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米トランプ大統領、起死回生の税制改革案に早くも批判 国内政策は行き詰まりの可能性も

立岩陽一郎InFact編集長
ホワイトハウスで大統領専用ヘリコプターを降りる米トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

29日に就任100日を迎えたトランプ米大統領だが支持率の低迷はかつてない状況。それを打開するために急きょ発表されたと見られている税制改革案だが、早くも批判の声が出ている。医療保険制度改革に続いて、この改革も頓挫すると、国内政策の多くが行き詰まることになり、大統領の求心力は急激に失われることになる。

トランプ大統領は就任100日を前に、法人税を35%から15%に引き下げる他、個人の所得税は、最高税率を35%に引き下げ、現状7段階ある税率区分を10、25、35%の3段階に簡素化するとした税制改革案を発表した。こうした一連の減税でも、経済成長によって税収は賄えるというのがトランプ政権の主張だが、早くも批判の声が出始めている。

このうちワシントンポストは27日のコラムで、「税制改革案は単純な算数もできていない」と題して、仮に経済成長が実現できたとしても減収分を賄う計算にならないと批判。

コラムはワシントンポスト紙で政治記者、ロンドン特派員などを経験したユージン・ロビンソン解説委員が執筆した。

コラムでは、税制改革による経済成長で2兆ドルの増収が見込めるとの米政府の予測が仮に正しかったとしても、研究機関などが減税による減収を6兆ドル余りと試算している点を指摘し、残りの4兆ドルをどうやって穴埋めするのか答えが出ていないと疑問を投げかけている。そして、「この改革案に賛成する者は誰一人として今後二度と財政再建を口にすることは許されない」と批判している

トランプ大統領は選挙戦で米国の財政赤字の問題を指摘し、歴代の大統領の政策を批判してきた。しかし、先に議会に提出した予算案では各省庁の予算を大幅に削減したものの、国防予算は史上最高の上げ幅にしている他、1兆ドル規模の公共工事を行うとして支出の削減とはなっていない。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (14)~米トランプ大統領が拒否する所得証明書の開示がなるか?)

また、トランプ大統領が自身の納税資料の開示を拒んでいることから、民主、共和の両党から批判が出ている。税制改革によってトランプ大統領自身が利益を得るのか否かがわからないと議論に着手できないとの指摘もある。

今回の改革案は就任100日を前に、歴代最低となっていた支持率を回復する狙いが有ると見られているが、極めて厳しい状況が予想されている。

トランプ大統領を取材しているNPOメディアの調査報道記者は、次の様に話している。

「改革案はその詳細まで明らかになっていないが、特に事業を行っている経営者にとって有利なものになっていると読める。それはトランプ大統領本人が極めて大きな利益を得ることを意味するわけで、恐らくトランプ大統領に対する批判は強まるだろう」

(参考記事:税務情報を開示しないトランプ米大統領を主要メディア各社が批判 政策推進に黄信号と)

また、公共放送NPRの記者は、「税制改革はそう簡単に議会でまとまらないだろう。そうなると、公約とした国内政策は何一つできないことになる。そうなると、国内の支持率の行き詰まりを海外での何かしらの行動で打開するという考えは出てくるだろう。むしろ、そちらの方が懸念されるかもしれない」と話している。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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