シェアサイクルは「何をシェアするのか」 台湾YouBikeの根本的な問い

台北のYouBike。華やかな色は事故防止の意味も(写真提供:YouBike)

台湾におけるシェアサイクル事情

 台北市民の足である市営地下鉄MRTの駅周辺には必ず、オレンジ色が鮮やかなフラットバーハンドルの自転車がずらりと並ぶ。愛称は「YouBike」(公式サイト)。

 30分10元(約40円)で、MRTの初乗り20元、バスは15元だから短距離なら割安感もある。自転車は、世界的自転車メーカーのジャイアント製で、幅広のサドルは座り心地よく、自分の身長に合わせて動かせるし、ちょっと離れる時にはカギもかけられる。全く同じではないが、同系列の車両は2015年に市販され、価格は1台1万7,800元(約6万6,000円)となっている。安物でないことは、この価格からも見て取れる。

 ICカードをかざして駐輪されているポートから自転車を外せば乗ることができる。その気軽さから、老若男女、時には外国人旅行者らしき姿の人まで、幅広く利用している。

 その台湾シェアサイクル市場に、2017年、シンガポールから「OBike」が進出してきた。YouBikeとの最大の違いは、駐輪ポートがないこと。乗り捨ての自由さを求める人が利用している一方で、市民の反応は芳しいとは言い難い。乱雑な乗り捨て、自宅への持ち帰りなど、シェアサイクルの抱える課題があらわになった格好だ。

 日本では、アパート、マンション、コンビニ含め、たいてい自転車置き場が設置されている。台湾、特に台北では、建物に駐輪スペースさえないこともあるし、あっても日本と比べると極端に狭い。公道には自転車の駐輪ポートがあるが、十分には見受けられない。

 では、市民は自分の自転車をどうしているか。自前の自転車は、盗難よけのため通常の車体ロックのほかに、チェーンロックをかけて、電柱にくくりつける。最近は、道路の脇にぽつんと乗り捨てられた自転車を見かけることが増えてきた。

公共交通機関の1つとして

 台湾でのシェアサイクルは2009年、YouBikeによってスタートした。およそ10年のキャリアを持つ事業だ。台北市内には、駅、図書館、学校、市場など、400か所に駐輪ポートが設けられ、市民の足の1つとして定着している。

 その、YouBikeの運営を任されている微笑単車の広報担当、劉麗珠さんに話を聞いた。

普段から自転車を利用する劉さん(写真撮影筆者)
普段から自転車を利用する劉さん(写真撮影筆者)

 ここ数年、劉さんのもとには、シェアサイクル導入を検討する自治体やビジネス参入を目指す企業から、YouBike成功の秘訣を聞きたいと訪ねてくる人が後を絶たない。日本からもずいぶんと来たが「皆さん、私の話に驚かれるんです」とさらりと言う。

 もとはパリでシェアサイクルの状況を視察した台北市長、ハオ(=赤偏におおざと)龍斌氏が「パリにできるなら台北でもできる」と計画を推進。同氏は、2020年までに公共交通機関の利用率を70%まで拡大し、そのうち12%を自転車にする、という政策を掲げた。2009年の市長在任中にYouBikeはスタートした。

 「台北市政府の政策のもとで運営されているのがYouBikeです。政府は、市民に自動車やバイクではなく、自転車を利用してほしい。公共交通機関の1つという位置づけです」

 根底に流れる考え方を、劉さんはこう説明する。

 「私たちは、YouBikeを広げることで清潔で静かな台北にしたいと考えています。皆が車の運転を減らせば、市内の渋滞は解消されます。つまり、シェアサイクルによって、都市を変えること。利益を得たいといった小さな目的で運営しているわけではありません」

 ハオ氏は、市長になる前に行政院環境保護署の署長を2年間務めている。日本でいえば、環境庁長官にあたる。自転車に白羽の矢が立つのは、必然だったのかもしれない。

 2014年、計画を立案・スタートさせたハオ氏から柯文哲氏へと市長が変わった。この交代によって、巨大ドームの建設が中断するなど、市政府の政策の至る所に影響が出たが、YouBikeは計画変更のなかった政策の1つだという。

データ分析は運営の要

 「シェアサイクルは、単に自転車があればいいわけではありません。後ろにシステム運営という大きな課題があります。タイヤの整備から、車体の修理、台数の移動や調整など、多くのスタッフとそのトレーニングが必要になります」

 2017年12月末現在、400ポートかつ約1万3,000台ある台北の車両は、1台につき1日8回の利用がある。単純計算でも、1日に10万4,000回利用されている。そのシステム運営の例を1つ紹介しよう。以前、本欄でも紹介したように、台北では毎年カウントダウンの花火が開催される。あふれかえるような人出だ。

 「カウントダウン花火が終わると、見ていた人たちは一斉に帰宅し始めます。そこで利用されるのが、YouBikeです。それを見越して900台を準備していましたが、1時間もしないうちに全部、なくなりました」

 では、普段はどうなのか。

 「毎朝、台北の隣にある新北市から台北まで大勢が出勤してきます。朝の時間帯に新北市のMRTの駅にあるポートは満杯になります。その車両を、今度は台北に移動させ、利用可能な状態にする、といった調整をしています。ポートごとの利用データを分析し、どんな時間帯にどの程度の利用があるか、ピークはいつかなどを見極めながら、運営するのです」

 分析結果が適切でなければ、乗りたいときに乗れない、という問題が発生する。劉さんは「そんな状態が発生するようでは、『シェアサイクル』とは言えません」と言い切る。

ポート間の車両移動もシェアサイクルに欠かせない仕事だ(写真提供:YouBike)
ポート間の車両移動もシェアサイクルに欠かせない仕事だ(写真提供:YouBike)

