Yahoo!ニュース

新暦と旧暦のある台湾 いわゆる「お正月」はどっち?

田中美帆台湾ルポライター
お正月飾りのひとつ。まぶしいような赤と金は、縁起のよい色として定番だ(撮影筆者)

出たら 3 万元!? オイシイ台湾忘年会事情

 「会社の忘年会で 3 万元、当たっちゃった〜!」

 いつもは温厚な弟の彼女が、ちょっと興奮しながら実家にやってきた。無理もない。単純なる円換算なら、1 月末現在のレートは台湾ドル 1 元あたり 3.55 円だから、10万 6,500 円だ。それだってすごい金額なのだが、一般に大卒初任給が 2 万 2,000 元といわれる台湾の 3 万元である。日本の感覚的には 30 万円以上の価値だろう。

 日本ではまだ松の内気分の抜けない 1 月だが、台湾では忘年会シーズンにあたる。年末ボーナスも、この時期に支給されるが、忘年会のくじ引きで当たったお金は、それとは別物。彼女が興奮したのも当然だ。金額は、もちろん会社の規模や業績如何で上下する。筆者自身、数はそれほど多くないが、これまで何度か忘年会に参加した。くじは、箱から取り出した番号で当選者を発表するタイプもあれば、ビンゴの勝ち抜け式もある。またくじで商品が当たる場合もある。あるいはくじとは別に、業績のあった部署に賞金を出すケースもあり、それぞれに趣向が凝らされていた。

参加した忘年会の会場風景。コース料理が振舞われた上、座席には手土産が置かれていた(撮影筆者)
参加した忘年会の会場風景。コース料理が振舞われた上、座席には手土産が置かれていた(撮影筆者)

 レストランや宴会場では連日、大勢の客がつめかける。とりわけ会社の忘年会は、規模も大きくなりがちだ。というのも、忘年会は社員やスタッフだけではく、そのパートナー、さらに親兄弟から子どもまで、家族三世代にお声がかかるからだ。ある忘年会では、出席したスタッフの子どもたちが壇上に呼ばれ、年齢ごとにまるでお年玉のようにして社長から賞金を渡されていた。その社長が言った。

 「わが社がこの 1 年もまたやってこられたのは、社員それぞれの頑張りだけではなく、その社員を支えてくださったご家族の存在があるからです。本当にありがとうございました」

 社員の向こうには、それぞれの家族がいる。誰もが頭ではわかっていることかもしれないけれど、年に一度、そうやって家族の存在が可視化されることで、誰よりも社長自身の次年度への決意が込められていたのだろう。

 大事な社員の顔を熱湯と化した鍋に突っ込ませるようなどこかの社長とは、気概がまるで違う。ちなみにあのニュースは、台湾で「日本の忘年会」としてしっかり報道され、話題になった。周囲には「日本の会社はこんなにひどいのか」と質問され、ひどく恥ずかしい思いをさせられたことを付記しておく。

今年は大型連休! 台湾の年末年始は旧暦が基準

日本では紅白が祝儀の色だが、台湾では白は不祝儀で用いられる。全面赤が好まれる(撮影筆者)
日本では紅白が祝儀の色だが、台湾では白は不祝儀で用いられる。全面赤が好まれる(撮影筆者)

 さて、この 1 月の台湾、街は華やかな装いに変わる。とりわけ日本で「金赤(きんあか)」と呼ばれるオレンジがかった鮮やかな赤い色が台湾の街中に現れると、新年を迎える準備の始まりだ。ただし、新年といっても、1 月 1 日ではない。

 日本は 150 年前、明治維新の暦の改革によって、旧暦から新暦へと時間の概念を切り替えた。今では旧暦で時間軸を考える風習といえば、旧暦のお盆くらいではないだろうか。もはや旧正月とは、名詞のみでその習俗はすっかり途絶えてしまった感さえある。

 それに対して台湾には、今もなお、ふたつの暦が存在する。ひとつは日本と同じグレゴリオ新暦で 1 月 1 日から 12 月 31 日までの時間軸、もうひとつは旧暦の時間軸だ。この旧暦で迎えるお正月は、春節(チュンジエ)、過年(グオニェン)と呼ばれ、毎年、日程が前後する。2019 年の正月休みは、次のような日程となっている。

 2 月 4 日 除夕 大晦日

 2 月 5 日 初一 元日

 2 月 6 日 初二 帰省日。主に嫁ぎ先から実家への帰省を指す。

 2 月 7 日 初三 正月休み

 2 月 8 日 初四 正月休み

 2 月 9 日 初五 正月休み

 加えて今年は前後が土日に挟まれているため、全部つなげて 9 連休という人も多い。

 1 月から 2 月にかけては、つまり日本の年末なのだ。デパートやスーパー、市場では、年越し料理や、正月向けの食材が並ぶ。また、生活雑貨や文具を扱う店では、お年玉用のポチ袋、お正月飾りといった年始用品が売り場を賑わせる。

 歳末に最も賑わう場所として知られるのが、台北の西側にある迪化街一帯だ。付近は普段はレンガ造りの建物が並ぶ通りに、テント張りの特設コーナーが設けられ、連日、道いっぱいの買い物客が訪れる。歳末大売り出しの上野アメ横さながらだ。

先週末の迪化街。今週は平日夜も似たような人混みで賑わう(撮影筆者)
先週末の迪化街。今週は平日夜も似たような人混みで賑わう(撮影筆者)

