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43年間、T-SQUAREを支えてきたリーダー・安藤正容、退団 名ギタリストが決断するまで

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト(以下全て)

T-SQUAREのリーダー・安藤正容、退団

2月、今年デビュー43年を迎えた日本を代表するポップ・インストゥルメンタル・バンドT-SQUAREとファンに激震が走った。それは結成からただ一人バンドに在籍し続けた安藤正容(G)が2月、公式YouTubeチャンネルで2021年夏のフェアウェルツアーを最後に退団することを発表したからだ。国内外のファンからは勇退を残念がる声がYouTubeのコメント欄にも多く届いている。「数年前から、どこかでT-SQUAREの活動から身を引かなければならないと考えていました」と語っている安藤に、勇退することについて、そして7月28日に発売されたT-SQUAREの新旧メンバーが選曲に関わった7枚組CD+Blu-rayボックスセット『Crème de la Crème ~Édition spéciale~ 特別篇@THE SQUARE~T-SQUARE "1978~2021"作品集』について話を聞かせてもらった。

安藤正容、伊東たけし、坂東慧
安藤正容、伊東たけし、坂東慧

「43年ずっとやってるのは僕だけで、スクエアってメンバーチェンジ繰り返しながらも続いてるバンドなので、これからはまた新しいT-SQUAREとして、坂東(慧/D)くんと伊東(たけし/Sax, EWI, Flute)さんがやっていくと思うので、そこはまた楽しみです」——T-SQUAREからの勇退を発表した安藤は、まずそう語ってくれたが、ファン的には“最後の砦”がいなくなったような、寂寥感に苛まれている人も多いのではないだろうか。

「年齢の問題なのかどうか、自分でもわからないが、 制作に新鮮味がなくなり、ライヴで曲を深化させることができなくなった」

勇退の理由は、動画や文章で発表した内容のそれ以上でもそれ以下でもないと思う。T-SQUAREは毎年オリジナルアルバムを出し続ける、インストバンドとしては稀有な存在であり、その旺盛なクリエイティビティが、年齢を重ねると共に「少々キツくなってきた」と語っている。

「これは年齢の問題なのかなんなのか、自分でもよくわからないのですが、この2~3年はモチベーションが落ちてきていたのは確かで、頑張ればできるのかもしれないですけど、果たしてそれで納得いくものができるのかという心配もあって。結局、納得いかなくても一応作っては出す、そんなことになりかねないので、それだけは避けたかったです。ただ昔はアルバムを出すたびに、この曲すごくいい曲なのに、そのできあがりに今ひとつ満足できなかったりすると、次のアルバムは頑張るぞという気持ちがすごく強くなっていました。毎回レコーディングが待ち遠しくて、でも次第にノウハウを身につけてしまうと、新鮮さを失っていくという部分もありました。スクエアが一番元気があったのは90年代、全国ホールツアーで40~50本ライヴをやっていた頃だったと思います。当時はこの本数やるのは辛いなって思ったこともありました。でもそれだけやっていると曲の理解度も深まって、自分の中にだんだん染み込んでいくので曲に愛着も湧くし、お客さんの反応もすごく伝わってきました。お客さんとのやりとりの中から生まれるいい曲もたくさんあったし、そうすると曲が生きものになっていって、次のライヴでまたあの曲は入れようかとか、そういう風になります。でもここ十数年は、東名阪くらいでしかライヴやっていなかったので、そうするとその年の新曲を披露するのは3回くらいで、で、次また新しいものっていう感じでした。仕方ないことですが、毎年ニューアルバムを出すことで、楽曲が使い捨てとは言いませんが、そうやって終わっていくのが僕はすごく嫌だなって思っていました」。

「ちょっと休もうという感じ。きっとまた自分の中から湧き出てくるものがあるはず」

クリエイターとしてのプライド、表現者としてのこだわりを優先できるペースで活動を続けたい、という思いからの決断だったのだろうか。またコロナ禍で表現者としての気持ちに変化が訪れ、それも影響しているのだろうか。

「そんな偉そうなものでもなくて、ちょっと休もうよっていう感じです。そしたらまた自分の中から湧き出てくるものがあるのかなっていう感覚です。コロナが流行する前に辞めることは決めていました。でもそんな中で、逆に『辞めてもいいかも』って決断できて、自分は間違っていなかったと改めて思えました。こういうことって1~2年の問題ではなくて、もう少し時間が経ってから『あの時辞めなきゃよかった』とか思うかもしれないし、それはわからないです」。

メンバーチェンジをしながらも、安藤はそこにしっかり根を張り、ブラッシュアップをしながらT-SQUAREというブランドを進化させ、守り続けてきた。そしてもう一人、T-SQUAREに人生を捧げている、最も近くにいるスタッフの存在が安藤にとっては大きかったという。

「僕が不器用なので、これしかできなかったのでやり続けたということと、初代マネージャーでもあり現事務所の社長が、並々ならぬスクエア愛を持っていて、自分のライフワークとして、このバンドと一緒にやっていこうという強い気持ちがあったことが大きかったと思います。例えば誰かが辞めるってなった時、僕はその先のことはあまり考えないんですけど、そうすると彼が『こういうすごいミュージシャンがいるんだけど、どう?』って話を持ってきて、そこからまた前に進んでいくということが多かったです。ここまで続けてこれたのは彼の力も大きいと改めて感じています。今回僕が辞めることについては、意外とすんなり『わかった』と言ってくれて、もめなかったですね(笑)」。

