Yahoo!ニュース

Tani Yuuki 人の心に寄り添う歌を届け、進化を続ける再注目アーティストが目指すもの

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/Valley Records

「W/X/Y」がストリーミング総再生数2億回を突破しロングヒット中

Tani Yuukiの歌声が2022年上半期の音楽シーンを席捲した、といっても大げさではないはずだ。2020年5月に発表したデビュー曲「Myra」がTikTokをきっかけに大きな話題となり、1stデジタルシングルとして同年7月1日にリリース。ストリーミング再生累計は1億を突破。続く「W/X/Y」もストリーミング総再生回数2億回を超え、まだまだ数字を伸ばしロングヒットになっている。今最も注目を集める23歳のシンガー・ソングライターにインタビュー。「自分に嘘をつかず本音で曲を書いてきた」というその胸の内、頭の中をのぞいてみたい。

「数字は全く実感がなく、どこか他人事のよう」

ライヴPhoto/ Shingo Tamai
ライヴPhoto/ Shingo Tamai

Tani Yuukiは、8月21日『SUMMER SONIC 2022』のステージに立っていた。ステージに登場した瞬間、破顔一笑。全身からこのステージに立てた喜びが伝わってきた。若い音楽ファンを虜にしている「Myra」「W/X/Y」などを披露すると、声出しを禁じられた客席は表情と拍手で、Taniに喜びと感謝を伝える。ストリーミング総再生回数2億回超え等、驚異的な数字が連日Taniの名前と共に伝えられる日々。この圧倒的な数字と、ライヴというリアルとを、本人はどう感じ、どう見ているのだろうか。

「サマソニは今までで一番大きな舞台だったので、お客さんの多さも含めて圧倒される部分もありましたが、自分もアーティストとして認められていることを実感して感情が沸き起こって興奮しました。楽曲についての数字に関しては、途方もない数字だと思います。自分でも実感がないくらいどこか他人事のように、すごいなって思いながら見ています。もちろん音源もその時の思いを最大限込めてはいるものの、ライヴでお客さんを目の前にすると、いつも以上に気持ちが入ってしまう感覚はあります。そもそも人前に出るのがあまり好きではなかったですが、でもライヴを重ねていくと、独特の空気感とか、実際に画面越しで聴いてくれていた人の顔を見ることができ、会話ができる機会なので、やっぱり生って、ライヴっていいなって思いました」。

病気で学校に行けなくなり、祖父からもらったアコギがきっかけで音楽にのめり込む

歌を聴き手に最短距離でぶつけることができる声のアタック力と、高い浸透圧。歌が心にスッと入ってきて、そして深いところまで届けることができる。優しく柔らかで、でも凛としていて時にエモーショナルで、ライヴでこそTaniの歌の魅力が伝えられる。神奈川県茅ヶ崎市に生まれたTaniと音楽の出会いを聞いた。多くの人を虜にする音楽はどうやって生まれるのか。その秘密に迫った。

「海が徒歩圏内にある恵まれた環境でした。ハードロック好きの父と、母はドリカムさんや絢香さんをよく聴いていました。僕はどちらかというとJ-POPの方に惹かれました。中学の時病気を患い学校に行けなくなり、そんな時祖父が『気分転換に』とアコギをプレゼントしてくれました。それがきっかけで音楽にのめり込んでいきました」

RADWIMPSの音楽、野田洋次郎の世界観に影響を受ける

YouTubeでギターの弾き方やコードを学び、高校時代に、今の音楽につながるRADWIMPSと出会う。野田洋次郎が作る言葉とメロディがTaniのルーツだと、色々なインタビューでも語っている。そして高校を卒業し、「音楽の道しかないという根拠のない自信があって」音楽専門学校に進むことを決めた。この頃からオリジナル楽曲の制作を始めた。

