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“カリスマ・テノール”ヴィットリオ・グリゴーロ、圧巻の歌、情熱的なステージで魅了

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BSフジ

現代最高峰のテノール歌手・ヴィットリオ・グリゴーロ、サントリーホールに降臨

“ポスト三大テノール”“パヴァロッティの再来”と称される、現代最高峰のカリスマ・テノール、ヴィットリオ・グリゴーロの『ヴィットリオ・グリゴーロ テノールコンサート2020』が10月31日、サントリーホールで行われた。コロナ禍で一年延期となったコンサートがようやく実現。フレンドリーで、カジュアルで、自由度が高いテノールコンサートだった。待ちわびたファンの温かな拍手が会場を包んだ。

オーケストラはこれまでも、テノール歌手のステファン・ポップや、ファン・ディエゴ・フローレス等の日本公演に出演している東京21世紀管弦楽団。指揮はローマ出身の指揮者兼ピアニストでパヴァロッティやブルゾンなど偉大な歌手とも共演経験があり、グリゴーロとも共演歴があるマルコ・ボエーミ。役者は揃った。

ステージを縦横無尽に駆け回り、客席の近くで歌う

一曲目はロッシーニの歌曲『音楽の教会』より「踊り~La danza」。オーケストラが演奏し始めると、グリゴーロが走りながら登場。客席に手拍子を求め盛り上げる。イタリア人の陽気さを感じさせてくれる、<恋人よ、恋人よ、すでに月は海の真上、恋人よ、踊ろう>と歌うロッシーニらしいテンポが速い明るいオペラだ。グルゴーロはステージを縦横無尽に駆けまわりエネルギッシュに歌う。ステージ後方の席まで駆け寄り歌うサービスに、ファンは大喜びだ。演奏が終わると客席前列の熱烈なファンからイタリア国旗の色を配した扇子を受け取り、ご機嫌で袖にはける。一曲目から会場の熱が一気に高まる。

自由自在に演じ、歌う、その圧倒的な表現力に感情が揺さぶられる

プッチーニのオペラ『トスカ』より「妙なる調和」では、まさには俳優のように主人公に憑依したような歌で、強く切ない響きを、客席に届ける。続いて披露したプッチーニのオペラ《ジャンニ・スキッキ》より「フィレンツェは花咲く木のように」も情熱的で、時にシリアスに、コミカルに自由自在に演じながら歌う表現力に、感情が揺さぶられる。まさに圧巻のパフォーマンス。その表現力は、ビゼーのフランスオペラの名作《カルメン》の「おまえの投げたこの花を(花の歌)」ではさらに冴えわたり、抒情的な世界に客席をいざない、感動の波が広がっていく。一部ラストのレオンカヴァッロのオペラ『道化師』より「衣装を着けろ」で、悲しみを抱えながらも観客を笑わせるために舞台に立つ道化師を演じ、時にひざまずきながら、まさに喜怒哀楽を曝け出すその歌は、極上の響きとなって、世界一の“響き”と言われているサントリーホールの隅々にまで伝わり、そこにいる全ての人の心を震わせる。スタンディングオベーションが巻き起こる。歌の素晴らしさはもちろん、とにかく客席を楽しませようとする、グリゴーロのその姿勢に対するものだ。

第二部はもともと予定されていた曲目の半数近くが直前で変更となり、指揮のボエーミとオーケストラのメンバーとがその場で曲順を確認をするという、ある意味レアなシーンを見ることができた。レオンカヴァッロのオペラ「朝の歌」からスタート。のびやかな歌は、情熱的かつ朝の陽の光のような爽やかさも感じさせてくれる。古くから日本人にも愛されているナポリ民謡「忘れな草」も、折り目正しい歌の中に細やかに陰影を表現してくれる。

