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MISIA×川谷絵音インタビュー<後編>「自分を変えるというより、変えられて起こる化学反応が楽しみ」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

MISIA×川谷絵音の夢のコラボで話題の、MISIAの最新作品「想いはらはらと」(4月28日配信)について、二人のレアなクロスインタビューが実現。<前編>に続いて<後編>では、表現者としてコロナ禍で一番感じたこと、そしてお互いに聞いてみたかったことなど話は多岐に渡り、貴重な話が飛び交う有意義な時間になった――。

「コロナ禍で、今までは自分が思っている以上に、人のことばかり考えていたことに気づいた。でも無理をせず、自分のことだけを考えようと思えたことがよかった」(川谷)

「音楽は不要ではないし、意外と不急でもなかったと実感させられた一年だった」(MISIA)

――コロナ禍で表現者として一番変わった考え方や、新たに感じたことを教えてください。

川谷 人に会わなくなったので、自分のことを考える時間ができて感じたのは、今まで、思っているよりずっと人のことを考えていたんだなと思いました。自分は元々引きこもり体質であったということを忘れていたというか、外に出ることが普通になっていたので、本当は疲れていたんだなとか、隣の芝生は青い的な感覚に陥りやすかったんですけど、自分のことだけを考えようと思えたことがよかったです。そう思っている人もたくさんいるのではないでしょうか。なのでライヴができなくなったりはしましたが、あまりマイナスのことばかりではなかったと思っています。

MISIA 音楽は不要不急のものって言われたこともあったけど、不要でもなかったし、意外と不急でもなかったと実感させられた1年でもありました。ライヴをやった時も、歌い始めた瞬間、お客さんが涙を流しながら聴いてくださって、ライヴに来たくて来たくて仕方がなかったという気持ちが伝わってきましたし……。これまで以上に音楽を大切に届けたいと思いますし、そんな時にこんな素晴らしい曲を歌うことができて有り難く思いますね。

「お客さんのライヴの向き合い方が変わったのを感じて、演る側の気持ちもガラッと変わってきました」(川谷)

――この状況での国の対策を見ていると、音楽、エンターテインメントは不要ではないけど不急、という感じの扱いの分野として見られています。

川谷 娯楽ではあるので、そこは難しいですよね。東日本大震災の時も、電気を使うという部分で音楽って真っ先に今は必要ないものになって。でもそんな中でもみなさんが音楽を必要としていることは、去年ライヴをやりながら改めて感じたし、ライヴができることって当たり前じゃないんだなということも実感しました。ステージに出ていくだけで、お客さんの気持ちが前のめりになる感覚が以前とは違って、「ライヴに行くことを反対されましたが来ました」という人もいたし、「会社で行くなって言われましたけど、万全の対策をとって来ました」とか、今までにはなかったライヴに向けての気持ちの作り方を感じるので、当然演る側の気持ちも変わってきました。

『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』(近日公開) (C)2021映画「ヒノマルソウル」製作委員会
『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』(近日公開) (C)2021映画「ヒノマルソウル」製作委員会

(C)2021映画「ヒノマルソウル」製作委員会
(C)2021映画「ヒノマルソウル」製作委員会

MISIA そういう尊さを知った後の人の力はすごいものがあると思います。今回の映画も、1994年のリレハンメルオリンピックスキージャンプ団体戦で、金メダル確実と言われながらアクシデントで金メダルを逃してしまったけれど、その悔しさや、そこにかけるメンバーの想いというその尊さを知っていたからこそ、テストジャンパーとして、メンバーをサポートしようと思えたのかもしれないですよね。そして、あの奇跡につながったのかもしれません。今私たちはそういう力に満ちている時だと思いたいです。

「どんなことも、一人ひとりの心と心がつながった時に奇跡が起こる。その一人ひとりへの応援歌が『Welcome One』です」(MISIA)

――「想いはらはらと」と同時配信リリースされる「Welcome One」もMISIAさんが作詞を手がけた前向きな言葉がつまっている歌詞と、小森田実さん作曲、CHOKKAKUさんアレンジのハウス調の楽曲が、力を与えてくれます。

MISIA この曲も東京オリンピック・パラリンピックにむけたJRA馬術競技応援の新CMソングなっていて、馬術競技は人馬一体、思いを重ねて行う競技なので、馬と人の心がひとつになった時に成し遂げられることがあるということと、選手や応援する人の気持ちも一つになった時に、ミラクルは起こるし、その奇跡を起こせるのは私達一人ひとりで、その一人ひとりへの応援歌になるといいなと思いました。

「絵音さんはいくつもバンドをやっていて、マルチプレイヤーで、まるで分身の術を使って全てのことに全力で向き合っているようです。その色々な絵音さんを、一度ギュッとひとつにして、見てみたい」(MISIA)

――こうしてお二人でお話する機会もなかなかないと思いますので、せっかくですのでお互いが聞いてみたいことがありましたら、是非この機会に(笑)。

川谷 こんなにスタッフがたくさんいる中で、改めてそう言われると、困りますよね(笑)。

MISIA 「想いはらはらと」は何をしている時に浮かんできたんですか?

