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追い詰められれば強行姿勢を採るのが権力の常

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(303)

皐月某日

19日の衆議院法務委員会で安倍政権はいわゆる「共謀罪」の採決を強行、直後に加計学園を巡る問題文書の存在を「確認できなかった」と発表して調査を打ち切った。一般の国民には「安倍一強」が思い通りに政治を操っているように見えるかもしれないが、政治の内実とはそうしたものではない。

国民の賛否が分かれる法案を野党の反対を押し切って採決することも、同じ日に多くが認める文書の存在を打ち消すことも、安倍政権が追い詰められているからこその行為であり、権力が万全であるなら別の対処が考えられる話である。

安倍政権は現在まさに追い詰められているのである。追い詰められているからこそ弱みを気取られぬよう平静を装い強い態度で押し通す。少しでも弱みを見せればそこから付け込まれるという恐怖感が強い態度を必要にさせている。

従って安倍政権はこれからも強い態度を貫き続けることになる。それが続くとどうなるか。フーテンはこれまで権力の強さと弱さ、その栄枯盛衰を見てきたが、権力が強くあり続けなければならなくなった時に権力は崩壊を始める。内部からの自壊が始まるのである。

文科省から加計学園の問題で内部文書がリークされたのはその一端だが、安倍政権内部の自壊現象が見え始めたのはこれが初めてではない。森友学園問題が発覚して以来、安倍政権の打つ手はことごとく裏目に出たが、その裏目の出方が尋常でない。そこにフーテンは権力の崩壊を感じていた。

初めに異様だったのは森友学園の国有地払い下げに安倍総理が「自分も妻も事務所も一切関係がない。あったら総理も国会議員も辞める」と答弁したことである。よほど深刻な問題が背後にあると感じさせた。何もなければあれほど強い否定をするはずはない。

一方の財務省はすべての資料を破棄したと言う。少しでも官僚機構を知っている人間ならありえない話である。ますます深刻な問題であることが分かる。そして驚いたのは森友学園の前理事長を「しっぽ切り」しようとしたことだ。権力はそんなことはやらない。抱き込んで敵に回さないのが普通である。

すると面白いことに自民党麻生派の鴻池祥肇参議院議員が森友学園前理事長夫妻の陳情内容を共産党にリークして国会で追及させた。表向きは「悪いのは森友学園、安倍総理夫妻は被害者」と言うが、それによって全マスコミが注目するところとなる。こういうのを永田町では「さすっているようで叩いている」と言う。

味方であるように振る舞いながら実は打撃を与えるのだ。その鴻池氏は2015年に安保法制を成立させた参議院の委員長である。審議を見ていると成立させなければならない役目ではあるが、野党と同じくらいにこの法案の成立に疑問を抱き、フーテンには人知れず抵抗しているように見えた。安倍総理の政治手法とはそりが合わないのだ。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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