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「嘘つき内閣」は国民をあらぬ方向に扇動する恐れがある

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(319)

葉月某日

 3日の内閣改造後に記者会見を行った安倍総理は、冒頭「先の国会では森友学園への国有地売却の件、加計学園による獣医学部の新設、防衛省の日報問題など様々な問題が指摘され、国民の皆様から大きな不信を招く結果となりました。そのことについて深く反省し国民の皆様にお詫び申し上げたいと思います」と8秒間頭を下げた。

 最高権力者が頭を下げたということは、自らの非を認め不信を招いた原因を取り除く決意を示したと考えるのが普通だが、安倍総理の頭の中はそうなっていない。

 再び頭を上げると「5年前に私たちが政権を奪還したあの原点にもう一度立ち返り、謙虚に丁寧に国民の負託に応えるために全力を尽くす。政策課題に結果を出すことで国民の信頼回復に向けて一歩一歩努力を重ねる」と言い、新閣僚の任務についての説明を始めた。

 つまり安倍総理の頭は、森友問題、加計問題、日報問題など国民の不信を招いた問題は自分が頭を下げることで消え去り、内閣をリセットして新たな政策課題を打ち出せば国民はそちらに目を向け信頼回復は可能だと考えているのである。

 安倍総理にそのような思考を持たせた原因の一つは国民にある。「景気が良くなる」とささやいて鼻先にニンジンをぶら下げれば、それを信じて走る馬並みの国民だから「国民を舐めるな」と言っても舐めたくなるのは無理もない。

 安倍総理の会見から1週間後に開かれた日報問題を巡る国会の閉会中審査はそれを端的に物語るものとなった。南スーダンに派遣された陸上自衛隊の日報を巡り隠蔽が問題とされたが、誰がどういう形で関わったのか、内部調査の「特別防衛監察」は曖昧な結論しか出せなかった。

 そうした場合「普通の民主主義国」なら国民の代表が集う議会による調査が行われ議会が報告書を作成する。国民の税金で賄われる行政府の監視は議会の任務であり、国民に対する行政府の情報隠蔽があればそれを追及して開示させるのも議会の重要な仕事である。

 従って10日に行われた日報問題を巡る閉会中審査はその入り口に当たるものと思われた。ところが問題の主役である稲田前防衛大臣、黒江前防衛事務次官、岡部前陸上幕僚長はいずれも辞任したことを理由に与党が出席を拒否した。

 その理由が理解しがたい。「辞任という最高の形で責任を取ったのだから議会に呼ぶ必要はない」というのである。辞任は本人の勝手な行為である。その勝手な行為が問題解明の障害となってはならない。辞任と問題解明は別問題である。

 なぜ隠ぺいが起きたかは将来の日本の国家統治を誤らせないために解明しなければならない。当事者の辞任で日本の未来を失ってはならない。おそらく出席しなかった3人の中には国会で証言する覚悟の者もいたのではないか。

 それをさせなかったのは安倍総理を筆頭とする政権の意向だとフーテンは思う。そしてその意向を受けて言いなりになった与党執行部が情けない。議院内閣制に於いて政権と与党は基本的には一体だが、それは国民に公約した政策についてである。政策を巡っては国会内で与党と野党は対立し与党は政権を守る側に立つ。

 しかし役所が国民に情報を隠蔽し、あるいは権力者のスキャンダルが問題となった場合はそれと同じでない。議会は行政府の監視役としての役割を果たさなければならない。与野党が協力し役所や権力者を調査する側に回るのである。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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