国会から逃げ回る安倍政権が炙り出した日本政治の欠陥
フーテン老人世直し録(335)
霜月某日
国会の追及から逃れるために臨時国会冒頭解散を行い、選挙後も臨時国会を開かせないつもりでいた安倍政権は、与党内からの批判もあり特別国会を12月9日まで延長することにした。
しかし野党の追及逃れを諦めたわけではなく、今度は質問時間の配分を見直し、野党に十分な追及時間を与えない作戦に出た。これまで全体の8割を与えられていた野党の質疑時間を3割に減らそうというのである。
この国会で野党が「森友・加計問題」を追及することは必至である。それを与党議員の質疑時間を増やすことで安倍総理ペースの答弁を国民に印象づけることが出来る。一方で野党の追及時間を短くすればだらだらと答弁を繰り返すことで追及をはぐらかせる。
そんな見え見えの策を弄してでも安倍総理は逃げ切りを図りたい。国会の追及を心底恐れている証拠と言える。仮にそれが実現すれば、国民は延々与党議員の「太鼓持ち」質問と、打ち合わせ済みの安倍総理の答弁という茶番劇をテレビで見せられることになる。
これは安倍総理の国政私物化を象徴する話で日本政治の現状そのものなのだが、一方で与党の若手議員による質疑時間配分見直しの理由を聞けば、投票してくれた有権者に自分の仕事ぶりを見せたいらしい。つまりテレビ中継を意識し選挙運動の一環として国会の質疑を捉えている。
そうなるとこれは安倍総理の国政私物化だけでなくもう一つの日本政治の歪みを提起することになる。つまりNHKの国会中継が日本政治に与える影響である。そこで議院内閣制の日本政治において国会審議の公開はどうあるべきかを考える。
日本人はNHKの国会中継を何の疑問もなく受け入れてきた。しかも英国や米国の議会関係者から長年にわたりそのことを批判されてきたことを知らない。日本は英米から国会審議をテレビ中継すれば議員が国益より自分の選挙区の有権者を意識し大衆迎合の議論を行うようになると批判されてきたのである。
大衆迎合の政治がナチスのヒトラーを生み出した経験を欧米は共有している。従って英国も米国もテレビ放送が始まっても議会のテレビ中継を禁止してきた。それが変わったのは米国がベトナム戦争に敗れ情報公開の重要性が意識されてからである。ポピュリズムに陥らない議会中継が民間のケーブルテレビ会社C-SPANによって始められた。
C-SPANは大衆迎合の政治家を生み出さない議会中継を考える。対立する政党の政治家同士が激論する審議は放送しない。議会が法案を審議する前に専門家を呼んで話を聞く公聴会を放送する。その方が国民に法案の意味を理解させるのに役立つからだ。党利党略の議論は民主主義を堕落させると考えられている。
1979年に下院から始まったC-SPANは、大衆迎合的な弁舌をふるう政治家が有利にならないことを確認した8年後に上院でも始まり、それを見て英国議会もベルリンの壁が崩れた89年にケーブルテレビで議会中継を始めた。
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