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米国で党派を超えてブッシュ元大統領の人気が急騰

立岩陽一郎InFact編集長
トランプ大統領の就任式に出席したブッシュ元大統領(写真:ロイター/アフロ)

就任から50日近くが経つ米トランプ政権だが、トランプ大統領の過激な発言と排他的な政策が米国を分裂させるのではとの懸念を生じさせている。こうした中、保守、リベラルの双方で、ブッシュ元大統領への人気が高まっている。新聞、テレビは連日、元大統領の話題やインタビューを取り上げており党派を超えて元大統領を評価する声が高まっている。

ブッシュ元大統領は今年、「Portrait of Courage」という本を出版。これは、イラク戦争で心身に障害を負った元兵士の姿を元大統領自身が油絵で描いたもので、元兵士との交流などがつづられている。

この本の出版をきっかけに、米国の新聞、テレビは元大統領のインタビューや911の時のエピソードを伝え始めている。この中で特に触れられる機会の多いのが、911の直後、ブッシュ元大統領が、イスラム教は平和の宗教であり、イスラム教徒とテロリストを混同してはならないと訴えた部分だ。これを、トランプ大統領の出した、事実上のイスラム教徒の入国禁止となった大統領令と対比させて伝えるメディアが多い。

またブッシュ元大統領はNBCテレビとのインタビューで、1人の元兵士について紹介し、「戦場で足を失った彼は、不法入国者を両親に持つドリーマーだ」と話した。そして、記者から、「不法入国者の子供も、米国人なわけですね?」と問われると、「米国の為に戦って足を失った彼が、米国人じゃないと誰が言えるのか」と応じた。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (20)~トランプ大統領が連邦最高裁判事を指名で、更に米国の分裂が深まるとの懸念も)

このインタビューで、メディアとの関係について問われた元大統領は、「私はメディアは民主主義にとって不可欠な存在だと考えている。権力は腐敗しがちだ。だからメディアによる権力の監視は米国だろうと他の国だろうと必要だ。私は在任中にプーチン大統領に対して、独立したメディアや報道の自由の重要性について何度か話をしたが、自分の国にそれが無ければ、それを話すことはできないだろう」とも話している。

現職のトランプ大統領は、不法入国者を徹底的に取り締まる方針を示している他、自分に批判的なメディアに対して「フェイク・ニュース(偽のニュース)だ」として記者会見から締め出すなどの対応をとっている。

トランプの米国とどう向き合うか? (25)~”トランプ大統領!米国はグローバル化しているって、でまかせですよ”リポートを米有力紙掲載

元大統領は現職大統領への直接的な批判こそ口にしていないものの、質問に答える形でトランプ大統領に再考を促そうとしたと見られている。

ワシントン・ポスト紙で長く政治を取材してきた記者は次の様に話す。

「在任中はイラク戦争開戦への経緯などから批判されてきたブッシュ元大統領だが、トランプ大統領と比較するとましだったんじゃないかということだと思う。確かに、前任のクリントン元大統領や後任のオバマ前大統領への批判を口にしない姿勢や、自分が送り出して負傷した元兵士と接し続ける姿が多くの人の共感を呼んでいる部分もある。トランプ大統領に元大統領の声が届いてくれればと思う人は多いだろう」

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (22)~ケネディ前駐日大使、トランプ大統領の外交政策に憂慮示す)

※記者のコメントを、本人に確認して修正しています。「攻撃」を「批判」にしたこと、ブッシュ元大統領の評価が高まっているのは、あくまでも現職大統領との比較の中でのことという点を修正しました。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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