米中戦争前夜という目くらましに騙されてはならない

フーテン老人世直し録(528)

葉月某日

 米大統領選挙を前に米中対立が先鋭化している。7月末には米国がテキサス州ヒューストンにある中国総領事館を「諜報活動の拠点」として閉鎖させ、中国は報復として四川省成都にある米国総領事館を閉鎖した。この事態をメディアは「米中戦争前夜」と報道した。

 8月に入ると米国は10日にアザー厚生長官を台湾に派遣して蔡英文総統と会談させる。これは41年前の台湾との国交断絶以来最高位の高官の台湾訪問である。「1つの中国」を米中関係の原則とする中国にとっては重大な内政干渉になる。そこで中国は香港の民主活動家を逮捕して米国の内政干渉には一歩も引かない構えを見せた。

 すると米国は13日、ポンペイオ国務長官が米国の大学などと連携して中国語を教える機関「孔子学院」を、「中国政府の政治宣伝を行っている」として米国の管理を強める方針を打ち出した。今後「孔子学院」は、職員名や運営資金、教育内容などを米国政府に届け出ることが義務付けられる。

 米国には「孔子学院」が75か所あると言われるが、閉鎖するところが出てくる可能性がある。一方、オーストラリアやスウェーデンなど西側諸国でも国内にある「孔子学院」閉鎖の動きがあり、日本に15校ある「孔子学院」にも影響は及びそうだ。

 まさに第二次大戦後の米ソ対立を思い出させる米中対立の先鋭化だ。しかし本当に「戦争前夜」かと言えばフーテンはそう思わない。「戦争前夜」と思わせるところに政治のツボはある。政治は対立を国民に思い込ませて「目くらまし」にし、国民が「目くらまし」されているうちに本当の狙いを実現する。

 今回「戦争前夜」の状況を作り出した米国の思惑には2つの理由があると思う。1つはこの秋の大統領選挙で民主党大統領候補のバイデンを中国寄りと思わせて自らを有利にしようとするトランプ大統領の思惑。

 もう1つはソ連崩壊後の米国の一極支配を終わらせ、米国の負担をなくしていったんは身軽になり、その後に再度世界制覇の準備を進めようと考える勢力の思惑である。トランプはその先兵の役回りを演じているというのがフーテンの見方だ。

 冷戦が終わる頃から米国議会をウォッチしてきたフーテンは、米国と中国の関係が表面的な対立関係とは異なり、目に見えぬ絆で結ばれているように見えた。共産主義と資本主義の対立とは異なる何かを感じさせるのだ。

 米国務省の高官から「日本は米国が最も理解しにくい国」と言われ、「中国よりもか」と問い直した時に、即座に「中国はよく理解できる」と言われたことがフーテンにはショックだった。彼の説明によれば米国にとって中国は日本よりはるかに近い国なのだ。

 そう言えば、米中国交正常化交渉を行ったキッシンジャーと周恩来との間で、「米国と中国には戦略的思考があるが、日本人には戦略的思考がない」という会話が交わされ、そして2人は日米安保条約が日本をコントロールする「ビンの蓋」だとして、米中双方に利益になることを確認し合った。

 日本人の中で日米安保条約をそのように理解する者は皆無に近い。日米安保条約があるから日本は中国の脅威に対抗できると思う者が圧倒的多数である。しかし米中双方にはそれと真逆の考えをする者がいる。日本人はそれを肝に銘じておいた方が良い。

 米国議会を見ていると、米国議員の中に「我々は戦勝国で日本は敗戦国」という意識が拭い難くあることを痛感する。日本が米国のやり方に異議を唱えると、彼らは必ず「文句があるなら戦争に勝ってから言え」と言う。

 宮沢喜一総理が日本の国会で米国のマネーゲーム経済を批判し、「額に汗して働くことが大事だ」と発言した時、米国議員の怒りは強烈だった。「俺たちを怠け者だと言うのか。戦争に勝ったのはどっちだ。もう一回原爆落とさなければ日本人は目が覚めない」と議会で発言する議員がいた。

 町村信孝外務大臣は米国から「中国の脅威」を理由に対中包囲網に協力するよう言われたが、日本にそう言いながら米中の軍同士は合同訓練を行っている。町村氏がそれを疑問視すると、米国から「それは戦争に勝ってから言え」と一蹴された。

 米中の特別の関係は今から100年以上も前に米国が精華大学を設立した頃から始まるとフーテンは考えている。精華大学は北京大学と並ぶ名門校で習近平国家主席もその前の胡錦涛国家主席も卒業生である。その中国屈指の名門校が米国によって設立されたことを知る人は少ない。

 設立された目的は米国への留学生を教育する予備校だった。設立されたのは1911年の清朝末期だ。阿片戦争に敗れた中国には欧州からキリスト教宣教師が入り込み、布教活動を行っていたが、それに反発する民衆の中から反キリスト教運動が起こり、排外的な組織「義和団」が結成された。1900年、義和団は外国軍が駐留する北京を攻撃し、清朝の西太后も外国軍に宣戦布告する。「義和団事件」という。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の第一回日時:9月27日(日)午後3時から4時半まで。ご自宅のパソコンかスマホでご覧いただけます。日本と世界の動きを講義し,質問を受け付けます。会員制ですので https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。今入会なら会費2回分無料。録画でも視聴できます。

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