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米朝首脳会談の「延期」「中止」「開催」は「あぶりだし」ではないか?

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(371)

皐月某日

 米国のトランプ大統領は23日未明(日本時間)に行われた米韓首脳会談後の記者会見で、6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談を「延期」する可能性に言及し、翌24日には北朝鮮の金正恩委員長に宛てた書簡で首脳会談の「中止」を通告した。

 米朝首脳会談の実現のために訪米した韓国の文在寅大統領の面子は丸つぶれ、何のための米韓首脳会談だったのかと思わせる展開だった。すると25日に金正恩委員長から文大統領に電話があり、急きょ2度目の南北首脳会談が26日に板門店で開かれた。

 27日午前に行われた文大統領の会見によると、2度目の首脳会談で金委員長は完全な非核化の意思を改めて表明し、米朝首脳会談の成功のため南北が緊密に連携していくことで一致したという。これは何かがあればすぐに南北が首脳会談を行い、米国の動向に関わらず南北が協力していく姿勢を示したことになる。

 一方、2度目の南北首脳会談を受けてトランプ大統領は記者団に「6月12日にシンガポールで会談を行う方針に変わりはない」と述べ、「12日は難しくなった」とする政権幹部の見方を伝えたニューヨーク・タイムズの記事を「大間違い」とツイッターで否定した。

 トランプ大統領が記者団に語った発言の中でフーテンが引っ掛かったのは「場所は言えないが、ここから遠くないところで北朝鮮側と接触しているが非常にうまくいっている」という部分である。「ここ」とは何処を指すのか。ホワイトハウスから遠くないという意味か。

 少なくもアジアやヨーロッパのどこかで米朝が接触しているということではないだろう。だとすると米国内で米朝の秘密接触は続けられていることになる。ニューヨークには国連本部もあり、米国内のどこかで接触が行われていても不思議ではない。

 4月初めに当時のポンペイオCIA長官が極秘訪朝したことから米朝首脳会談の現実味が増した。そのことからも分かるように、米朝は通常の外交ルートとは異なる諜報の世界で接触を続けている。その秘密情報はおそらくトランプと金正恩しか知らされていない。

 そしてトランプと金正恩は両方とも国内に強硬派を抱えており、その強硬派を押さえて事を進める必要がある。北朝鮮の強硬派はシンガポールでの開催に強く反対したが、それは金正恩が押さえた。一方で北朝鮮より難しいのは米国である。

 トランプは足を掬われないためどこにどういう反対者がいるかをあぶりだしながら事を進める必要がある。そうした場合の政治の世界の常套手段は、時折、観測気球を上げて周囲の反応を見ることである。

 この間のトランプによる米朝首脳会談の「延期」から「中止」へ、そして「中止」から「開催」へとめまぐるしく変わる方針の変更はそれを示しているのではないかとフーテンは考える。「延期」も「中止」も本音ではなく、その観測気球に国内勢力と外国勢力がどう反応するかを確かめる「あぶりだし」をかけたのである。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:3月31日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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