「当時学校にいけない悔しさやもどかしさ、僕の溜め込んだきたものや抱えているものを、音楽にぶつける、という感じでした。意図せず音楽に向き合ってる=自分の内面に向き合っている、みたいな感覚だったのだと思います。最初は色々なアーティストの曲の共感できるフレーズ、一節を聴いて元気が出たという感じだったと思いますが、それをカバーして自分の口からその言葉を発することで、より元気と勇気がもらっていたのだと思います。なので中学・高校時代は音楽に向き合って、曲を作り始めたのは高校卒業する頃で、音楽への向き合い方が変わりました」。

「自分自身が音楽に救われた。今度は自分が誰かのために寄り添う音楽を歌いたい」

音楽に救われた――その思いがTani Yuukiの音楽の根底に流れる思いの基点になっているのかもしれない。

「もし音楽がなかったらどうなっていたんだろう、どんな道を辿っていたんだろう、という不安や恐怖は結構あって。あの時間があって、僕自身が誰かの楽曲に救ってもらったことで与えられ、続けられたものを、今度は自分が与える側になってそういう音楽を作りたいという気持ちになれました」。

「空想や想像ではなく実体験を元に曲を作るので、コロナ禍で感じたことが、自然と曲に反映されているのかもしれません」

音楽専門学校時代にはバンドを組んで活動。DAWでアレンジもするようになり、卒業後はDTMを始め、トラックメイキングまでを手がけるシンガー・ソングライターとしてスタイルを完成させた。初めてTikTokに投稿したのがコロナ禍の2020年、ラブソング「Myra」だ。自身が失恋した時の想いを丁寧に描いている。表面的な感情をクローズアップするのではなく、自分の中心にある思いを素直な言葉で紡いだ。この曲を含めてTaniの歌は、本人は意図していないと思うが、コロナ禍での不安や葛藤、それに寄り添う思う、そしてひと筋の光が希望になっていく、そんなことをより強く感じさせてくれる言葉とメロディが多いと感じる。目に見えないコロナウイルスという脅威と戦っている中で、Taniの言葉が“確かなもの”として聴き手の心を潤した。

「確かにウイルスという目に見えない不確かなものの中で、確かなものとして聴いてもらえているのであれば本望というか、ずっと僕が目指し続けてるところではあるので、そう言っていただけるとすごく嬉しいです。曲を書く時、基本的には実体験を元にしていて、空想や想像ではあまり書かないので、やっぱり生活する中で身近に感じているものが自然と反映されると思います。それこそ『W/X/Y』も見直してみると、コロナ禍だからこそできたのでは、と僕も思ってしまいました」。

「Tani Yuukiって誰?という人がまだ多いと思う。歩みを止めることなく、どんどん曲を発表していく」

「Myra」以降、作品を精力的に作り、発表し続けている。それはコロナ禍で自分の救いにもなっているという。

「コロナ禍では曲を作り続けることで、自分の気持ちが整理できる部分もありました。一種の安定剤の役割も担ってくれました。それと曲は知っているけど、Tani Yuukiって誰?という人が多いと思って。最近は少しずつ顔と名前が一致してきたのかなと感じていますが、でも、まだまだだと思うので、アーティストとしての歩みを止めていけないので、曲をどんどん発表しています」。

インタビューで一番印象に残ったのは、Taniの実直な人柄だ。それこそがTaniの歌の“リアル”に繋がり、嘘がないところが聴き手にきちんと伝わり、大きな支持を得ていると思う。

「最近『身近で日常的な歌詞がグッとくる』というコメントをたくさんいただくようになって、すごく嬉しいです」。

「『W/X/Y』は『Myra』の呪縛から解き放たれて、より自分らしさが出せた曲」

「Myra」
「Myra」

「Myra」はインフルエンサーが動画のBGMに使ったり、色々なアーティストがカバーしたことも話題になり、バズった。一躍時の人になったTaniに、当然“次”への期待が大きくなる。