「坂東くんや河野くんがいなかったら、スクエアはもっと早く終わっていたと思う」

元メンバーの和泉宏隆が4月26日に急逝、さらに約18年間キーボード、アレンジを手がけた河野啓三が2020年に退団。約15年間続いた4人体制が、最新作『FLY! FLY! FLY!』(2021年4月21日)では3人体制となった。この作品が安藤としては最後のオリジナルアルバムになった。また『Crème de la Crème ~Édition spéciale~ 特別篇@THE SQUARE~T-SQUARE "1978~2021"作品集』には、和泉が参加した4月4日ブルーノート東京で行われたTHE SQUARE Reunion最後のステージを収めたBlu-rayディスクが収録されている。

THE SQUARE Reuinon
THE SQUARE Reuinon

「坂東くんや河野くんは、本当にスクエアのことが好きで参加してくれました。すごくこのバンドのことを理解しつつ、伊東さんや僕のことを立ててくれるような曲を書いてくれたり、斬新なアレンジをしてくれて、彼らがいなかったらたぶんもっと早くスクエアって終わっていたと思います。僕もだんだん曲が書けなくなっていたし、やっぱり河野くんの新鮮な曲や坂東くんの非常に新しい感じの曲があったお陰で、彼らが加入した2004年頃から、また新しいスクエアが始まったと思っています。彼らがいなかったらもっと早くに僕は煮詰まっていたと思います。和泉君のことは、本当にびっくりしました。亡くなる直前に、新旧メンバーが揃うTHE SQUARE Reuinonとして、ブルーノート東京でライヴをやったのですが、その時に伊東さんが『もう安藤とユニゾンするのもこれで最後だな』って言っていましたが、このReuinonでの活動はやってもいいのかなってちょっと思っていました。でもそう思っていた矢先に和泉くんが亡くなってしまったので、これも叶わなくなってびっくりしたりガッカリしたり、淋しくなりました」。

80年代後半~90年代はフュージョンがシーンの中でひとつの盛り上がりとして、多くの人に支持され、その中でもT-SQUAREはメロディアスなインストで絶大な人気を誇った。安藤や和泉を始め、メロディメーカーが揃っていたことが強みだ。安藤が書くメロディは“歌心”があり、口ずさみたくなる。聴いた瞬間に情景が広がる。

「ビートルズが好きで、最初の頃はあんまり楽器を使わずに、歌ってメロディを作っていました。それを吹かされる伊東さんは相当苦労したと思います(笑)。『器楽的じゃない。サックスで吹くのは辛いよ』とよく文句を言われました(笑)」。

「アルバムの選曲は、ライヴ受けがいい曲、自分では気に入っているのに誰も何も言ってくれない曲や、ライヴバージョンを入れたり、あまりテーマ性はなく選びました」

『Crème de la Crème ~Édition spéciale~ 特別篇@THE SQUARE~T-SQUARE
『Crème de la Crème ~Édition spéciale~ 特別篇@THE SQUARE~T-SQUARE "1978~2021"作品集』(7月28日発売)

『Crème de la Crème ~Édition spéciale~ 特別篇@THE SQUARE~T-SQUARE "1978~2021"作品集』では安藤正容作曲WORKSが26曲、和泉宏隆、坂東慧 作曲WORKSがそれぞれ10曲、そして則竹裕之、須藤満作曲WORKSがそれぞれ9曲収録されている。曲選びの基準を教えてもらった。

「改めて、和泉くんはいい曲をたくさん残してくれたなと思います。ベスト盤の曲を選ぶにあたって、選曲の筋があまり通っていなくて(笑)、最初はライヴでお客さんにウケがいい曲を選んでいました。そういう曲もありつつ、実は自分はすごく好きな曲だけど、誰もなんとも言ってくれない曲を入れたり(笑)。あとはSpotifyとか iTunesで検索しても出てこないだろうっていう曲を入れてみたり、サブスクやっている人はプレイリストを作ればできちゃうので、そうはさせないぞということで(笑)。やっぱり長いことライヴでやっていると、その曲が自分の理想の形になっていくこともあって、でもスタジオでレコーディングした当時、その曲達がうまくできていたかというと、できていないことが結構あります。だから特に昔の作品を聴くと稚拙だなって思うことも度々あります。ただそこはやっぱりオリジナル音源を選ぶしかないので、でも一曲だけ『LONESOME GEORGE』だけは、フィリップ・セス(Key)とやったブルーノート東京でのライヴのできがすごく良かったので、ライヴバージョンをセレクトしました」。

「スクエアの過去の作品で、個人的に気に入っているアルバムは『WELCOME TO THE ROSE GARDEN』」

ちなみに48枚のオリジナルアルバムの中で、一番好きなアルバムは?という質問をすると、「色々なところで言っていて、現メンバーには申し訳ないと思いつつ、『WELCOME TO THE ROSE GARDEN』(1995年)です。ロンドンでレコーディングして、自分の思い描くサウンドをエンジニアが作ってくれて、今も大好きなアルバムです」と教えてくれた。

「これからもギターを弾き続けていく」

退団後もミュージシャンとしての活動は続けていく。

「今まで毎年クリスマスと大晦日は仕事で、奥さんと過ごしたことがないので、ようやく家で一緒にのんびりできるのが楽しみです(笑)。何をやるかというのは全く考えていません。今は積極的にやりたいことがまだないので、あんまり表には出ないかもしれませんが、ミュージシャンを辞めるわけではないし、ギターは何より好きなのでこれからもずっと弾いていたいと思っています」。

8月7日(土)に東京・LINE CUBE SHIBUYAで行われる『安藤正容Farewell Tour「T-SQUARE Music Festival」』が、T-SQUARE在籍最後のライヴになる。THE SQUARE Reunion、センバシックス、そしてゲストに河野啓三を迎え、文字通り派手な最後の“お祭り”になりそうだ。

otonano『Crème de la Crème ~Édition spéciale~ 特別篇@THE SQUARE~T-SQUARE "1978~2021"作品集』特設サイト

T-SQUARE オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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