MISIA×川谷絵音インタビュー<前編>初コラボ曲「想いはらはらと」ができるまで
MISIA×川谷絵音、夢のコラボ曲「想いはらはらと」は、映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』主題歌
MISIAの2021年第一弾作品「想いはらはらと」(4月28日配信リリース)は、映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』(近日公開予定)の主題歌で、作詞・曲を手がけたのは川谷絵音という豪華なコラボレーションが実現。「初めて聴いた時涙が出た」(MISIA)、「音楽を続けていてよかった」(川谷)と、化学反応を楽しみながら名曲を作り上げた二人にインタビュー。この楽曲ができあがるまでについて、また、表現者としてコロナ禍で改めて感じたこと、そしてそれぞれが聞いてみたかったことなど、話が尽きないレアなクロスインタビューになった。
「あまり考えすぎずに、思いつくまま弾き語っていって、すごくフラットに出てきたので、これだ!と思いました」(川谷)
――川谷さんはMISIAさんが歌う、実話映画の主題歌、というテーマがあった中で、まずはどんな構想が浮かんできたのでしょうか。
川谷 物心がついた時からMISIAさんの音楽を聴いていて、兄や姉がMISIAさんと久保田利伸さんが大好きで、カセットテープに録音していたものをいつも聴いていました。
MISIA 同じだ(笑)。私も姉から音楽を教えてもらっていました。
川谷 オリコンの1位から10位のものを毎週TSUTAYAでレンタルして、聴いていたりもしてJ-POPをずっと聴いて育ってきたので、MISIAさんの歌声もずっと頭の中にありました。それで、2019年にMISIAさんのライヴ『MISIA SOUL JAZZ SWEET & TENDER』を観に行かせていただいてから、頭の中がMISIAさんのソウル、ジャズの部分ばかりになってしまって、どうしようと思っていたら、だんだんわからなくなってきて。出てくる曲は、自分が背伸びしている感じというか、サウンド、アレンジありきの曲ばかりでした。それで、一旦ゼロに戻して、なんとなく自分で弾き語りでやったものの方がいいんじゃないかなって思い始めて。なので、あまり考えすぎず、その場で思いついたものを弾き語っていって、もちろんキーも低くて、でもサビのメロディが出てきたときにしっくりきて、着地点が想像できました。そうやってできたものの方がいいと常々思っているので、提供した時にそのアーティストのことを考えすぎて作ると、大体失敗するんです(笑)。きっとその人の歌声を想像しすぎると、自分じゃないものが出てきてしまうからだと思います。この曲はものすごくフラットに出てきたので、これだ!と思いました。それで、ギターで弾き語りの、これでいいのかなっていうくらいの(笑)ボイスメモを送らせていただいて、ただただ不安でした(笑)。
MISIA いただいた時は、すでに一番から三番までフルで入っていましたよね。
川谷 いつもは何回かに分けて録って作るんですけど、今回はワンテイクで録ったものを送らせていただきました。
「最後まで自分の思いを伝えきれない人のことを歌うのは初めて。そんな不器用な思いを、真っすぐ歌えたらいいなと思いました」(MISIA)
――そのデモを聴いて、MISIAさんがまず感じたことを教えてください。
MISIA 先ほど楽曲作りに悩んだとおしゃっていましたが、お会いして一週間後にはデモが届きました(笑)。絵音さんは、いろんな音楽を聞いている人だし、色々なバンドをやっていて、それぞれ特色があって…。なのでどの音が来るのかなって楽しみにして。でも私も、さっき絵音さんが言っていたような、サウンド先行で複雑なものが来るのかなと思っていたので、すごくシンプルで、私が絵音さんの音楽性の中で感じている、繊細でピュアな部分が出ている曲が来て、最初は意外な曲が来たなと感じました。私は歌い手としてはまっすぐなことをまっすぐに歌って伝えるタイプで、言いたいことをすぐに言ってしまうタイプでもあると思いますが、この歌のように最後まで自分の思いを伝えきれない人のことを歌うのは初めてで、そういう不器用な思いを真っすぐ歌えたらいいなと思いました。音楽ってそういう相反するものを上手に表現してくれます。楽しい曲に哀しい歌詞が乗っていると、不思議と切なくなったりします。この曲を聴いた時は涙が出てきました。人って言いたいことが言えない時は、本当にはらはら雪が積もるみたいに思いが積もって、それがいつのまにか氷のように硬くなって溶けなくなってしまって、どうしようもない時に、それこそ音楽や人の言葉がきっかけとなって、少しずつ溶け始めることってあると思います。このコロナ禍で不安を感じていても、それをなかなか口にできなくて、でもやっぱり音楽がその思いを掬いとってくれて、少しずつ溶け始めて、人の心情とどこか重なる部分もあるのではないでしょうか。映画もそうですが、それぞれ伝えきれない気持ちがあって、でもそれを何かの拍子に理解できたり、分かりたいと思った時に、みんなでエイヤ!って乗り越える感じにやっとなれる。そういう、心を溶かしてくれる歌だなって。この映画も、観ると力をもらえる作品。作品の中で、是非、この歌を聞いて欲しいですね。
