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米トランプ政権がアフガン内戦に再介入か 対北朝鮮圧力は弱まる可能性も

立岩陽一郎InFact編集長
アフガニスタン政策の転換を伝えるワシントンポスト紙(9日)

国外での紛争介入に消極的な姿勢を示していた米トランプ政権だが、アフガニスタンへの軍の増派に向けて検討に入った。今月中にトランプ大統領が決断するものと見られるが、増派を決めると米国の対アフガニスタン政策は大きな方針転換となる。

(参考記事:トランプ大統領が会見で狙ったものは)

ワシントンポスト紙が9日伝えたところによると、増派の計画はトランプ政権の安全保障と外交に関わる幹部によって練られ、トランプ大統領の判断を仰ぐだけとなっているという。

(参考記事:シリア空爆を命じた米トランプ政権の危うい情報分析)

それによると、アフガニスタンに3000人規模の軍を派遣するとともに、オバマ政権時代に決めた戦場に出ないなどの制限を撤廃して自由に活動できるようにするという。これによってタリバンに軍事的な圧力をかけて、交渉の席につかせるのが狙いだという。

現在、アフガニスタンには8400人の米軍が駐留しており、この増派によって現地に駐留する米軍兵力は10000人を超える。また、活動地域の制限がなくなることで戦闘行為に参加する可能性が出てきたため、ワシントンポスト紙は、「これによって事実上、米国はタリバンとの戦争を再開することになる」としている。

オバマ大統領がアフガニスタンでの戦争の終結を宣言している。このため、現在はアフガニスタンに駐留する米軍も直接、戦闘には参加していない。

記事では、トランプ大統領が承認するかどうかは定かではないとしつつも、計画はトランプ大統領の「タリバンに勝たねばならない」という考え方に沿ったものだとして、今月25日にブリュッセルで開かれるNATOの会議で発表される可能性が高いとしている。

一方でトランプ大統領は就任100日のメッセージでも、他国での紛争への介入に消極的な姿勢を示している。トランプ大統領がどのような判断を示すかワシントンの外交団は強い関心を持って対応を見ている。

米国務省で長くアジアを見ていた元外交官は次の様に話している。

「トランプ大統領のこれまでを見ていると、軍の提案はほぼ希望通りに通しているという印象がある。その結果、シリアに手を出したかと思えば、次はアフガンという対応に、どのような外交戦略が有るのか見えない」

(参考記事:トランプ政権下で噂される国務省の機能不全)

その上で、元外交官は、アフガニスタンに介入するとなれば対北朝鮮政策も影響を受けると話す。

米軍は現状では二正面で大規模な軍事作戦を展開する力を持っていない。仮にアフガンへの介入が本格化すれば、暫くはそこに専念せざるを得ない。北朝鮮に軍事力の行使をちらつかせたとしても、実際に使うことはできない。それは相手にも見透かされるだろう

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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