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遥海 「一生懸命、ではなく死ぬ気で歌った」『科捜研の女 -劇場版-』主題歌 深化したシンガーの現在地

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ/アリオラジャパン

映画『科捜研の女 -劇場版-』の主題歌「声」を歌う

22年間続く人気長寿ドラマ『科捜研の女』(テレビ朝日系)の初の劇場版、映画『科捜研の女 -劇場版-』が9月3日から公開されたが、その主題歌「声」も同日先行配信された。歌うのはデビュー2年目の注目シンガー・遥海だ。この大役に遥海は「歴史の長い素晴らしい作品に携われて光栄です。責任を持って、そして、心を込めて大事に『声』を歌わせていただきました」とコメント。その「声」を、遥海が8月27日渋谷WWWで行なったメジャーデビュー後初の、約一年半ぶりの有観客ワンマンライヴ『HARUMI LIVE 2021“FOCUS”』で初披露した。

メジャーデビュー後初、約一年半ぶりの有観客ライヴで、進化した姿を見せる

4オクターブの音域を操る、パワフルで圧倒的な“強い歌”を歌うシンガー――多くの人が持つ遥海のイメージだろう。しかし遥海とその歌は進化し、深化していた。アンコールで披露した「声」は凛とした強さと温もり、優しさを感じさせてくれ、その繊細な表現力に客席は引き込まれていた。この日は『INSPIRED EP』にも収録されているアリシア・キーズ「No One」などの洋楽のカバーと、「DIAMOND」「Don’t Break My Heart」「DANCE DANCE DANCE!」などアッパーなオリジナル曲、そしてNHK「みんなのうた」(8-9月オンエア)に選ばれた「スナビキソウ」や、昨年末配信リリースした「WEAK」、「Answer」、メジャーデビュー曲「Pride」など、バラ―ド、ミディアムテンポの作品を緩急をつけた構成で披露し、久々のライヴを自身が楽しみながらも、成長した姿を余すことなく伝えていた。メジャーデビュー後もコロナ禍で活動がままならない状況の中で、彼女は改めて歌に対する姿勢や、自分がやるべきこと、やらなければいけないことを冷静に見つめ直した。そしてその答えがこの日のライヴに全て出ていた。それはきちんと歌と、そこに流れている思いを伝えること――このライヴの約一か月前に遥海がインタビューで語ってくれたこと――を感じることができたパフォーマンスだった。

「こんな不安状況だからこそ、いつでも動けるように集中して、ブレない自分でいたいと思った」

7月にリリースした配信限定シングル「ずっと、、、」、8月に先行配信された「スナビキソウ」、そして「声」について、遥海に語ってもらった。この3曲を聴いていると表現力の進化を強く感じることができる。

「三か月連続のリリースになって、色が全然違う曲達なので自分でも面白いなと思いました。ジャンルを決めたくないってずっと言ってきたので、それがこの3曲に現れているし、今また初心に戻った感覚です」。

シンガーとしての自分の思いを、改めて考えることができた3曲だった。そして自身でも歌が変わってきたことを実感していた。

「いつもライヴに来てくれる友達や家族に声が変わったって言われます。そう言われて17歳の頃の歌を聴いてみると恥ずかしくて、でも色々な経験を積み重ねて声も変わってくるんだと思いました。特に去年から今年はこういう状況の中で、色々大変なことに見舞われて、でもその中で負けるわけにはいかない、成長し続けるんだってプラスに捉えることができました。試練っていうものが怖くなくなったというか、どんな試練を目の前にしても私は頑張っていけるというマインドになれる自分がいました。不安を抱えても、そこでただ怯えて何もしないのではなくて、どうしたら乗り越えられるかということを考えるのが楽しくなりました。ライヴタイトルの“FOCUS”という言葉も、この2年はずごく集中力が必要だった年だったんだなって思って、そこから出てきました。不安な中でも、常に臨戦態勢でいなくちゃいけない、だから集中力だけは切らしたくないって思いました。集中して、ブレない自分でいたいという思いを込めました」。