「あまり人に物事をストレートに言わなくて、ため込んでしまうタイプなので、それが歌詞にも出てしまう。今回MISIAさんはストレートに歌って表現してくれて、なるほど!と思いました」(川谷)
「細やかに、複雑に韻が踏まれていて細部にまでこだわりを感じました」(MISIA)
――コロナの前にできあがっていた曲が、図らずも、コロナ禍で様々な思いを抱いている人達の心に響く曲になっています。
川谷 僕はずっと同じ感じで(笑)、いくつもバンドをやっているので、それぞれのバンドで空気の読み合いみたいになっていて(笑)。色々な人と接して、一応リーダーとして立ち回らなければいけないので、常々それぞれの人が思っていることを考えていて、だからあまり人に物事をストレートに言わなくなったというか。割とため込んでしまうタイプなので、曲を書くと大体そういう感じの歌詞になってしまいます。MISIAさんが『想いはらはらと』を「ストレートに歌いたい」というのは、そこは思ってもいなかったことなので、今聞いて、なるほど!とストンと落ちました。
MISIA でも難しかったですよ(笑)。私はずっとソウルミュージックを歌ってきているので、メロデイをきちんと歌わない癖があるというか、若干崩してアドリブを入れながら歌ってしまうことが多くて、でもこの曲は最初からきちんと歌詞が入っていて、アドリブを入れて歌っていくと、リズムが悪いということに気づきました。それで、歌詞を一旦書き出して、韻を踏んでいるところをチェックして、言葉だけではなく付点のところに入ってくる小さい「ツ」とか、そういうところにも韻が入っていて、細部にまでこだわりを感じてビックリしました。アレンジも、映画の世界観に合わせたオーケストレーションはどんな感じがいいのかなとか色々考えてみて、絵音さんに相談したところ、イントロの頭のあのピアノのフレーズが出てきました。リズムもどんどん変わっていって、絵音さんの色々な音楽性が出ていて、それを元に冨田恵一さんにお願いをしました。かなり絵音さんの世界観が入っているアレンジになっていると思います。
――イントロのピアノのあの一音で、曲の世界に引き込まれます。川谷さんは曲を作った時に、なんとなくアレンジも頭の中にあったのでしょうか?
川谷 メロディと歌詞に重きを置いていたので、この曲に関してはアレンジは全く考えていませんでした。それで、改めて考えたアレンジも超ラフで作ったもので、でもイントロのピアノだけはこれがいいなと思って作ったものです。あの音から始まると、全体が“大丈夫”だと思えたというか。冨田さんのアレンジを聴かせてもらって、冨田さんにはこういう風に見えているんだなって、ものすごく勉強になりました。
MISIA テレビの音楽番組(『音楽の日』(3月11日/TBS系))でも、この曲をBank Bandの皆さんと一緒にやらせていただきましたし、この前ライヴリハーサルの時に私のバンドも演奏していていたのですが、皆さん「イントロのコードが、あんまりない流れだ」「なかなか弾き慣れない」って話していて。
川谷 小林(武史)さんにも「今までで一番練習した」って言われました(笑)。
――歌詞は一筆書きだったのでしょうか?
川谷 なんとなく弾き語った時に出てきた語感のようなものは、そのまま生かしました。いつも最初は“適当語”で歌うので。
――「Ah」という吐息のようなところもフックになって、<きっときっと><そっとそっと>という繰り返す言葉のリズムも印象的でした。
川谷 「Ah」というのは息を吐くという部分で自然に出てきたもので、そこを歌詞にするかどうかは悩みましたが、活かしました。
「MISIAさんの歌が入ったものを初めて聴いた時は、頭から驚かされ、サビまでドキドキでした」(川谷)
――MISIAさん歌を聴いた時の率直な気持ちを改めて教えてください。
川谷 最初にお話をいただいた時から夢を見ているようだったので、最初部屋で弾き語りをしていたものに、灯をともしてくれた感じがしました。最初の歌の入りから「オ~」ってなってしまって、なかなかAメロから先に進めなくて(笑)、サビが来るのがドキドキで怖かったです。<後編>へ続く