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やはり毎週やってほしいと思わせた「党首討論」

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(372)

皐月某日

 もはや忘れかけていた「党首討論」が1年半ぶりに開かれた。日本の国会に「党首討論」が登場したのは1999年11月で、自由党が自民党と連立を組むにあたり、小沢一郎党首が小渕恵三総理に要求し「国会改革」の一環として実現した。

 これは英国議会が毎週水曜日に行っている「プライムミニスター・クエスチョン・タイム」を参考に、日本でも総理大臣と野党党首の間で討論を行うことになったのである。しかし二大政党制の英国の場合、首相と野党党首の二人きりで毎週30分間議論するのに対し、日本は野党が複数あり、討論時間を45分にしても野党党首一人当たりの持ち時間は短い。

 しかも総理が他の委員会に出席した週は開かないことになり、必ず毎週開かれる英国と異なり開かれないことが多くなった。そして第二次安倍政権ではついに1年半も開かれないままだった。それが復活したのは「森友・加計疑惑」の追及を逃れるのに時間の短い「党首討論」の方が都合が良いと判断されたからである。

 実際、立憲民主党の枝野幸男代表19分間、国民民主党の玉木雄一郎代表15分間、日本共産党志位和夫委員長6分間、日本維新の会片山虎之助共同代表5分間という時間配分では「徹底追及」は難しいと思われた。

 しかし国会を「徹底追及の場」と考えるのはかつての「55年体制時代」のイメージにとらわれ過ぎているからかもしれない。あの時代は社会党を中心とする野党が政府与党のスキャンダルを徹底追及して審議を止めた。国民に見えるのはそこまでである。野党支持者には徹底追及する野党が頼もしく見えたかもしれない。

 しかし本当を言えば審議が止まると国民の見えないところで与野党の秘密協議が始まった。秘密協議には与野党それぞれ一人だけが出て、すべての法案を「成立」させるか「継続」させるか「廃案」にするかに仕分ける。仕分けには労働組合の賃上げやスト処分などが取引材料となり法案の成立とバーターされた。

 そこで決まったことは他の政治家の誰にも教えない。当事者だけが腹に収める。「ディス・イズ・ポリティックス!」とフーテンに国会の裏舞台を教えてくれた竹下登元総理は言った。そして裏の秘密協議が終われば国会は何かを理由に動き出す。それは多くの国会議員も知らない世界の出来事である。

 その頃は国会審議を止めるため「徹底追及」が行われた。また「政権交代」を求めない野党だから「徹底追及」を行った。そして「政権交代」がないから与野党は裏で秘密協議を行うことが出来た。しかし選挙制度を変え「政権交代」が可能となった現在の与野党の在り方はそれとは異なる。野党の「追及」もかつてと同じで良いはずはない。

 野党支持者は激しい追及にうろたえる政府与党を見て留飲を下げたいのだろうが、「政権交代」が可能な与野党関係は大衆迎合の政治から脱却する必要がある。より理性的に国会の議論を見なければ「政権交代」は国論の分裂を招く。そういう視点で30日の「党首討論」から何が見えたかを振り返る。

 立憲民主党の枝野代表は「森友・加計疑惑」を取り上げた。枝野氏はまず森友問題の本質は安倍昭恵夫人がお付きの秘書官を通して森友学園を優遇するよう財務省に働きかけを行ったことにある。それは良いことなのかと安倍総理に質した。

 これに対し安倍総理は、森友問題の本質は国有地が安い値段で籠池氏側に引き渡され、また籠池氏の小学校がなぜ認可されたかにあると述べ、それは財務省が調査を行い、検察当局が捜査を進めていると答えた。財務省も大阪地検も行政府の一組織であり、行政府の最高責任者である自分や妻に追及が及ばないことを知ったうえでの答えである。

 次に枝野氏は、愛媛県や今治市に2015年の2月25日に加計孝太郎理事長と安倍総理が面会した記録があるのに、それを安倍総理が否定すると、加計学園も愛媛県や今治市に嘘の報告をしていたと発表したことで、安倍個人が嘘に利用されて怒らないのは構わないが、内閣総理大臣が嘘に利用されて見過ごすのはおかしいと詰め寄った。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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