「今まであった色々なこと、経験は『スナビキソウ』という歌を歌うためだったのかなって思える」

彼女をこれまで何度かインタビューしてきたが、しゃべっているうちに感極まって涙ぐんでしまうことも度々あった。ライヴでも緊張からの焦りや、自身のストーリーとオーバーラップするような歌を歌う時は、時々泣いてしまったり、自身とその歌を100%伝えらないこともあった。でも先日のライヴでは一曲一曲、ひと言ひと言が心の隅々にまできちんと届いてきた。だから先述したように、「遥海とその歌は進化し、深化していた」と感じた。「スナビキソウ」は、まさに今の遥海だからこそできる豊かな感情表現が感動的なバラードだ。

「不思議な気持ちというか、今まであった色々なことや、なんでああいう経験をしなくちゃいけなかったんだろうってふと考えた時に、こういう曲を歌うためだったのかなって思えてきて。私がフィリピンから日本に来たのって、この曲を歌うためなのかもしれないって思ってしまうほどで、この曲を聴いていると泣きたくなります。歌詞に<咲キマスヨウニ><見レマスヨウニ>ってあって、なんでカタカナなんだろうって考えていたら、単純に私も日本に来たばかりの時は、日本語はカタコトで、だからその頃を思い出して歌いました。小さい頃から姉に『運命が、自分をどこに連れて行こうと、絶対に理由があるし目的があるから、そこできれいに咲きなさい』ってよく言われていて、あの頃の自分と繋がってもっと思い入れが強くなったし、歌に深く入り込めた自分がいました」。

「『スナビキソウ』を歌っていると泣きそうになるけど、笑顔で歌いたい」

NHK「みんなのうた」(8-9月オンエア)に選ばれているこの曲は、砂浜でも健気に咲くスナビキソウをモチーフに、厳しい環境の中でもあきらめず、前に進む人々の姿を描き、老若男女に愛されている。遥海も言葉がなかなか通じず、たくさん悔しい思いをした幼少期の自分とオーバーラップしているところがある。一人のために書かれたように感じる曲が、まさに“みんなの歌”、応援歌になる。

「今だから、この優しい歌が歌えるのだと思います。もっと若かった頃は、『私はうまいから』ってどこか尖っていたところがあったと思います(笑)。だから全てのことは“タイミング”なんだということを改めて感じました。この曲はライヴでも自分の気持ちを抑えながら歌わないと、泣き崩れると思ったので(笑)、家で何度も何度もこの曲を聴いて、とにかく自分の気持ちを整理して、できるだけ笑顔でこの曲を歌いたいなって思いました。自分が歌うために生まれてきた曲と思っていたとしても、みんなが聴くために生まれてきた曲でもあるので、辛かった頃があったからこそ笑顔になれた自分がいるので、笑顔で歌いたいなって。この曲は一発録りでしたが、その場で生まれた相乗効果は今もはっきり覚えて、素晴らしいギターの音に歌も感化されました。私とギタリストの方とが砂浜で歌っているシーンを想像しました。私は白いワンピースを着て座って、素足でその爪には何も塗っていなくて、風で髪の毛が揺れて…そんなイメージで歌いました。ずっとアコギで歌っていますが、途中でエレキギターが入ってきて、その音がファンのみなさんとか、応援してくださっているかたの気持ちだと思っていて、それを全部受け取って歌っている感覚です」

遥海は、自身のアイデンティティを映し出した、一生歌っていける強くて優しい曲を手に入れた。

「優しさって、優しくいたいと思えば優しくいられるから、でもそれは大変なことかもしれないけど、すごく大切なことなんだなって改めて思いました」。

「『ずっと、、、』のような恋愛経験がないので、自分の中に入れて、歌うまでに時間がかかった」

「ずっと、、、」は、二人ならどんなことを乗り越えられると、恋を前向きに捉え、女性目線で歌った、熱くてクールなラテンフレーバーに心も体も躍るダンスナンバーだ。カップルの幸せな瞬間を切り取った、ハッピー感あふれるMUSIC VIDEOも印象的だ。