川谷 いつものように部屋でひとりで作りました。作ろう!と思って始めるとなかなかいいものができないので、その気持ちは遠くに置いて作りました。

NHK-FM「MISIA 星空のラジオ~Sunday Sunset~」出演時(Photo/Aki Santin)
NHK-FM「MISIA 星空のラジオ~Sunday Sunset~」出演時(Photo/Aki Santin)

MISIA 絵音さんはいくつもバンドをやっていて、やれることも多くて、まるで分身の術を使っているような気がします(笑)。全部やりたいから、自分をバラバラにしてそれぞれと向き合っている感じがするから、一度そのバラバラになっているものを、ギュッとひとつにした絵音さんを見てみたいです(笑)。

川谷 多重人格ではあると思います。色々なバンドをやっているので、そのメンバーに会う時の自分をわけて使っている感じです。そうしないとすごく疲れてしまうので。MISIAさんも色々なジャンルの音楽、バンドと向き合っているので、そういう意味ではそのバンドによって自分を変えていく感じなのかなと思っていました。

MISIA 変えるのではなく、自分が変えられるが楽しいというか、化学反応を楽しんでいる感覚です。だから絵音さんとやるのもすごく楽しかったし、こんなメロディ感歌ったことがなかったので、刺激されました。

川谷 この曲をMISIAさんがラジオで初オンエアしてくださった後の、リスナーの反応を見たら「珍しい曲調」とか「メロディが細かい」という声が多くて、やっぱりそうなのかって実感しました。

MISIA リズムとメロディの取り方、言葉の乗せ方が本当に面白かったです。

川谷 僕が作る曲は“決め”が多いってよく言われて、歌の中でリズムを作らないタイプで、MISIAさんのように色々なメロディが歌えないので、自分が歌いやすいように作るとああいう感じになるのだと思います。本当はストレートに歌う曲も作ってみたいと思って、毎回チャレンジしてみますが、自分で歌うと物足りなさが勝ってしまって、結局刻んでいく感じになります。

MISIA 絵音さんのライヴ映像を観て、どういう風に歌っているのか口の動きを見て、このメロディを歌うにはどういう口の開け方をすればいいのかをチェックしました。

川谷 むちゃくちゃ恥ずかしいですね(笑)。MSIAさんの歌はゴスペルがベースになっているんですか?

MISIA ゴスペルは聴いていいなって思って、特に習ったりはしていなくて…。

川谷 どういう歌の練習をしているんですか?普段は毎日練習するんですか?

MISIA 私は元々地元の合唱団に入っていて、ボランティアでやっていらっしゃったそこの先生が音大の声楽科を出ている方で、その先生にクラシックの基礎を学び、それが今でも自分の中のベースになっています。なのでクラシックの基礎をポップスやジャズに応用して、勉強しているだなということを、後になって感じました。その先生に、基礎練習の大切を教えていただきました。今は自分の歌に変な癖が出てきたときに、スタジオにこもって修正するという感じです。

川谷 僕は癖が出てもそのままいってしまうので「あれ、前の感じにならない」って思いながらそのままやってしまって、結局迷宮入りすることが多いです。

MISIA 自分の声をレコーディングするといいですよ。それを客観的に聴いて、ピアノを鳴らして、この音階と音階の間に癖があるって全部チェックするとわかります。なんかすみません、先生みたいになってしまって(笑)。

「絵音さんの作品はプロデューサー、アーティスト、作家としての音作りがミックスされているから、一音対しての意味合いが強いのだと思う」(MISIA)

「作品にどうしても自分が入ってしまうので、職業作家の方の作り方は、やろうと思っても真似できないです」(川谷)

――川谷さんの作品は、どの曲も難しくて、普通の人はなかなかカラオケとかでも歌うのが難しいですよね。

川谷 歌いづらいとはよく言われます(笑)。

MISIA どちらかというと、歌がセリフみたいなんです。だから歌詞に共感できて、気持ちが乗っていないと歌うのが難しいんだろうなって、歌っていて思いました。

川谷 一生懸命メロディを追うあまりに、ロボットみたいな歌い方になる人も多くて。

MISIA 絵音さんの作品はプロデューサー、アーティスト、作家としての音作りがミックスされているから、一音に対しての意味合いが強いのだと思います。ひとつひとつの音、言葉の全部に意味があるから、それを解かないと思うように歌えないないのだと思います。

川谷 作品にむちゃくちゃ自分が入ってしまうところがネックだと感じていて。だからいつも職業作家の方の作り方はどうにも真似できないなぁと思っていて。

――将来は職業作家を目指しているんですか?

川谷 僕は元々歌うのがあまり好きではなくて、年々歌うのはもういいかなって思うようになってきて…。

MISIA じゃあまた是非曲を書いて下さい(笑)。

MISIA オフィシャルサイト

ゲスの極み乙女。 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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