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敗者不在の中間選挙で追い詰められるのは安倍政権の日本である

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(402)

霜月某日

 米国の中間選挙は敗者不在の結果となった。下院では民主党が過半数の議席を奪還したが、上院では共和党が過半数を上回る議席増を果たした。

 出口調査を見れば、トランプ政権の2年間の実績を支持しない有権者が過半数を超え、さらにトランプ大統領の女性蔑視や銃規制反対の姿勢に反発した女性や若者の投票が増えたことで、民主党のペロシ院内総務は「米国の歴史は変わる」と勝利宣言を行った。

 しかし2020年の大統領再選を目指すトランプ大統領は、それを意識して大統領選挙のカギを握る州の共和党上院議員候補や州知事候補の応援に駆け付け、「11人中9人が当選した」として、こちらも「素晴らしい勝利だった」と勝利宣言した。

 選挙結果が判明した直後にトランプ大統領はペロシ院内総務に電話し、下院の選挙結果に祝意を述べると同時に、インフラ整備や通商などの分野で互いに協力できるはずだとして超党派の法案成立を推し進める考えを伝えた。

 一方のペロシ院内総務は、「トランプ大統領と妥協点を図る用意はあるが、譲れないところは譲れない」と納税疑惑やロシア疑惑で譲歩する考えのないことを会見で明らかにした。

 その後に記者会見を行ったトランプは、自らの納税疑惑やロシア疑惑で民主党が積極的な姿勢を見せれば報復に打って出ると警告し、ロシア疑惑について質問したCNNの記者を罵倒したうえホワイトハウス記者証を取り上げる露骨なイライラを見せた。

 そしてトランプが選挙後最初にやったことは、ロシア疑惑で自分を擁護しようとしないセッションズ司法長官の解任だった。大統領の人事権を使ってロシア疑惑を封じ込めようというのである。

 米国は三権分立の国とは言え、最高裁判事の任命は大統領が行い、上院が賛成すればそれで決まる。現在、モラー特別検察官がロシア疑惑の捜査に当たっているが、大統領には特別検察官を解任する権限もある。トランプは早々にそうした構えを見せたのである。

 下院を奪還したことで民主党は勝利宣言を行い、政権への打撃が必至なのにトランプ自身も勝利宣言を行い、2020年の再選に向けて布石を打ち始めた。その構図の中でどこにも敗者はいないのか。それをフーテンは考えた。

 最も敗者になりうるのは安倍政権の日本である。なぜならトランプも民主党も勝利宣言を行っているから米国内の分断は終わらない。終わらないどころかますます先鋭化する。その中で大統領と民主党が手を組めるのはインフラ整備や通商の問題である。

 政治というのは対立と妥協から進路を見つけ出すものだ。だから分断や対立が先鋭化すれば、手を組める分野の必要性も大きくなる。つまり米国の分断はこれまで以上に通商問題の比重を大きくする。

 米国にとって最大の通商問題は対中貿易赤字である。トランプはそれを解消するため、中国製品に対して大幅な関税引き上げを行ったが、中国は大国の面子もあり簡単には屈しない。するとそのマイナスが米国の製造業に及び、2年前の大統領選挙でトランプを支持した「ラスト・ベルト」と呼ばれる地域で今度は民主党が勝利した。

 つまり中国との通商問題は関税引き上げ一辺倒では解決しない。安全保障を絡めた多方面からの攻めが必要になる。すると通商問題で目に見える効果を出すには、弱い環としての日本を狙うことになる。自立できない日本は攻めれば簡単に屈服する。そして米国の対中戦略にも服従させ利用することが出来る。

 中間選挙の投票日に飛び込んできたニュースでフーテンが最も注目したのは、北朝鮮が米朝高官協議をドタキャンしたと伝えられたことである。それが本当なら民主党の下院奪還が現実になると見た北朝鮮は、早速トランプに揺さぶりをかけてきた。金正恩の外交力にフーテンは感心した。

 以前ブログに書いたが、トランプの2018年と2020年の2つの選挙戦略について、フーテンは次のような見方をした。まず国内問題に目が向けられればトランプは不利だ。ロシア疑惑、納税疑惑、セックス・スキャンダル等々。その目を外に向けさせて選挙を有利にする必要がある。

 そこで中間選挙の前には通商問題を、大統領選挙用には北朝鮮の非核化を切り札に使う。そのため一時盛り上げた北朝鮮の非核化を先延ばしにして、まずは通商問題を前面に出す。メキシコ、カナダとのNAFTA(北米自由貿易協定)、韓国とのFTA(自由貿易協定)の見直しを図り、さらにEU、日本、中国に対し関税引き上げを通告した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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