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GSOMIA破棄停止で勝ったとか負けたとか言う時か?

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(478)

霜月某日

 韓国大統領府は米国が主導して締結されたGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を破棄すると通告していたが、先週の金曜日にそれを停止すると発表した。また同時に日本の輸出規制強化に対抗するWTO(世界貿易機関)への提訴手続きも中断すると表明、輸出規制の見直しを視野に日韓で協議することになった。

 韓国が譲歩したと見える発表を受けてGSOMIA失効支持の多い韓国では、文在寅政権に対する批判が高まり、一方で日本の政府高官が「パーフェクトゲームだった」と勝利宣言を行ったことに批判も出て、日本ではなく米国の力が功を奏したとの見方に落ち着いた。

 しかし米国の力が功を奏したとの見方にフーテンは違和感を感ずる。もとより日本も韓国も米国の核の傘に守られ軍事的に保護下に置かれた従属国である。ところが強い立場の米国が、国務省と国防総省が総がかりで韓国を説得し、GSOMIA失効の6時間前ぎりぎりで回避させたことは、むしろフーテンに米国の力の衰えを感じさせた。

 誰が勝ったとか負けたとかいうより、米国の面目が丸つぶれになるのをようやく防いだとしか思えず、しかも日米韓の協力体制が維持されたと言いながら、日韓はもとより米韓の不信感も克服されてはいない。米国の対アジア外交の将来に課題を残す結果だと思った。

 トランプ政権は日本と韓国に対し、米軍の駐留経費を現在の5倍に増額するよう要求していると言われる。今回のGSOMIA問題でも韓国を説得する材料にこの駐留経費の問題が使われたという見方もある。そうなるとGSOMIAは維持されたとはいえ、日米韓の問題はより複雑化したとも言える。

 つまり韓国は輸出規制の問題で日韓が話し合いをする間はGSOMIAを維持し、WTOへの提訴も中断するが、話し合いがつかなければ、それらはまた元に戻る。そして輸出規制の背景には徴用工判決という歴史認識の問題があり、歴史認識の問題では米国が韓国の肩を持つ傾向がある。そしてGSOMIAが米国の要求する駐留経費の問題とも絡んできた。

 しかも今回の問題でトランプ大統領の考えがまるで見えないのが不気味だ。トランプは今「ウクライナ疑惑」で大変な状況にあるが、それだけに大統領選挙が本格化する前に北朝鮮問題で何かを打ち出すような気もする。ここは短絡的でなくじっくりと見極めた方が良い。

 

 フーテンが考える第二次大戦後の日米韓の歴史は次のようなものである。1910年の「日韓併合」で日本に統治されていた朝鮮半島は、第二次大戦の日本の敗戦によって独立する機会を得た。ところが日本と戦った米国は、日本がポツダム宣言を受諾する前にソ連に対日参戦を促し、朝鮮半島には北からソ連軍が侵攻した。

 そこで米国は38度線を境に北はソ連軍が南は米軍が日本軍の武装解除を行い、朝鮮半島を米ソ両軍がそれぞれ統治することになる。その3年後に大韓民国と朝鮮人民民主主義共和国が建設され、戦争に負けた訳でもないのに朝鮮半島は分断された。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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