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Thinking Dogs デビュー7年目、バンドの新たな萌芽を感じる新作「エキストラ」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

Thinking Dogsの新曲「エキストラ」(11月17日発売)のMUSIC VIDEOが、11月8日の公開から3日間で100万回再生を突破し、その後も好調だ。同曲は秋元康企画・原作の注目のドラマ『じゃない方の彼女』(テレビ東京系)の主題歌になっており、ドラマに出演している山下美月(乃木坂46)、豊田裕大がMVにも出演している。どこか懐かしさを感じさせてくれるディスコテイストのサウンドとメロディ、どこまでもキャッチ―なダンスナンバーのこの10枚目のシングルについて、TSUBASA(Vo)、Jun(G)、わちゅ~(B)、大輝(Dr)にインタビュー。バンドの光と影を赤裸々に語ってくれつつも、4人の充実した表情が印象的だった。

「エキストラ」は“不倫バラエティ”ドラマ『じゃない方の彼女』の主題歌で、初のダンス曲

――ドラマのオープニングで、出演者がこの曲をバックに踊っていますが、最初から踊れる曲という感じのリクエストがあったんですか?

大輝 最初は“不倫バラエティ”なので、明るくてハッピーな曲を、というリクエストがあって…。

わちゅ~ 最初、ジャンルもリズムにも囚われず全員で何十曲も書いて、そこからある程度絞って完成目前の時に「出演者の方が踊ることになったので踊れる曲を」というオーダーが制作サイドからあって、また一から作り直しました(笑)。それもこれまでの経験が生きたというか、そうなるだろうなっていう予測もあったので、心構えはできていたというか…。

――Thinking Dogsのこれまでの曲でダンス曲ってなかったですよね?

大輝 そうなんです。ダンス曲って聴いている人によって判断が違うと思うので、すごく迷って。迷子になりかけましたが、結局Thiking Dogsのダンス曲ってどういうものなんだろうと、まず自分達の軸にあるものからできるものを表現しようというところに立ちかえりました。

わちゅ~ デビューしてから色々な壁にぶち当たって、色々な方にアドバイスをいただいて、僕らもそれを素直に受け入れて曲に反映させていました。そうするとバンドの核みたいなものが見えなくてブレブレな曲が増えていって、それではだめだということで、まずは自分達がやりたいことにまっすぐ向き合いました。

――ちょっと懐かしい感じがする曲です。

わちゅ~ 僕らが作る曲の方向性がどんなジャンルであったとしても、聴きやすいメロディというか、常にメロディ重視で、その中でダンス曲を作っていったので、そう感じていただけたのかもしれません。

Jun(G)
Jun(G)

「コロナ禍でライヴも思うようにできなくて、楽曲制作に注力して、でもたくさんの人に聴いてもらえる“場”がなかったので、ドラマの第一話を観た時はグッときました」(Jun)

――ドラマの第一話を観た時はどんな感じでした?

わちゅ~ コメディというベースがありつつ、次々と色々なことが起こっていくドラマなので、曲の明るい感じはすごくマッチしていると思いました。

Jun 第一話を観た時にグッときたというか、すごく充実した気持ちになりました。コロナ禍でライヴが思うようにできなくなって、楽曲制作に力を入れていました。でも披露する場もなくて、たくさんの方に聴いていただきたいというフラストレーションも溜まってきて、そんな時にこの主題歌のお話をいただきました。制作は、みんなが言っているように大変でした。でもそんな曲が地上波のドラマで流れて、たくさんの人に届いて、コメディドラマなのに辛かった時のことを思い出して、グッときてしまいました。

大輝 ドラマのコメディ感もありつつ、そっちに寄り過ぎず、ちょうどいいラインに着地できたと、ドラマを観ていてすごく思いました。

「コロナ禍でバンド、自分自身を見つめ直し、楽曲の制作方法や歌詞の書き方も変えて、試行錯誤しながら、苦しみながらできあがった作品です」(TSUBASA)

――MVのコメントをみていると、この曲も含めてThinking Dogsのこれまでの数々のタイアップ曲を高く評価する声が多いですよね。期待以上のものを作り続けてきた結果だと思います。

TSUBASA そういうコメントを目にすると、本当に嬉しいし、ありがたいです。でも一方で、デビューの時から世間からの見え方も理解しています。「おいしいタイアップっていうプレゼントをもらって、こいつらそれを開けてるだけ」とか、そういうコメントをみると、やっぱり悔しいし、そういう声に発奮して死にもの狂いでいい曲を作ってきたという自負があるます。今回は特にめちゃくちゃ頑張ったので、一人でも多くの人に聴いてもらって、いいって感じてもらえると嬉しいです。

TSUBASA(Vo)
TSUBASA(Vo)

――視聴者、リスナーのハードルが、最初から高くなっていると思います。

TSUBASA ちょっと愚痴っぽくなるかもしれませんが(笑)、コロナ禍でバンドを、自分自身を見つめる時間が増えて、メンバーそれぞれが色々な思いに至って、今回も挑戦だったし、変化を感じました。僕は今回何度も書き直して、自分の歌詞の書き方を根底から変えなければいけないくらい、歌詞と向き合いました。ゼロベースから書いた感覚で、それが受け入れられるかどうか、正直不安です。もちろんその正解は誰もわからないし、これが正解っぽいというものが見えたら、とりあえずそこに向かっていくしかなくて。そこに向かうために作戦まで立てて曲を作ったのは、今回が初めてかもしれません。今回、書き直しの千本ノックを受けている時(笑)、ドラマ原作を書かれている秋元さんの色々な曲の歌詞を読んで、比較するのはおこがましいですが、自分の歌詞にはない部分が秋元さんの歌詞は全てあって、読めば読むほど悔しいくらいすごいなって思いました。でもそこからやる気が出て、頑張ることができました。機会があったら歌詞について聞きたいことが一万個以上あります。

