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シリア空爆を命じた米トランプ政権の危うい情報分析

立岩陽一郎InFact編集長
米中首脳会談からホワイトハウスに戻るトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

シリア空爆を命じたトランプ大統領はどのような情報を得て判断しているのか。実は、トランプ大統領に毎日行われる情報機関などからの情勢説明と分析の説明は歴代大統領に比べて圧倒的に少なく、複数の見方を排除する形で行われているという。米国の調査報道NPOが報じている。

米大統領が軍事行動などを判断する際の重要な基準となる情報機関などの説明は、その頭文字からPDB(President Daily Briefing)と呼ばれて、毎日行われている。そこでは、情報機関のトップらから世界の様々な情勢やそれについての情報機関の分析が大統領に伝えられる。

これについて米の調査報道NPOメディア「マザージョーンズ」が調べたところ、トランプ大統領になってからPDBの説明に新たな決まりができていたことがわかったという。「マザージョーンズ」がPDBの新たな決まりを記したガイドラインを入手して分析したという。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (27)~「トランプ船に乗った安倍総理」 米ジャーナリストから見た日米首脳会談)

記事によると、新たな決まりでは、大統領への説明は極めて簡潔に書くことになっており、報告すべき情報を短く記すとともに、それについての分析を簡潔に記すとなっている。そして、議論が分かれるものや分析結果が相矛盾する場合でも、絶対に複数の見解を記さないという。このため、記事は、「反対意見や複数の相反する分析などが示されていない可能性が高い」と懸念を示している。

その結果、トランプ大統領への説明は歴代大統領に比べて圧倒的に分量が少なく、オバマ大統領への説明の4分の1程度となっているという。

http://www.motherjones.com/politics/2017/02/classified-memo-tells-intelligence-analysts-keep-trumps-daily-brief-short

トランプ大統領がシリア空爆を決定したのは、このPDBで示された2枚の写真だったとされる。そこでは化学物質被害に苦しむ市民の姿が映し出されていた。

ワシントンポスト紙はこのトランプ大統領に対するPDBでの説明について、文章は短く簡潔に、グラフィックと写真を使うことになっていると報じている。

今回のシリア空爆についてトランプ政権は化学兵器を使ったシリアのアサド政権へのメッセージだとしているが、トランプ大統領はアサド政権に厳しい姿勢を示してきたオバマ政権を批判してきた。そして、アサド政権を認めた上でロシア政府と協力してISイスラム国に対するべきとしていた。また、外交政策についても、「米国第一」を掲げ世界の紛争に介入することに否定的な見解を示してきた。

今回の空爆がトランプ政権にとって今後の中東政策や外交政策全般の転換を意味するのかについては、これまでのところ具体的な説明は無い。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (22)~ケネディ前駐日大使、トランプ大統領の外交政策に憂慮示す)

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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