失敗を経験した制度

 盤石に見えるが、実はYouBikeは痛い時期を経ている。劉さんは言う。

 「スタートから2年間は、うまくいきませんでした。現在、台北では自転車1台につき1日8回利用されていますが、最初の年は0.5回にも達していませんでした。完全に失敗でした」

 事業は台北市の中心部、信義エリアの11か所のポート、車両500台からスタートした。ところが、開始から赤字が続いた上に、政策は非難の的となった。その状況を見かねたYouBike側は、事業撤退を申し出たという。だが、市長の反応は、想像を超えていた。

 「『撤退は許されない。この政策はパリに続くもので、全世界が注目している。やり遂げなければ』と政策続行を決めていました。問題は、スポットが少なすぎて便利にはほど遠いことだ、と。その上、エリアを拡大し、台北全域に広げるように、と言ってきたのです」

 YouBike側も、他に2つの課題を突き止めていた。

 「1つめは、利用登録時の複雑さです。当初、クレジットカードでの利用登録を求めていました。気軽に利用できない。1日、1週間、1か月、3か月、半年、1年と段階があったのですが、そもそもどのくらい乗るかよくわからないから選びようがありませんでした。2つめは、最初の自転車は今のように乗りやすい車体ではなかった。すべての課題を解決してきたのが、今のYouBikeです」

 一方で、市の重要政策として「三横三縦」と呼ばれる道路計画が遂行された。碁盤の目のように大きな幹線道路が走る台北には、幅15m以上の道路は「路」と付き、南北に14本、東西に10本走る。このうち、南京東西路、復興南北路など6本の道路、総計85.5キロに、「単車道」と呼ばれる自転車専用道路が設けられた。

 自転車のポート設置に車両準備、システム運営をバックヤードでやりながら、専用道路を作り出す--劉さんの訪問者たちが驚くのも無理はない。

シェアサイクルがシェアするもの

 「シェアサイクルは自転車を皆で共有する、という意味ではありますが、公の道こそ、皆で共有すべきものですよね。自転車だけあっても、それを走らせる道がなければうまくいきません。道路は皆でどうシェアするか。つまるところ、その街にとってシェアサイクルが必要かどうかが問題になるのです。導入するのであれば、交通網に溶け込む必要があります」

 劉さんの話を聞きながら、そもそも考え違いをしていたことに気づかされた。取材前、シェアサイクルは、自転車を共有するシステムだと思っていた。だが「公の道を皆がどうやって使うか」が問題なのだ。自転車を共有するところから、さらに踏み込んで、道路をどんなふうに共有するか、交通システムをどうするかまで考える必要に迫られる話なのだ、と。

 「シェアサイクル事業をスタートさせ、もう1つ大きな公益をもたらしたと考えています。それは、600人の雇用です。現在、台北市政府のBOT案件はたくさんありますが、1つの案件で600人もの雇用を生み出しているのは、このYouBikeだけだと思いますよ」

 自転車のメンテナンス、システム運営、各ポートの設置やデータ解析など、シェアサイクルの運営に人の手は欠かせない。胸を張るようにして話す劉さんは、自信にあふれていた。

台湾旅行時にも利用できる

 「YouBikeは、悠遊カードというICカードと携帯電話の番号があればすぐに利用できます。1つの電話番号で5枚のカードまで登録できるので、台北に友達がいるなら、その人の番号で乗れます。会費は必要ありません。これまで私は、海外でシェアサイクルがある場所では必ず試してみるようにしていますが、世界中でもいちばん利用へのハードルが低いのがYouBikeだという自信があります」(劉さん)

 具体的な手順は公式サイトを参照してもらうとして、外国人と見られる人が利用している姿を何度も見かけたことがある。だが、乗るにあたっては注意も必要だ。筆者の周りの台湾在住日本人で、かつ普段から自転車に乗る人たちに意見を聞くと、こんな注意が必要だ、という回答が返ってきた。

 * 日本のように歩行者や自転車優先ではない。横断歩道を渡る際、あるいは信号のない場所では、車優先意識がある。日本と同じ感覚で運転しないこと。

 * 台湾は日本と反対の右側通行。右折左折の際にはくれぐれも注意が必要。

 * 台湾の歩行者は、日本のように自転車を見て避けない。

 * 自転車専用道路のない場所、特に古い街や道は狭くて段差がある。

 * 車道では、容赦ない運転の車やバイクが多い。

 * 車もバイクも、歩道ギリギリで曲がろうとするため、接触しないよう安全な位置にいること。

 さらに、YouBikeの乗り方についても、こんなアドバイスが。

 * サドルが反対側を向いている車両は、故障を意味している。間違えて乗らないように。また乗車前には、簡単に車体チェックのこと。

 「今は、修理が必要かどうかにかかわらず、どの車体も3週間に1度は検査しています」とは劉さんの話だが、台湾全域で1,373ポート、約4万台の管理を考えただけで、心底、頭の下がる思いがした。

 さて今回ご紹介したのは台北の事例だが、台湾でシェアサイクルが導入されているのは、台北だけではない。新北市、彰化県、台中市、桃園市、新竹市、その他、高雄市、嘉義市、台南市、屏東市、金門県と全域にシェアサイクルの輪が広がっており、ほとんどが公営事業だ。世界的メーカーを抱え、公営事業として根付いた台湾のシェアサイクル事業。都市の移動のあり方に、日本が学ぶことは多いようだ。