わちゅ~ 本当にここ1~2年でTSUBASAの書く歌詞が変わりました。僕が言える立場ではないんですけど、まず場面の切り取り方が変わって、そのシーンが即映像として浮かんでくるような、内容の濃い歌詞を書いてくれるようになりました。その経過を僕は見てきてたので、その中でいただいた今回の主題歌の歌詞も、最初にあげてきたものも100%よかったんですけど、今のTSUBASAならもっといけるでしょってスタッフさんに言ったんです。それがそのままTSUBASAに伝わっていました(笑)。でも、TSUBASAがそれを超えるものをあげてきてくれたので、さすがだなって思いました。

「エキストラ」(11月17日発売/通常盤)
「エキストラ」(11月17日発売/通常盤)

「『はじまりの~』は、コロナ禍でこれまでとこれからを見つめ直し、一人ひとりの意識が変わり始めて新しいThinking Dogsが芽生えたきた、始まりの一曲」(Jun)

――カップリングには今年3月に配信リリースされた「はじまりのピリオド」(ひかりTVのオリジナルドラマ『ボーダレス』主題歌)も収録されていて、大輝さん、わちゅ~さんコンビによるミディアムナンバーで、ちょっとダークでミステリアスで、「エキストラ」とは全く違う世界観です。

Jun ちょうどこの曲を作り始めた頃、コロナ禍での生活になって、先ほども出ましたが楽曲制作強化期間に突入して、バンド、個人、楽曲に対して改めて見つめ直す時期でした。この曲は、一人ひとりの意識が変わり始めて、新しいThinking Dogsが芽生えてきた、その始まりの一曲と言ってもいいと思います。

TSUBASA 歌も感情を入れ過ぎないで表現して、それも初めてだったと思います。

わちゅ~(B)
わちゅ~(B)

「『24:55』は初めて詞先で書いた曲。大輝の歌詞が新しい自分を引き出してくれた」(わちゅ~)

――もう一曲も大輝さん、わちゅ~さんコンビによるR&Bテイストのナンバー「24:55」で、この曲は初めての詞先だとお聞きしました。

大輝 そうなんです、初めて歌詞を先に書いて、わちゅ~が曲をつけてくれました。いつか“最終電車”をテーマにした歌詞を書きたいと思っていて、「24:55」というのは当時僕が使っていた最寄り駅までの最終電車の時間です。映像が浮かびやすいような歌詞にしたかったんです。

わちゅ~ コロナ禍で曲をみんなで作ろうってなったタイミングで、曲作りも色々なやり方に挑戦しようと。それで詞先でやってみて、大輝から届いた歌詞を読んだ瞬間情景が浮かんで、メロディが出てきました。歌詞に導かれて、という感じで、それまでの自分にはなかった新しい部分を引き出してもらったと思います。今までの癖ややり方ではなくて、新しい感性で曲を仕上げることができたことは、自分でも新鮮でした。この曲を作ってから曲作りがさらに楽しくなってきました。

――今日はJunさんがあまりしゃべっていませんね。

Jun 最近あまり人としゃべってなかったので…(笑)。今回の3曲はアレンジャーさんに入ってもらって、ギターの在り方というものを改めて考えることができました。僕は曲に隙間があったらギターで埋めたいタイプで、ギターソロも欲しいなって思うんですけど、でもそうじゃない、と。特に「24:55」では、隙間を恐れずに弾いてもカッコよく決まるんだなっていう発見がありました。ギターの置きどころが今までとは違うので、そこも楽しんで欲しいです。

全員が曲を書けるのが強み。「それが切磋琢磨につながるし、メンバー内で競争が起こるのはいいこと」(大輝)

――全員が曲を書けるというのがThinking Dogsの武器になりますね。

わちゅ~ 今回は特に総力戦でした。最初にこのドラマの主題歌って決まった時全員で何十曲も書いて、その時から全員で歌詞も書いていました。

TSUBASA 全員全くタイプが違う曲、歌詞を書くので、色々発見がありました。個人的には「24:55」の大輝の歌詞がすごくいいなって思っていて。自分も歌詞で千本ノックを受けている最中で、シーンの切り取り方、表現の仕方に悩んでいて、そんな時に大輝が書いた歌詞が、きれいに30分間を切り取ってドラマを作ることができているのを読んで、触発されました。

大輝(Dr)
大輝(Dr)

――バンドの中での競争が相乗効果として作品に現れているのかもしれません。

TSUBASA そうかもしれません。

大輝 今回ドラマ主題歌はわちゅ〜さんの曲が選ばれたけど、やっぱ心のどっかで自分の曲の方が…という思いもあるので、それが切磋琢磨につながると思うし、メンバー内で競争できるのはいいことだと思います。

TSUBASA 今回は“不倫”というテーマが与えられて、曲ができてから歌詞は全員がすごく苦労して書いたと思います。恋愛ものなので、4人それぞれ恋愛の切り口の捉え方も全然違うし、そこで初めて大輝ってこういう恋愛してきたのかなとか、Junってこう思ってるんだって知ることができて、それぞれの個性が出ているので面白かったです。

Thinking Dogs オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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