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大政局一歩手前の総選挙

田中良紹ジャーナリスト

民自公の3党合意がもたらした総選挙が近づいてきた。私の言う大政局一歩手前の中盤の山場が近づいてきたことになる。メディアは選挙情勢ばかりを報道しているが、政治の帰趨はそれで終わらない。選挙後がいよいよ本番の始まりである。

何のために国民が投票に行かなければならないかと言えば、民自公3党が協力して消費増税法案を可決させたからである。協力の条件が「国民に信を問う」であった。だから国民に問われているのは消費増税の是非と3党合意に対する信任である。本筋はそういう話である。

本筋から導き出される選挙の構図は、民主党、国民新党、自民党、公明党という消費増税賛成勢力vs反対した政党との戦いである。前者が選挙で過半数を獲得すれば国民は消費増税を認め、3党合意を支持した事になる。後者が過半数を得れば消費増税は廃止される。それが本筋である。

ところがそうした構図にしたくないのが民自公3党である。自公は自分たちを権力の座から引きずりおろした民主党を攻撃して自公政権を復活させたい。そのための手段として3党合意に踏み切っただけで、民主党と同じ側になりたくない。民主党政権の未熟さを並べ立てて民主党政権の実績を問う選挙にしたい。

一方の民主党も国民の目を消費増税からそらせたい。だからTPPを持ち出したり世襲禁止をアピールしている。民も自公も消費税以外に争点を作れば愚かな国民を目くらましにできると思っている。しかし民自公は選挙で違いを見せつけても、選挙が終われば3党協力の枠組みに戻らざるを得ない。参議院の「ねじれ」が決定的にそうさせるのである。

そこにもう一方の主役として登場してきたのが大阪の橋下徹市長率いる「第3極」であった。中央集権打倒、地域主権を掲げて大衆的人気を獲得し、選挙で民自公に匹敵しうる議席を獲得するか、あるいは「第3極」の総結集を図って民自公を敵に回す「第2極」になれば、政界再編のカギを握れるはずであった。ところが野田総理の突然の解散に慌てふためき、政治のわかる人間が周囲にいない事が分かってきた。

みんなの党の渡辺喜美代表に「勤皇か佐幕か分からない」と言われた石原慎太郎前東京都知事と手を組んだばっかりに、「第3極」どころか自民党の補完勢力に過ぎない事が明らかになった。中央集権体制を支えてきたのは自民党である。それを倒して政治主導を確立すると言った民主党も霞ヶ関とアメリカの「壁」に屈し、中央集権を支える側に回った。

だとすれば「第3極 」は民自公体制を打倒する以外に存在理由はないはずだ。ところがその印象が急速に薄れてきた。政策を次々後退させたり、石原代表がメディアの選挙予測を前提に安倍総裁を次期総理と見て選挙前から取引を繰り返しているからだ。民主党の菅政権が参議院選挙前にみんなの党との連立を口にしたのと同じレベルの愚かさだ。

これで総選挙の構図は民自公3党+補完勢力としての日本維新の会vsその他の政党との戦いになった。そこに嘉田由紀子滋賀県知事の「日本未来の党」が登場し、小沢一郎氏や亀井静香氏が合流した事で選挙情勢を一変させるほどの衝撃を永田町に与えた。民自公3党が一斉に「日本未来の党」を批判している事がそれを物語っている。

かつて国会議員だった石原慎太郎氏は国民的知名度はあるが、全く政治力のない政治家として知られていた。同じ「青嵐会」でも渡辺喜美氏の父親である渡辺美智雄氏とは雲泥の差があると言われていた。亀井静香氏が協力しなければ自民党総裁選に出馬する事もできなかった。国会議員をやめて東京都知事に転身したのは非力さゆえの逃亡と永田町では見られていた。

それが尖閣問題で再び都知事に居続けることが出来なくなった。あのまま居続ければ非難の嵐に見舞われていたはずである。国政への転身とメディアは持ち上げたが、私にはまたまた逃亡を図ったとしか見えなかった。国際政治の舞台で何かをやれるほどの交渉能力も政治力も持ち合わせてはいない人物と提携した時に橋下氏の国政進出は大した話でなくなった。

国政は国際政治の謀略と闘う世界である。海外に人脈を配置し、絶えず情報収集を行っていなければ官僚情報に頼らざるを得なくなる。官僚情報に頼る政治家が中央集権打倒などできる筈がない。中国はもちろんだがアメリカにも全く相手にされていない石原氏を代表に据えて国政進出を図る意味が私には理解できなかった。

事前の選挙予測で総理に復帰する事を確実と考えているだろう安倍晋三氏の軽佻浮薄ぶりも際立ってきた。強気の発言をすることが非力でない証であると考えているようだが、そこに非力さが現れている事に気づいていない。大量議席を得て総理に就任したとしても、その勘違いを克服しないと安倍政権は短命に終わる。

参議院の民主党に頭を下げなければ思うような政権運営ができない政治力学を分かっているのかと思うほど、安倍氏は労組出身議員が民主党に多いことを批判している。かつて総理に就任した時も自民党参議院を批判して自分の首を絞める事になったのを忘れているようだ。通常国会では定数是正を図る選挙制度改革が焦点になるが、労組出身議員の多い参議院民主党と安倍氏の攻防は見ものである。

「ねじれ」の政権運営を経験した事のない安倍氏が次期通常国会を全うできるかはなはだ疑問である。しかも来年になれば永田町は参議院選挙一色になる。対決含みの政治が続くことは間違いない。通常国会が「ねじれ」で行き詰まれば、「ねじれ」を解消するために衆参ダブル選挙が行われることもありうる。

その時には嘉田由紀子氏や橋下徹氏らも立候補して天下分け目の一大決選が行われる可能性がある。それが私の言う大政局の終盤である。一歩手前の総選挙を皮切りに激動の政治がいよいよ始まる。

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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