「私はこういう恋愛を体験したことないので、歌うのに時間がかかりました。まずこの恋愛がわからない(笑)。いつも私はわがままが言えなくて、相手に合わせて自分を削っているような恋愛しかしたことがなかったので、歌詞で描かれているシーンが、最初はピンときませんでした。だから逆にこの曲で描かれているような恋愛に憧れます。MVの撮影も観に行きました。演じてくれた二人が本当に初対面ですか?っていうくらい化学反応が凄すぎて、ラブラブな空気を感じすぎて、見ていられなかったです(笑)。でも二人から生まれる空気があの歌詞を、よりリアルなものとして届けてくれると思います」。

放送から22年続く人気ドラマの映画化。その主題歌を担当するという大役に「一生懸命、ではなく死ぬ気で歌いました」

映画『科捜研の女 -劇場版-』は、放送から22年、幅広い層から高い人気を誇るドラマの初映画化ということで、大きな注目が集まっている。その主題歌を遥海が歌う。昨年メジャーデビューを果たし、大きく羽ばたくチャンスを掴んだ。

「声」(9月3日配信リリース)
「声」(9月3日配信リリース)

「お話をいただいた時は、20年以上の歴史を背負うという感覚で、それくらいの重さでした。『INSPIRED EP』でプロデュースをしてくださった松浦晃久さんが曲を書いて下さって、私の声のレンジを一番わかってくれているという安心感もありました。低い響きから高い響きまで一番いいところを掬ってくださっているので、歌っていて気持ちがいいです。この曲は映画の主題歌ではあるのですが、今の世の中の全ての人に訴えていること、伝えたいことを歌っていると思っています。例えどんな暗闇の中にいたとしても、ひと筋の光になるものが絶対にあって、それは人の言葉や声だと思うんです。そんな思いプラス、このドラマの20年以上の歴史を背負って、一生懸命ではなく死ぬ気で歌いました」。

遥海を抜擢した同映画のプロデューサー・関拓也氏(テレビ朝日)は、2020年に行われたSony Music Labels新人コンベンションライヴで、デビュー前の遥海の歌声を聴き、その声がずっと心に残っていたという。「主題歌をどなたにオファーするか考えている際に、マリコの芯があり、何事にも真摯に向き合う姿を歌でも表現してほしいと考えたときに、遥海さんのパフォーマンスを思い出し、今回オファーさせていただきました。完成した楽曲は、悩んだり迷ったりしたときに優しく包み込んでくれる道標のようなマリコの暖かさを感じました(抜粋)」とコメントしている。

「コロナ禍で感じていた怒りや悔しさ、悲しみが『声』や『スナビキソウ』を歌うことで変化してきました」

「コロナ禍で自分もコロナへの憎しみや怒り、色々なことに対する悔しさを日々感じて、でも誰にもぶつけられないこの感情ってなんだろうって思ったら、もうそれを思うことにも感じることにも疲れてしまって。でもこの『声』や『スナビキソウ』がそんな気持ちを変えてくれました。『声』は、<怒りや悲しみ 生きづらさに 何度 折れそうにな 忘れないよ 超えていく先に 光があること>という歌詞があるのですが、ここを最初に歌った時は、まだ感情が入り過ぎて強すぎると松浦さんに言われました。1回目のサビは60%、2回目のサビは70%、最後のサビは90%の力で変化をつけて歌っています。最後が100%ではなく90%というのは、残りの10%は私の中でこれから先、もっと頑張りたいけどけど、でも実際は不安って消えないよねというリアルな感情をきちんと表現できるように、松浦さんが導いてくれました」。

『科捜研の女 -劇場版-』の主演を努める沢口靖子も「光、新しい今日、見上げた空…何度やっても結果が出ない。でも、決して諦めず真実に辿り着こうと試みる…そんなマリコの精神と重なり、遥海さんの言葉が胸に響きました(抜粋)」と「声」を絶賛している。この曲と、遥海の歌声が、多くの人の心に“光”となって届きそうだ。渋谷WWWのステージ上から、来年3月から『Harumi "My Heartbeat" 2022 TOUR』を行なうことを発表。多くの人に“光”=歌を届ける。

遥海 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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