「『Myra』に縛られた時期がありました。次を考えた時、やっぱり『Myra』のような楽曲が求められているのかなと思ってしまって、そっちに引っ張られた楽曲制作が始まってしまいました。当時あげていたのが『Myra』と弾き語りのオリジナル曲で、一部の人から『似てる曲ばっかじゃん』というコメントが来ました。『Myra』に縛られたまま作った楽曲で本当にいいの?という自問自答が始まりました。色々考えていると、どうでもよくなって、逆にそれで気持ちが解放されて、自分の好きなことを好きなことに書いてやろうって思ってできたのが『W/X/Y』です。「『Myra』に似てるじゃん」という声も届いています。でも僕の中では似せたというより、僕のいいところ、スタイルを出せた楽曲だと思っていて。そういう意味で『Myra』を超えることができたと思うし、ちゃんとやりたいことができた楽曲なんです」。

「W/X/Y」
「W/X/Y」

5thシングル「W/X/Y」(2021年)はロングヒットとなり、ストリーミング総再生回数2億回を超えるという、今年を代表する一曲になりそうだ。「Myra」の呪縛を見事に突破した。しかしそれも「自分ひとりの力では無理だった」と語ってくれた。

「方向性をちゃんと一緒に模索してくれるスタッフがいたことが大きくて、今思うとあの重圧やユーザーからの声を一人で全身で受けていたら、潰れてしまっていたかもしれません」。

「アルバムを作ってみて、アルバムの意味がわかった」

1stアルバム『Memories』
1stアルバム『Memories』

メガヒットになったこの2曲を含む1stアルバム『Memories』を昨年12月にデジタルリリースし、今年4月CDとしてリリースした。Taniの多彩な音楽性を感じることができる。

「自分でも振り幅が広いなと思いました(笑)。でもそれは意図したことではなく、逆に強みになると思っていて。でももっともっと磨きたいというのが本音です。これまでとこれからのTani Yuukiを提示したアルバムなので、僕というテーマをまとめた作品です。アルバムのテーマは?とよく聞かれますが、自分自身が今までアルバムというものをアルバムとして聴いてこなかったので、イメージが本当に湧きませんでした。聴きたい曲だけを聴く世代というか、一枚通して聴くということが、それまであまりありませんでした。でも自分でアルバムを作ってみて、なるほどアルバムを通して伝えたいことがわかると気づきました。一貫したテーマ性を持ったアルバムを作ることも、それもまたシンガー・ソングライターというか、アーティストだと思って。だからまだまだ言いたいこと、やりたいことがあるという気づきもあったアルバムです」。

アルバムというものに固執しない、拘らない世代のTaniが、自身のアルバムを作ることでアルバムを作る意味、アルバムを通して伝えたいことがあるということに気づいた。優里や絢香、足立佳奈、KERENMI、片寄涼太など、様々なアーティストとコラボレーションして、さらに音楽性を広げ、さらにドラマのタイアップ曲を書き下ろしたり、その才能は広がりを見せている。限りない可能性を感じさせてくれる。

ファンの間で“神曲”と絶賛されている「もう一度」を、満を持してリリース

「もう一度」
「もう一度」

9月21日に配信リリースした最新曲「もう一度」は昨年5月にTikTok上に公開されたサビのみの歌唱動画が話題となり、ライヴやSNSのみで披露され、ファンの間では“神曲”として話題になっていた。今回満を持してのリリースとなった。Taniがコロナ禍で感じた素直な思い、優しく力強い“確かな言葉”は、幅広い層の胸に響きそうだ。

「サビだけ先にTikTokで公開したところ、すぐにファンの方から反応があって、「『もう一度』のリリースはいつですか?まだですか?」とたくさんコメントをいただきました。やっとリリースできて嬉しいです。コロナ禍で世の中の空気も一変して、もう一度一緒に手を取り合って共に前に進んでいこう、というメッセージを込めました」。

「不動の名曲を作りたい」

最後にTaniにこれからの野望、夢を聞くと「不動の名曲を作りたい。誰が作ったのかわからなくてもいいので、歌い継がれる、聴き継がれるような曲を歌っていきたい」と、人の心に寄り添う音楽にこだわる、新世代のアーティストの矜持を見せてくれた。

11月からは全国ワンマンツアー「Tani Yuuki Live Tour 2022 “UNITE”」がスタートする。Tani YuukiがTani Yuukiたる所以を体感するチャンスだ。

Tani Yuuki オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事