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トランプ米大統領がもう1人の最高裁判事指名の準備か 実現すれば米社会の保守化は必至

立岩陽一郎InFact編集長
ゴーサッチ最高裁判事の就任式に出るトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

指名した最高裁判事の承認を勝ち取ったばかりのトランプ米大統領だが、もう1人の最高裁判事の人選に入ったようだ。引退が噂されるリベラル派の判事の後任指名となる。仮にこの人選が通ると、米国社会は一気に保守化することが避けられない。

米国の最高裁判事は9人。トランプ大統領は空席になっていた最高裁判事に保守的なニール・ゴーサッチ判事を指名し、上院の承認を得た。これで、最高裁判事は保守派の判事が5人と多数を占めることになった。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (20)~トランプ大統領が連邦最高裁判事を指名で、更に米国の分裂が深まるとの懸念も)

そして、今、80歳のアンソニー・ケネディー判事が6月末で引退するのではないかとの噂が飛び交い始めており、トランプ大統領が後任の人選に入ったようだ。米ブルンバーグニュースが報じた。

ケネディー判事は共和党保守派のレーガン大統領によって指名されたものの、妊娠中絶を認める最高裁判決や同性婚を認める最高裁判決を書くなど、その是々非々の態度がリベラル派の判事と数えられている。

トランプ大統領の支持者は妊娠中絶や同性婚について禁止する最高裁判決を求めており、ペンス副大統領もその意向を表明している。このため、ケネディー判事の後任に保守派の判事を送り込むことで最高裁に保守派の判事6人を確保したいところだ。

日本とは異なり、米国は最高裁の判断が全てを決める。司法判断を行政判断が無視するということはあり得ない。大統領が最高権力者である理由は最高裁判事を指名する権限を持っているからだと指摘する識者もいる。大統領は最長で8年しか任期がないが、最高裁判事は終身制だ。先に任命されたゴーサッチ判事は49歳という若さから、今後数十年間にわたって米国社会の規範を作ることになる。

一方で最高裁判事は大統領によって指名されることから、保守派かリベラル派かが常に議論になる。他方、現実にはケネディー判事のように、指名した大統領の期待するような判断をしているわけではない。

因みに、現在の最高裁判事は以下のようになる(年齢順)。( )内は指名した大統領

ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事(クリントン大統領)84歳

アンソニー・ケネディー判事(レーガン大統領)80歳

スティーブン・ブライアー判事(クリントン大統領)78歳

クレアレンス・トーマス判事(ジョージW・ブッシュ大統領)68歳

サミュエル・アリート判事(ジョージW・ブッシュ大統領)67歳

ジョン・ロバーツ判事(ジョージW・ブッシュ大統領)62歳

ソニア・ソトマイヤー判事(オバマ大統領)62歳

エレーナ・ケイガン判事(オバマ大統領)52歳

ニール・ゴーサッチ判事(トランプ大統領)49歳

仮に、6人目の保守派の判事が誕生すると、米国は1930年代以来の保守的な最高裁が誕生するとの指摘も出ており、米国社会が一気に保守化することは避けられない。

※「必ずしも指名した大統領の意向を汲む判断をするわけではない」という文章を削除し、その部分を訂正しています。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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