 一般家庭では、年末に大掃除をし、玄関などを飾り付け、大晦日から新年にかけて集まる家族のために料理を準備し、そして、皆で食事をいただく--この流れは日本と変わらない。

 一方、日本と同じ、西暦の新年はというと、以前本欄でも紹介した台北 101 ビルのカウントダウン花火があり、同時に台湾各地で年越しのイベントが行われるものの、元旦が休みになるだけ。翌日にはあっさり通常通りの営業になる(参考リンク)。

 つまり、台湾における正真正銘のお正月は、やはり旧正月なのだ。

イノシシ年ではない!? 台湾の干支と年始メッセージ

 日本の干支が昔の中国から伝わってきたことは、誰もが知るところだろう。だが、同様にやってきた漢字が日本式に変化したように、干支も日本型にローカライズされている。

 その象徴ともいえるのが、今年の干支、「亥」である。

 日本語ではこれはイノシシを表すが、ここ台湾ではブタになる。ブタはイノシシが家畜化された種だ。日本語では罵倒語にもなってしまうブタだが、実は台湾ではトップスターの愛称に用いられるほど愛嬌のある生き物として親しまれている。そういえば日本の昔話でお供になるのはサルや犬だが、西遊記に登場する猪八戒はブタだった。ちなみに台湾で食用にされる肉類トップも豚肉である(参考リンク)。

 日本の年明け同様、新年の挨拶として交わされる LINE スタンプも、今年はブタをキャラクターにしたものが大いに人気だ。賑やかなイラストと一緒に付されるのは、「新年快樂!」だけではない。縁起のいい熟語を送り合う。「萬事如意(万事うまくいきますように)」「恭喜發財(金運に恵まれますように)」といった定番の言い回しだけでなく、干支にちなんだ言葉が登場する。今年はどうやら中国語の豚にあたる「豬」の音になぞらえた「諸」を使って物事が滞りなく進むよう願う「諸(豬)事順利」「諸(豬)事吉祥」「諸(豬)事大吉」といった語が多いようだ。

 干支には関係ないが、新年にだけ登場する漢字がある。そのひとつが冒頭の写真の文字だ。漢字が組み合わせられた文字なのだが、何文字かわかるだろうか。

 答えは「招財進寶」の 4 文字を 1 文字として一緒になったもの。中国語は通常、1 文字 1 音だが、こうした組み合わせ文字は分解した読みになるようだ。4 文字めは日本式で書くと「宝」。これもまた金運アップの願いを込めた文字なのだ。

春聯(チュンリィエン)。書道の達人が目の前で書いてくれる迪化街の店では人垣ができていた(筆者撮影)
春聯(チュンリィエン)。書道の達人が目の前で書いてくれる迪化街の店では人垣ができていた(筆者撮影)

今年はいつ? 押さえておきたい台湾の祝日

 新年を迎えると、街の賑やかさは鳴りをひそめる。店舗の多くは年始休業となり、普段、都会に勤務している人はこの時期に帰省するため、とりわけ台北の街中は閑散とする。そんなこともあって、個人的に年末はともかく、年始、つまり 2 月上旬の台湾旅行はあまりおすすめしない。

 年始に各店舗の営業が始まるのは「初五」と呼ばれる日で、今年なら 2 月 9 日。この日は、いわゆる仕事始めにあたり、営業開始とその年の業績好調への願いを込めて爆竹を鳴らす。ただ、今年は金曜日にあたるため年内に振替出勤が行われ、連休となっている。

 では、年末年始以外の台湾の祝日は、いつなのか。参考までに 2019 年の台湾の祝日をまとめておこう。

 2 月28日 和平記念日

 4 月 4 日 児童節

 4 月 5 日 清明節

 6 月 7 日 端午節

 9 月13日 中秋節

 10月10日 国慶節

 10月11日 特別休日(今年は週末とあわせて連休となる)

 上にも書いたように、休日は旧暦の時間軸が基準となるので、日付を記念した祝日以外は、それに合わせて変化する。たとえば、今年は 2 月 5 日が元日だが、2018 年は 2 月 16 日、2017 年は 1 月 28 日だった。新暦での時間軸がすっかり習慣化されている日本に暮らしていた身としては、この振り幅はかなり大きく感じられる。だが、旧暦を軸にしている台湾では、こうした時差は至極当然のこととして受け止められている。

 祝日が政府によって発表されるのは、おおよそ毎年 6 月だ。学校や公的機関の年度の区切りも、日本が一斉に 4 月始まりなのと違って、台湾は 8 月末から 9 月にかけてが年度始まりで、この旧正月までが年度の前半、さらに旧正月明けからが 6 月末から 7 月にかけてが年度後半にあたる。

 今回は、主に日本との違いに焦点をあてながら台湾の年末年始を紹介してきた。暦や迎え方は違えど、新しい年を健やかに過ごしたいという思いは同じだ。台湾は、これからお正月本番を迎える。

台湾ルポライター

1973年愛媛県生まれ。大学卒業後、出版社で編集者として勤務。2013年に退職して台湾に語学留学へ。1年で帰国する予定が、翌年うっかり台湾人と国際結婚。上阪徹のブックライター塾3期修了。2017年からYahoo!ニュースエキスパートオーサー。雑誌『& Premium』でコラム「台湾ブックナビ」を連載。2021年台湾師範大学台湾史研究所(修士課程)修了。

田中美帆の最近の記事