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小田和正 「コロナ禍で僕は音楽に救われた」 2年振りの『クリスマスの約束2021』で伝えたかったこと

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/TBS

2年振りの「クリ約」

小田和正がライフワークとしている音楽番組『クリスマスの約束』。2001年にスタートし今年で21年目となる、この時季の風物詩的存在の番組だ。今年も12月24日(金/深夜0時20分~2時)に放送されるが (※一部地域を除く)が、その収録が12月初旬に行われ、熊木杏里清水翔太JUJUスキマスイッチ(大橋卓弥、常田真太郎)長屋晴子(緑黄色社会)根本要(STARDUST REVUE)水野良樹(いきものがかり)矢井田瞳和田唱 (TRICERATOPS)が一夜限りのセッションを楽しんだ。その模様をレポートする(※放送とは内容が異なる場合もあります)。

レコーディングから一年半、初めて人前で歌った「風を待って」は、“今を大切にする”がテーマ

昨年は新型コロナ感染症拡大の影響を受け収録は中止。2年ぶりの収録、1600人の観客が待つ舞浜アンフィシアターのステージに、小田はどんな心持ちで立ったのだろうか。小田も思うように活動ができず、これだけ歌を歌うことができない日々を過ごしたのは初めてではないか、というほどの2年間だったが、昨年「コロナが収束していくことを願って書いて、このメンバーに参加してもらってレコーディングした」シングル「風を待って」を、今年元旦に配信リリースした。レコーディングから一年半経って、ようやくファンの前で歌える、この曲にコーラスで参加した

「クリ約」のメンバーと一緒に歌える、そんな喜びを胸に、小田がステージに登場した――。

客席のファンも小田に会える、「クリ約」メンバー、ゲストの歌を聴くことができるという喜びと期待感とで、会場はすでに“温まって”いた。「みなさんお久しぶりです」。そう小田が挨拶をすると、ファンは待ちわびた気持ちを大きな拍手にして、小田に贈る。メンバーを呼び込み1曲目は「風を待って」だ。<きっと大丈夫>と、“今を大切にする”ことをテーマに書かれたこの作品。優しいメロディと言葉が客席の一人ひとりに届けられる。まさに〈ずっと 待っていた 風が 今吹いた〉瞬間だった。メンバーのコーラスが重なり、極上の“響き”が生まれる。客席は、涙を流す人、笑顔の人、マスクをしていてもその表情から感動、感激している様子が伝わってくる。みんな不安に苛まれた日々を過ごしてきた。だから〈空の青さに 守られながらゆっくり歩いて 行こう〉という決して押しつけではない、心に寄り添う歌詞がスッと入ってくる。この日「風を待って」は最後にも歌い、やはり今年の「クリ約」は“みんなが知っている楽しめる曲”はもちろん、この“願いの歌”を、直接会場のファンとテレビで観ている人に、どうしても届けたかったんだという小田の思いが、強く伝わってきた。

「風を待って」と「時代」(中島みゆき)と

歌い終わると大きな拍手がステージ上に贈られ、小田は「最初からアンコールみたい」と破顔一笑した。続いて熊木、矢井田、JUJUで披露した中島みゆきの「時代」を披露。<あんな時代もあったねと きっと笑ってはなせるわ だから今日はくよくよ しないで 今日の風に吹かれましょう>という歌詞が、「風を待って」とつながっているようで、両曲共、生きることの大変さを歌いながら、聴く人の背中をそっと押してくれる、しなやかな歌だ。

緑黄色社会・長屋晴子と「Mela!」~「キラキラ」のメドレーをコラボ

世代が異なるアーティストと小田のコラボも、この番組ならではだ。それぞれが刺激を受けていることが伝わるセッションは、毎回新鮮で楽しさを届けてくれる。この日は今年大きな注目を集めたグループ緑黄色社会のボーカル・長屋晴子が登場。長屋自身もカバーしている小田の楽曲「キラキラ」と、緑黄色社会の代表曲「Mela!」を二人でメドレーで披露した。力強く伸びやかな長屋のボーカルと小田の声が重なると、躍動感と凛とした強さ、そして瑞々しさが生まれる。

時代を超えて愛される名曲を次々と披露

「あの日に帰りたい」(荒井由実)「白い恋人達」(桑田佳祐)「悲しみにさよなら」(安全地帯)など誰もが知る名曲達を、様々なコラボで聴かせてくれる。聴き継がれ、歌い継がれている名曲のメロディと歌詞が持つ、オンリーワンの世界観を改めて伝えてくれる。「時々メールのやりとりをしている」という盟友・吉田拓郎の「流星」は、男の内省的な部分を描いた、哀しみを帯びた男らしい歌詞が印象的だが、円熟期に入った小田の歌がさらに説得力を纏わせ、伝えてくれる。客席に感動が広がっていく。

和田唱と小田による恒例の「ムービーメドレー」は今年で4回目になるが、ゲストに清水翔太を迎え、委員会バンド(小田、根本、スキマスイッチ、水野)らと共に名作映画にまつわる名曲の数々をつなぎ、客席も手拍子、フィンガースナップで参加した。

「コロナ禍で、僕は音楽に救われました。そして素直に音楽をやりたい、みんなと歌いたいと思いました」

そして「コロナ禍で、僕は音楽に救われました。そして素直に音楽をやりたい、みんなと歌いたいと思いました。この先、僕たちは厳しい状況をどう乗り越えていくんでしょう」と、「クリ約」で以前一度歌ったことがある、井上陽水の「最後のニュース」を披露した。1998年のこの作品、当時の状況と重なる部分と、さらに悪い空気に包まれてしまった現在の社会を直視しなければいけないと教えてくれる。「今」伝えるべきことを、きちんと歌ってくれる。一つひとつの言葉に耳を澄まし、明日を思う時間を与えてくれる。

ラストは再び「風を待って」だ。冒頭のシーン。1曲目でこの曲を初めて人前で歌い、それを聴いた聴き手の感情と、そして仲間との声とが響き合い「風を待って」はようやく“完成”した。この曲を聴いて、それぞれの人がそれぞれのストーリーを心に描き、それが“思い”となっていく。その思いが溢れ出ていたからなのか、2回目の「風を待って」は、最初に聴いた時とはまた違う肌触りとなって伝わってきた。

「また会おうね!」

小田は最後に「また会おうね!」と言ってステージを後にした。これは小田からファンへの“約束”と受け取り、キャリア50年を超え、今年74歳を迎えた小田に「もっと、もっと」というのは恐縮してしまうが、来年の「クリ約」も、そしてライヴツアー開催の実現も、期待せずにはいられない。

この収録の数日後、小田にインタビューする機会に恵まれた。そこでこれからのことについて聞くと「ああ、いい曲ができたな、これを書いておいてよかったなと思える曲を1、2曲作ることができたらいいかな」と語ってくれた。まだまだ多くの人に届く、ヒット曲を作り続けるんだという、シンガー・ソングライターとしての強い思いと姿勢が伝わってきた。

なお、番組放送終了と同時に「Paravi」で、未公開映像を含む特別版を独占配信する。

TBS「クリスマスの約束」オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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