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河野太郎は60年前の藤山愛一郎の「密約交渉」をやらされるのか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(414)

睦月某日

 

 安倍総理は伊勢神宮参拝後の年頭会見で、今年の干支が己亥(つちのとい)であることから、前回の己亥は昭和34年で、それは日米安保条約の改定交渉が行われた年だと述べた。

 そして「先人たちは国論が二分する中で逃げることなく、国の行く末を見ながら決然と責任を果たし、改定された安保条約は60年後の今なお我が国の外交・安全保障政策の基軸である」と、祖父岸信介の果たした業績を讃えた。

 そのうえで「平成は冷戦が終結し国際情勢が激変した時代だが、我々も責任から逃げることなく、新たな外交の地平を切り拓いていかなければならない」と、ロシアとの平和条約締結交渉を中心に「戦後日本外交の総決算」を行う決意を表明した。

 一方で安倍総理は会見の最後に、「猪は猛烈なスピードで直進すると同時に、左右に身をかわし時にはターンする能力もある」とし、「今年の自分は猪と同じようにスピード感としなやかさを持って政権運営に当たりたい」と、意味深長な言葉を述べた。

 これらの言葉が示すのは、日ロ平和条約締結と衆参ダブル選挙に賭ける安倍総理の意欲ではないかとフーテンは思った。いずれも困難な課題で簡単に実現するとは思えないが、全く可能性がないかと問われれば、ないこともない。

 ロシアのプーチン大統領と米国のトランプ大統領の利害が一致し、安倍総理が両者から交渉しやすい人物と思われ、日本からの富の吸い上げに好都合と思われれば、ありうる。

 安倍総理は衆参ダブル選挙について「頭の片隅にもない」と全否定しているが、それは6月に日本で開かれるG20までに日ロ平和条約締結がまとまらない場合のことを考えているからだ。日ロ平和条約の締結がなければ、ダブル選挙で勝てる見込みはない。

 10月に予定される消費増税を再び中止し、それを問うための衆議院解散を言う人もいるが、2014年の衆議院選挙と同じ手法で、二匹目の泥鰌に騙される国民はいないと思う。やれば野党に敗北し政権交代が実現するだけだ。しかし、日ロ平和条約締結による2島引き渡しで国民の信を問うとなると、勝てる確率は高まると思う。

 問題は「2島引き渡し」の中身である。日本国民には「主権」が返還されたかのように見せかけ、一方でロシア国民にも「主権」がロシアにあると思わせる必要がある。そのぎりぎりを狙ったアクロバティックな交渉が出来れば平和条約の締結は可能になる。

 平和条約の締結が可能となれば、「頭の片隅にもない」と言い続けた安倍総理が、猪のように突然ターンし、急きょ衆参ダブル選挙に打って出るのである。参院選単独なら与党の敗北は必至で、安倍総理は退陣に追い込まれるが、ダブルなら与党勝利で安倍4選の可能性も出てくる。

 もちろん大博奕である。しかしフーテンは安倍総理が60年前の安保改定交渉に言及したことから、岸信介が行ったアクロバティックな交渉を思い出した。岸信介は外務大臣に財界人の藤山愛一郎を起用し、その藤山に米国側との密約交渉をやらせ、国民をうまく騙した挙句に、手柄を独り占めした。

 今回の平和条約締結交渉で安倍総理の露払いを務めるのは外務大臣の河野太郎である。その河野は北方領土問題に関して質問されると木で鼻をくくったように答えをすべて拒否する。政治家としてはどうかと思わせる異常な対応で、そうした対応を取らせる理由は何かをフーテンは気にしてきた。

 もしかして河野太郎は日ロ平和条約締結交渉で60年安保改定交渉での藤山愛一郎の役回りを演じさせられようとしているのではないか。そうだとすると日ロ平和条約交渉にも安保改定交渉と同様に国民を騙す手段として「密約」が使われる可能性がある。

 藤山愛一郎は財閥の二世である。父親が築いた藤山コンツェルンの後継者として戦前から岸信介のパトロンであった。岸内閣が誕生すると共産中国との関係を重視する岸は、同じ考えを持つ藤山を民間から外務大臣に起用した。しかし藤山はアジア外交より主に日米安保条約改定交渉に取り組む。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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