に強まったのは間違いない。大統領が直ぐに失脚するということはないだろうが、中間選挙(2018年)の結果に大きく作用するだろうと思う。その時、議会の状況次第では弾劾手続きも可能になる。そうなると、ニクソン大統領と同じ状況に追い込まれるかもしれない」

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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