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亥年の選挙を前に野党の存在感が希薄だった通常国会前半戦

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(430)

弥生某日

 2019年度予算が成立した。会計年度が4月から始まる国の予算が3月末までに成立するのは当然と言えば当然だが、しかし昔はそれが当然ではなかった。野党が予算案を成立させないようにして政権を追い込むのが毎度のことだった。

 かつての野党の常套手段は、予算委員会で予算案の欠陥を追及し修正させるよりも、予算案とは関係のないスキャンダルを追及し、閣僚が答弁に詰まると、それを口実に審議をストップさせ、予算案の成立を4月以降にずれ込ませることに力を入れた。

 新年度予算が成立しなければ、4月以降の政府は機能停止に追い込まれる。「刑務所の飯が出なくなる」と言われ、政府招待の外国からの賓客もお断りすることになる。その責任を取らせて内閣総辞職に追い込むのが「万年野党時代」の野党の抵抗だった。予算案を国民のために修正させることには力を入れなかった。

 平成元年の通常国会はその典型と言える。前年に竹下内閣は野党の反対を押し切って消費税法案を成立させた。ところがこの年は同時にリクルート・スキャンダルが火を噴き、リクルートから未公開株を貰った政治家の名前が次々に明るみに出る。そのため平成元年の予算委員会は「政治とカネ」の追及に明け暮れた。

 野党は審議拒否を繰り返して予算の成立を遅らせ、ついに4月25日に竹下総理は内閣総辞職を発表する。自分の首と引き換えに予算を成立させてくれというわけだ。それでも野党は審議に応じず、28日に憲政史上初めて与党単独採決で予算案が可決された。

 しかし本来の野党の役割は、与党から権力を奪い、自分たちの政策を国民に提供し、新たな国家像を創ることにある。それなのに予算成立を阻止し、総理を退陣に追い込んで何が得られるのか。内閣が総辞職しても次の総理が与党の中から出てくるだけの話である。

 野党が権力を奪うには、総辞職に追い込むのではなく、解散・総選挙に追い込まなければならない。ところが昔の野党はそれをしなかった。選挙に勝つには新しい総理に代えない方が有利なのに、その逆をやって鬱憤を晴らし、「内閣を打倒した」と自己満足するだけだった。

 フーテンは取材しながらつくづく日本には野党がない、いるのは政府与党を非難攻撃するだけの自称野党で、権力を奪う戦略を持っていないと思った。ところが国民はそれを野党だと思い込まされている。その根本を変えるにはどうしたら良いか。暗澹たる思いになった。

 それから30年、平成最後の通常国会で新年度予算案は可決・成立した。予算案の総額は史上初めて100兆円を超え、少子高齢化社会を迎えて社会保障費は過去最大、また米国にすり寄ることで権力を維持する安倍政権は、言われるままに米国製兵器を買わされ、防衛費も過去最大、さらに消費増税に備えた景気対策のバラマキも目に付く。

 しかし予算委員会でそうした問題の議論に時間が割かれた印象はない。昨年暮れに明るみに出た「統計不正」に時間が割かれたためである。厚労省の「統計不正」は昨年の通常国会でも問題になるなど深刻である。日本の基幹統計が少なくも15年前から信用できないことが明らかになった。

 日本の国の姿が正確に分からないのでは政策の作りようもない。ところがこの深刻な問題を取り上げるのに、野党第一党の立憲民主党は通常国会が始まる前から予算委員会で「根本厚労大臣の罷免」に攻撃の的を絞るという、昔の自称野党と似たようなことを幹部らが次々に口にした。

 「そんなに小さな問題なのか?」というのがフーテンの考えである。日本政府が15年間も不正な数字を隠蔽し偽装してきた罪を、現職閣僚の首を取ることだけで終わらせて良いのか。さらには予算委員会で追及する問題なのかという疑問だ。もっと時間をかけて官僚組織の根本にメスを入れる必要がある。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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