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いきものがかり 初の無観客配信ライヴでファンとの絆を確かめ合い、その先へ

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
ライヴPhoto;岸田哲平/TEPPEI KISHIDA

15周年記念日前日に、横浜アリーナで初の単独無観客配信ライヴを開催

いきものがかりがメジャーデビュー15周年記念日前日の3月14日、自身初となる単独無観客配信ライヴ『いきものがかり デビュー15周年だよ!!! 〜会いにいくよ〜特別配信ライブ』を横浜アリーナで行なった。いきものがかりが横浜アリーナで単独ライヴを行なうのは2015年の『いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2015 ~FUN! FUN! FANFARE!~』以来6年ぶりだ。結成20周年イヤーだった2020年は他のアーティストもそうだったように、新型コロナ感染拡大の影響を考慮し、全国ツアー、アリーナツアーの全公演を中止した。3人はもちろん、ファンも悔しい思いをした。それでも、3人はファンに感謝の気持ちを伝えたいと9月には初の「デジタルフェス」(「いきものがかり結成20周年・BSフジ開局20周年記念 BSいきものがかり DIGITAL FES 2020 結成20周年だよ!! 〜リモートでモットお祝いしまSHOW!!!〜」)を行ない、その思いを伝えた。

とにかく3人はファンに会いたかった。そんな強い思いが、この日のオープニングナンバー「会いにいくよ」につながったのだろうか。事前に収録した映像で、「お久しぶりです」と吉岡が挨拶し、無人の客席でアコギとハーモニカという、デビュー前のストリートライヴの時のスタイルで、ひと言をひと言を丁寧に歌い、届ける。それにしてもあの広い横浜アリーナの客席に誰もいないことが、今の世の中の状況をリアルに伝えていた。

リハの様子や、会場の設営の様子が映し出される。ライヴをやりたかったのはスタッフも同じだ。3人の“晴れ舞台”を笑顔で作り上げるスタッフの姿を観て、ファンも安心したはずだ。

吉岡聖恵
吉岡聖恵

「笑顔」でライヴがスタート。3人から出る“空気感”、本間昭光率いるバンドが作り出す音、そして歌が重なりあうと、“これこれ”と、安心感と懐かしさを感じる。心を満たしてくれるこの感覚は、コロナで包まれて以来、音楽やエンタメに対して、国や行政から伝わってくる“不要ではないが不急ではない”という考え方や姿勢は絶対違う、ということを再認識させてくれる。心を豊かにしてくれるものが、この不安な時代の中では絶対に必要なのだ。そう、この日のいきものがかりのライヴを通じて強く感じた。

スクリーンモニターに映し出される、「笑顔」を一緒に歌うファンの笑顔が、印象的だった。郷愁感が薫ってくるメロディと歌は「茜色の約束」だ。今この状況で聴く14年前に作られた名曲が、改めて心に響く。

「みんながいるって感じ……がしちゃったんだよね」

水野良樹
水野良樹

ポップなのにグッとくるおなじみの「気まぐれロマンティック」、そして<心よ自由になれ>という言葉が背中を押してくれる「アイデンティティ」、「KIRA★KIRA★TRAIN」とライヴの定番曲を披露。「みんながいるって感じ……がしちゃったんだよね」という吉岡の言葉がこの日のライヴの“空気感”をよく表している。「YELL」を歌う吉岡の伸びやかな声は、まさに光を差してくれるようで、バンドアンサンブルが作り出す力強い音と相まって、温もりと勇気を与えてくれる。

山下穂尊
山下穂尊

「15年の始まりの曲」『SAKURA』を歌い「また次に進む」

デビュー前の3人が初めてラジオのレギュラー番組を持ったFm yokohamaのスタジオで当時を再現した映像が流れ、思い出話に話を咲かせる。そしてデビュー曲「SAKURA」をアコースティックバージョンで披露。再びステージに切り替わり「ありがとう」、そして昨年リリースされた「きらきらにひかる」、スピード感溢れるメロディとブラスサウンドが印象的な最新楽曲「BAKU」はライヴ初披露だ。ライヴでは欠かせない「じょいふる」ではステージ上のメンバーもタオルを振り、画面の向こう側でタオルを振り回しているであろうファンと、盛り上がる。本編ラストは「15年の始まりの曲」(吉岡)、「SAKURA」だ。この季節になると、このせつない曲が聴きたくなるし、色々なところから聴こえてくる。「この歌を歌ってまた次に進みたいと思います」(吉岡)。

『WHO?』(3月31日発売)
『WHO?』(3月31日発売)

「TSUZUKU」に込めた思い

アンコールは3月31日に発売されたニューアルバム『WHO?』に収録されている新曲「TSUZUKU」を初披露。水野が「2020年は“続く”ということが難しい一年だった。自分の感情を丁寧にすること、目の前の日々を大切にすることがすごく大事になっています」と、コロナ禍で感じた素直な思いを歌詞に紡ぎ、これまでもこれからも、いきものがかりの音楽はファンに寄り添い、ファンの思いはいきものがかりに寄り添っている、その絆は未来に続いていくことを、互いに確かめ合った瞬間だったのではないだろうか。今この曲をどうしても届けなければいけない、そんな3人の強い気持ちがこのライヴの実現につながったのでは、と思わせてくれるほどの強く優しいメッセージが、まっすぐ伝わってくる。更新を重ね、進化していくいきものがかりの音楽を、今こそ伝えたかったのだ。映画『100日間生きたワニ』の主題歌にもなっているこの作品のMVは、この日のライヴのリハーサル映像や当日の模様、ライヴ本番前のメンバーの様子などを捉えた“生々しい”ものになっており、力強さを感じさせてくれる。

4月14日から有観客ツアーがスタート。6月10、11日の横浜アリーナでは今度はファンが待っている

締めくくりは「風が吹いている」。吉岡の歌が全ての人に勇気を与える。お客さんがいないはずの横浜アリーナの客席に、感動の波が広がっていくようだ。「次は、会おう!みんな、元気でね!」というメンバーからのメッセージがスクリーンに映し出される。そして4月14日の大阪城ホールを皮切りに行われる有観客ツアー『みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!!』の追加公演が発表された。6月10・11日、3人は再びこの場所に帰ってくる。今度はここでファンが待っている。

いきものがかり オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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