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米トランプ政権で幹部の登用に忠誠心求める まるで「独裁国家」との批判も

立岩陽一郎InFact編集長
フロリダの集会に夫人と参加するトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

米国にトランプ政権が誕生して20日で1か月。しかし各省庁で幹部職員が任命されず欠員となるケースが目立っている。米有力紙は、過去にトランプ大統領を批判した人物を外しているために人材が集まらないと指摘。大統領への忠誠心を判断材料にする対応に、まるで「独裁国家」との批判も出ている。

●政治任用の幹部欠員が続く

現在、閣僚15人のうち、まだ6人が決まっていないなど、政権の陣容が固まらない状態が続く異例の事態となっている。その結果とも言えるが、4000人以上とも言われる各省庁の政治任用の幹部が決まらない状態が続いている。

(参考記事:トランプ政権を痛烈に批判する米お笑い番組の気骨

こうした中、その内情を18日付のニューヨーク・タイムズ紙が証言者の実名入りで報じた。証言したのは、エリオット・エイブラム氏。レーガン政権時代に国務省の幹部に登用され、以後、共和党の外交、安全保障政策に助言を行ってきた。

●トランプ大統領を批判した過去を問題視

エイブラム氏は、トランプ政権側から外交、安全保障の役職につける人材についてリストを求められて提出してきたが、全員が採択されなかったという。その理由について、政権側から、過去にトランプ大統領を批判したことがあるという理由が示されたという。

その後、エイブラム氏は自身が国務省の幹部への就任を打診されてトランプ大統領と会ったのだが、後に任命しない旨、言い渡されたという。その際も、トランプ大統領を批判した過去の発言を問題にされたという。こうした人事采配の結果、ティラーソン新国務長官を補佐する国務省の幹部職員がいない事態となっている。

(参考記事:トランプ次期大統領(当時)が会見で狙ったもの

●任命後でも過去の発言で解雇

また、ニューヨーク・タイムズ紙は、既に任命されて実務についていた幹部の1人が解雇されたとも報じている。それは過去にトランプ大統領を批判していた発言が明らかになったためだったという。

ロシア政府との不適切な接触が明らかになって辞任したマイケル・フリン国家安全保障担当補佐官の後任も決まらない。指名されたロバート・ハワード海軍提督が辞退。その理由について本人は明言していないが、トランプ大統領の政策に同調できないためとの指摘が出ている。

●どこかの独裁国家のよう

ワシントン・ポスト紙で経済官庁を取材している記者はその状況を独裁国家のようだと嘆く。

「まるで、どこかの独裁国家のような極めて異常な状態だ。忠誠心を判断材料にしての政治任用なんてこの国では聞いたことない。政治任用というのは、その政権の進める方向で政策を遂行できる優秀な人材を登用する点に意味があるのであって、大統領のイエスマンを登用する制度じゃない」

そして次のように現状を語った。

「普通なら、政権がかわって直ぐのこの時期は外交、経済の官庁では各国との交渉や打ち合わせがどんどん入るのだが、何もない状態だ。やはりこの政権は異常だ」

(参考記事:大統領就任式に民主党議員が退去欠席 途中退陣のニクソン氏以来

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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