歌い踊るグリゴーロ、客席の心も躍る。甘く誠実な歌で、ファンの心をとろけさせる。

オッフェンバックの喜歌劇『地獄のオルフェ(天国と地獄)』序曲より「フレンチ・カンカン」やビゼーの歌劇『カルメン』より「前奏曲」の、おなじみのポピュラーな楽曲の演奏で盛り上げる。スペイン語で歌う情熱的なラブソング「シェリト・リンド(愛しい人)」では、フラメンコの足拍子で感情を表現し、ステージと客席を盛り上げる。歌い終わるとオケのメンバーからカスタネットを借り、さらに歌い踊る。客席の心も躍る。ホセ・ラカジェ作曲のおなじみの「アマポーラ」では、深みのある甘い歌声を聴かせてくれる。やんちゃで陽気なパフォーマンスで客席を喜ばせてきたが、一転してどこまでも甘く誠実な歌でとろけさせるその“メリハリ”に、引きつけられる女性ファンは多いはずだ。

ラストはアウグスティン・ララの「グラナダ」だ。グリゴーロはジャケットを脱ぎ、それをマタドールのようにヒラリとさせ、金管楽器の響きが印象的なこの曲を、情熱的かつムーディーに歌い上げ、そのドラマティックさに誰もがステージに、歌にものすごい力で引き寄せられるような感覚を覚えた。大きな拍手が沸き起こり、ノリノリのグリゴーロはトランペットとトローンボーンの金管セクションの奏者をステージの前に呼び、自らが指揮を執り、同曲のフィナーレの部分を自身でアンコールし、とことんステージを楽しみ、楽しませる。

サービス精神旺盛なステージに、誰もが魅了される

アンコールの拍手に応えて再びステージに登場したグリゴーロは、ハロウィンらしく“ジャック・オ・ランタン”が付いた棒を持ち、そして客席から渡されたタオルを頭に巻いて、指揮台に上がる。その棒をタクト代わりに『カルメン』「前奏曲」を指揮するという、エンターテイナーぶりを見せてくれた。そして「オー・ソレ・ミオ」を優雅に、情熱的に歌い大団円。スタンディングオベーションはいつまでも鳴り止むことがなかった。

この日のグリゴーロのステージを観ていると、例えばこれまでオペラに縁がなかった人、コンサートを観たことがない人も、ノンマイクで劇場中に響く唯一無二の声、その圧巻の表現力、華やかなステージに、感情というものがこんなにも激しく動き、掘り下げられるのかと、心が揺さぶられることは間違いない。これが世界最高峰のテノール歌手の圧倒的な力なのか、と。

グリゴーロ×秋川雅史×清塚信也=「The MASTERPIECE〜CLASSIC meets ROCK〜」

ヴィットリオ・グリゴーロ
ヴィットリオ・グリゴーロ

グリゴーロは11月12日(金)には千葉・舞浜アンフィシアターで、ピアニスト清塚信也、テノール歌手・秋川雅史と共演する「The MASTERPIECE〜CLASSIC meets ROCK〜」に出演する。この公演について「普段はクラシックを歌う私が、ロックを歌うスペシャルなコンサートです!秋川雅史と清塚信也とのコラボレーションに今からワクワクが止まらないです。このスペシャルなコンサートをお見逃しなく!」と、フィールドが違うステージで、秋川と清塚との共演で生まれる化学反応に期待している。

秋川雅史
秋川雅史

清塚信也
清塚信也

また、この日グリゴーロの公演を観にきていた秋川雅史から、グリゴーロとの共演についてのコメントが届いた。「グリゴーロさんはパヴァロッティ亡きあと、世界で最も活躍するイタリア人オペラ歌手です。その声は圧倒的で、オーケストラを飛び越えて飛んでくる輝かしい歌声は、聴く人を一瞬にして魅きつける力を持っています。そんな彼が、今回日本でロックやポップスの名曲を歌うコンサートを一夜だけ行うというので注目されています。私も光栄ながらこのコンサートにご一緒させて頂きますが、いつもとは違うジャンルの音楽を歌う事にワクワクしています。ジャンルを超えた音楽の魅力を届けられたらと思っています」(秋川雅史)。

どんなステージが繰り広げられるのか、楽しみだ。

「The MASTERPIECE〜CLASSIC meets ROCK〜」特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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