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米のシリア空爆の裏に側近らの大統領へのある対応があった

立岩陽一郎InFact編集長
記者の取材に応じるトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

従来の主張を覆してシリア空爆を命じた米トランプ大統領。その裏には側近たちの大統領に対する特別な対応が有った。ワシントンポスト紙が8日、伝えた。

記事によると、トランプ大統領は化学兵器による攻撃で被害を受けたシリア人の写真を見て心を動かされたという。特に、ぐったりした子供たちが神経性の物質を落とすために水をかけられている写真と、悲しみにくれた父親が白い布に覆われた双子の幼児を抱いた写真の2枚に衝撃を受けたという。

側近の1人は、「その姿は、最高司令官であると同時に、子を持つ父であり、孫を持つ祖父のそれだった」と語ったという。

ところが、その裏には側近らによる大統領への特別な対応が有ったという。

トランプ大統領は会社経営時から、文書による報告には目を通さないことで有名だった。部下が束になった書類を持ってくると不機嫌になり、「手短に説明できない報告をするな」と怒鳴ったという逸話もある。

そこで、政権発足後、トランプ大統領の側近らはある対応を決めたのだという。ワシントンポスト紙によると、それは、「大統領に説明する際は、文章は極めて短く簡潔に、そしてなるべくグラフィックと写真を使う」というものだったという。そして、今回もその手法がとられたのだという。

側近がシリア空爆にトランプ大統領を誘導したということではないが、結果的に、側近らが用意した写真がトランプ大統領の心を動かす結果となったことは間違いない。

トランプ大統領はこれまでシリアのアサド政権に厳しく対処するオバマ政権に対して否定的な発言を繰り返してきた。ニューヨークタイムズ紙によると、オバマ大統領との会談でもアサド政権を敵対視することに意味はないと発言していたという。

ホワイトハウスの関係者はワシントンポスト紙の取材に対し、トランプ大統領の判断が感情的なものに端を発したことは認めつつ、その後の判断は補佐官らとの議論を経て決まったので問題無いと話している。

公共放送NPRの記者は、「正直言って、今回の対応は全てのタイミングが良すぎてよくわからないところがあるが、批判はあまり多く聞かれない。しかし、大統領の判断が感情によって決まるという事態は当然あってはならない。仮に、北朝鮮で苦しんでいる子供の写真を見てことを決めるということになったらどうするのか?これは深刻に考えないといけない」と話している。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (22)~ケネディ前駐日大使、トランプ大統領の外交政策に憂慮示す)

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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