Yahoo!ニュース

トランプはやはり習近平と金正恩にすがり付くしかなくなる

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(397)

神無月某日

 10日のニューヨーク株式市場で株価が急落し、日本でも11日には1000円近い株安となり、その流れはアジア、欧州へと広まり世界同時株安の様相を呈した。

 米国のトランプ大統領は、中央銀行の利上げが原因だとして「FRBは狂っている」と非難し、「経済のファンダメンタルズは好調だから一時的な調整で元に戻る」と強気の姿勢を見せたが、一方ではトランプが仕掛けた中国との貿易戦争で経済の先行きが不透明であることから「一時的な調整では終わらない」とする悲観論もある。

 株価急落の前日にはニッキー・ヘイリー国連大使の年内辞任が発表され、その理由として本人が将来を考えトランプ大統領とは距離を置きたい意向があるとの見方が広まり、中間選挙まで1か月を切ったトランプ大統領に大きな打撃を与えた。

 そして注目すべきはトランプ政権がこのところ中間選挙に中国が介入していることをしきりに非難し、10日には米国から企業秘密を盗んだスパイとして中国の情報部員を逮捕・起訴したと発表したことである。これらは貿易戦争が「仁義なき戦い」に発展してきたことを物語る。その中で世界同時株安は起きたのである。

 フーテンはトランプ大統領の選挙戦略を次のように分析している。この秋の中間選挙では米国の貿易赤字解消の成果を国民に見せつけ、2020年の大統領選挙では北朝鮮の非核化実現を国民に見せつける。北朝鮮の金正恩とはおそらくそのことで話はついている。トランプが金正恩を「私の恋人」と呼ぶのはそのためだ。

 従って非核化のスケジュールはトランプの意向通りに金正恩は行うはずである。金正恩にとってトランプが大統領でなくなることは、せっかく積み上げてきた朝鮮戦争終結と経済発展への道が閉ざされることになるから悪夢である。だからトランプ再選に全力で協力する。ただ万一のことを考えトランプが再選されないうちに非核化に応ずることはしない。

 その約束が取り付けられたのでトランプにとって中間選挙前に北朝鮮問題を進展させる必要はなくなった。それよりも中間選挙用の貿易赤字の解消に全力投球することにした。そこでトランプは貿易赤字の対象国すべてに戦争宣言を行った。過去の栄光ある米国を取り戻すと言えば国民は拍手喝采するはずだった。

 トランプは次々にそれを実行する。同盟国であるEU、同じく同盟国で北米自由貿易協定を結んでいるカナダとメキシコ、同じく同盟国で自由貿易協定を結んでいる韓国、そして同盟国ではあるが二国間の自由貿易協定を嫌がっていた日本、それら同盟国に「関税を大幅に引き上げる」と脅して米国の要求を飲ませた。

 ところが米国の最大の貿易赤字国で仮想敵国である中国は頑として受け入れない。受け入れないどころか報復に打って出た。これはトランプにとって誤算だったのではないか。強硬な姿勢を見せればどこかで妥協してくると思っていたのに目算が外れた。

 そもそも大統領就任当初のトランプはブレーンの言動などから「対中強硬派」と見られていた。しかし彼の溺愛する娘イヴァンカは自分の娘に中国語を習わせ、中国の工場でイヴァンカ・ブランドの服飾品を作る実業家である。

 そして昨年11月の初のアジア歴訪でトランプは、同盟国の日本と韓国に対しては入国に際し米軍基地に降り立ち、日韓が属国であることを行動で世界中に知らしめ、一方で中国に対しては最大級の敬意を払い、また中国の習近平国家主席も最大級のもてなしでトランプを迎えた。  

 中国は1年間の対米貿易黒字にほぼ匹敵する28兆円の商談を成立させた。米国の航空機や半導体、農産品、天然ガスなどを米国から買うことを約束したのである。貿易赤字解消を掲げて大統領に就任したトランプには最高の贈り物だ。これに味を占めたトランプは二匹目の泥鰌を狙ったのだが、中国の態度はまったくトランプの思い通りにならなかった。

この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。

「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2018年10月

税込550(記事6本)

※すでに購入済みの方はログインしてください。

購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。
ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

田中良紹の最近の記事