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北朝鮮報道に求められるファクトチェック

立岩陽一郎InFact編集長
米政府の北朝鮮対応について話すジェームズ・ローゼン記者(FOXニュース 14日)

北朝鮮情勢に絡んで緊迫した状況を煽るような報道が日米で散見される。中には事実と異なる内容を報じているものも見られる。冷静な報道が求められる中で、報道の真偽を精査するファクトチェックが必要かもしれない。

米主要テレビのFOXニュースは金日成主席の生誕記念に合わせて14日、各記者や識者が出て今後の成り行きなどを議論。この中で、ワシントン支局チーフのジェームズ・ローゼン記者が、「トランプ政権は状況次第で北朝鮮を先制攻撃するのか?」と問われ、「そのような状況ではない。中国とともに圧力をかけ続けるが軍事力を直ぐに行使するという状況ではない」と語った。

米政府は北朝鮮への対応について、「圧力をかけ関与し続ける」という方針を採択。北朝鮮の体制を転覆させるのではなく、あくまでも核の放棄を迫る方針を示しており、FOXニュースの報道はその線に沿ったものとなっている。

北朝鮮報道をめぐっては米NBCが13日にスクープとして、「米政府は北朝鮮を先制攻撃する準備を進めている」と報じている。これについてホワイトハウスは否定。FOXニュースの情報機関担当記者や国防総省担当記者が誤報だと指摘し、無責任な報道に注意が必要だとした。

米政府は北朝鮮近海に、原子力空母カールビンソンを中心とする空母打撃群(機動部隊)を派遣している。また、トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に、「North Korea is a problem and the problem will be taken care of(北朝鮮は問題で、我々は対処する)」と発言している。それが様々に解釈されているものと見られるが、これまでどちらかというと扇動的な報道で視聴者にアピールしてきたFOXニュースがここに来て冷静な報道を呼び掛ける皮肉な事態となっている。

こうした中、日本でも、北朝鮮報道で事実と異なる報道が指摘されている。Yahooニュースで不破雷蔵氏が最初に指摘したもので、トランプ大統領がこの空母打撃群について「無敵艦隊を派遣した」と話したと各社が報じているのだが、実際には大統領はそうした発言をしていない。

(参考記事:米トランプ政権、北朝鮮との事実上の「協議」入りをドタキャン(36))

トランプ大統領の発言はFOXニュースのインタビューに応じた時のもので、「We are sending an armada- very powerful. We have submarines- very powerful」と話している。

トランプ大統領の口にした「an armada」は船団を意味する一般名詞で、正確に訳すならば「我々はとても強力な艦隊を派遣している」というものだろう。ウエブスター辞書では、「an armada」の用法として「an armada of fishing boats」つまり「漁船団」などを挙げている。

因みに「無敵艦隊」を意味する言葉には「the Armada」がある。誤訳したということなのだろうか。何かしらの意図があったのであれば、緊迫した状況を更に煽っていると批判されても仕方ないだろう。これについて、ファクトチェックを行っている日本報道検証機構が「無敵艦隊」と報じた経緯について各社に確認を行っている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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