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アーティスト、ミュージシャンへの二次使用料の分配をフェアに――音楽業界の不都合な真実――その後

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(写真:イメージマート)

アーティストやミュージシャンが、円滑に創作活動を行なうための原資の一部になっている「商業用レコード二次使用料」の分配における“問題”とは?

何度かここで取り上げている「商業用レコード二次使用料」の分配問題。アーティストやミュージシャンが円滑に創作活動を行なうための原資の一部になっているのが「商業用レコード二次使用料」だ。その何が“問題”になっているのか。この問題の本質を改めて解説すると「商業用レコード二次使用料」とは、放送局が音源を放送で使用する際に支払わらわなければならないとされている使用料で、その音源に実演が収録されたメインアーティスト(=フィーチャードアーティスト=FA)やサポートミュージシャン(ノンフィーチャードアーティスト=NFA)、この両者に対して支払われる。

「商業用レコード二次使用料」の分配は、文化庁長官が指定する団体である「日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター(CPRA)」を通じて、FA、NFAに対して行われ、徴収額はここ数年は毎年約60億円。その分配方法はFAとNFAで異なっている。楽曲や音源の制作に中心的な役割を果たすFAについては、その音源の放送使用実績(放送時間・放送回数・放送局格差等、実際に放送で使用された実績が考慮される)に基づき行われる。一方で、音源の制作をサポートする立場として参加したNFAは一部において、20年以上にわたり「みなし分配」というルールに則って行われている。このルールは「一般社団法人MPN」(以下MPN)が収集している「P-LOG(日報)データ」を基にしたもので、「みなし分配」はその名前の通り、放送使用実績そのものに基づくものではなく、自己申告のレコーディング参加回数等を放送使用実績と「みなし」て分配されるというものだ。自己申告であるがゆえ、ここが長らくブラックボックス化し“不公平”な分配が長年続いている。

20年以上前に設定されたこの方法を、デジタル化が進み正確なデータを収集できる時代になった今も踏襲し、その結果、分配受領額上位を特定ジャンルのサポートミュージシャンが独占し、ヒット曲に関わっているサポートミュージシャンに「商業用レコード二次使用料」が正当に分配されていないという事実がある。実状とは乖離した不透明なデータが採用され、一部の権利者による不当な受領が長年続いていることになる。この“不透明”な現状を改革し、本来の権利者の権利を守るべく行動を起こしたのが野村達矢理事長を中心とする一般社団法人日本音楽制作者連盟(以下音制連)だ。

自己申告制により、実情とは乖離した不透明なデータが採用され、一部の権利者による二次使用料の不当な受領が長年続いている

一般社団法人日本音楽制作者連盟理事長・野村達矢氏(Photo/長縄健志(Musicman編集部))
一般社団法人日本音楽制作者連盟理事長・野村達矢氏(Photo/長縄健志(Musicman編集部))

自己申告という方法は、それを証明する第三者が存在しないため野村氏は『「みなし分配」を行うためにMPNが収集したデータはどこの誰が提出したのか、またどのような内部処理を行って分配にいたるのかがほとんど明かされていません』という不都合な事実が存在すると語っている。さらに「あくまで放送された原盤に収録された実演の使用料として支払われるべきであることは明らかなのに、それを無視して、いまだに使用実績ではなく録音参加回数に重きを置いた分配方法を維持していることを我々は是正すべきだとずっと言い続けています」と主張している。野村氏は8月に音楽業界総合情報サイト『Musicman』のインタビューを受け、そこで強い疑念の原因になっている実状を詳らかに明かし、問題提起した。

MPN側も反論。しかし音制連側も特設ページを開設し再反論

この野村氏のインタビューを受け、MPNは椎名和夫理事長の名前でMPNの会員のみにFAQを公開し、反論。音制連もすぐに反応し特設ページを開設。その中でMPN側のFAQに記載されている内容について「多くの反論は、音制連の主張を捻じ曲げたり曲解するものであり、不必要にメインアーティスト(FA)とサポートミュージシャン(NFA)の対立を煽るものであると考えています」と反論。

中立メディアである『Musicman』は椎名氏に、野村氏同様インタビューという形での主張を打診するも、椎名氏は一度は承諾したものの、実現には至っていない。『Musicman』編集部は「音制連・MPN双方の主張において、事実関係が相反する点が多々あることは読者の混乱を生みかねないと危惧し、音制連と意見が対立するMPN椎名理事長のインタビューを行うことには重要な意義があると考えていたが、残念ながら現在に至るまでインタビューは実現していない」としている。

『Musicman』が、音制連・野村理事長の2回目のインタビューを掲載し反響を呼ぶ

しかし「椎名理事長へのインタビューがかなわない中で消化不良の感を拭えないusicmanと、事態の速やかな解決を願う野村理事長の見解が一致、第2回目のインタビューを実施することとなった」と、野村氏の2回目のインタビューを11月10日に掲載。権利者、業界関係者から大きな反響を呼んでいる。

このインタビューの中で、今回の問題を最もシンプルに表しているのが、インタビュアーである「Musicman」の屋代卓也氏の質問だ――「メインアーティスト、サポートミュージシャン関係なく計算式を決めて透明性を持ってやりましょうと言っているだけですものね」――これに対して野村氏は「本当にそこだけなんですけど、なぜかすぐに(メインアーティスト<FA>とサポートミュージシャン<NFA>の)対立構造にするんですよ。そうではないんだということは何度でも言いたいです」と語っている。ちなみにサポートミュージシャンはMPN(メインアーティストも数多く所属している)だけではなく、音制連にも一般社団法人日本音楽事業者協会(音事協)にも、一般社団法人映像実演権利者合同機構(PRE)にも所属している。

アーティスト、ミュージシャンのクリエイティビティを高めるために必要な「商業用レコード二次使用料」の不公平を是正するためにどうするべきなのか――野村氏のインタビューを通して、全ての権利者はこの問題にもっと関心を持ち、意識するべきだ。

一般社団法人日本音楽制作者連盟 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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