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“工作の伝道師”わくわくさん、原点に返る「工作はもの作りであると同時に、親子の思い出を作るもの」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/K-Project

わくわくさんといえば1990年~2013年の23年間にわたって、NHK Eテレで放送されていた「つくってあそぼ」に出演し、ものを作ることの楽しさを親子に伝え続けてきた、まさに“工作の伝道師”だ。番組終了後も工作ショーやYouTubeの『ワクワクさんチャンネル』を立ち上げ、活躍。しかしわくわくさんとして活動を始め31年経った現在も「まだ工作の本当の面白さを伝えきれていない」と語る。今年60歳を迎えるわくわくさんに、“工作の伝道師”としての現在をインタビューした。

『つくってあそぼ』での23年間

まずは改めてわくわくさん誕生のきっかけとなった『つくってあそぼ』について聞かせてもらった。23年という長寿番組になった同番組は、作る楽しさを、わくわくさんとクマのキャラクター・ゴロリくんとのユーモラスなやり取りと共に伝えてきた。

「20年を超えたあたりから、そろそろ終わりかなと思っていたので、終了することが決定したことを聞かされた時も、そんなに驚きはありませんでした。私とゴロリくんには、ここまでやったからというゴールがありませんでした。到達したという感覚は永遠に来ない気がしていました。毎回試行錯誤で、最初の頃は作ることに夢中になっているとセリフ出てこなくて、セリフが夢中になってしまうと手がついていかないという状態でした。それがちゃんとできるまでに3年、本当にゴロリくんと息が合うようになって、うまくまわるようになるまでに6年、自分でも本当に面白いなと思えるようになるまで10年くらいかかりました。自分でもできがよかったなと思える作品は、3本くらいです。23年間番組の中では、様々なアイディアをいかにも自分が考えていたように見せていましたが、私は何も考えていないんです。天才造形作家のヒダオサム先生が監修で入ってくださっていて、この名人が作った名曲をいかにして演奏するかが、私とゴロリくんの役目でした。どんな名曲だって、演奏されずして人を感動させることはあり得ないわけで、ということは私とゴロリくんが名演奏家にならなければいけなかった。見終わった後、やってみようと思ってもらえるようにお見せできるか。今もまだまだ勉強中です」。

コロナ禍で対面での工作教室は9割減。オンラインで感じたいいところと難しいところ

インタビュー場所に現れたわくわくさんは、超大容量のいわゆるスタイリストバッグを持っていた。中身を見せてもらうと、ありとあらゆる材料と道具が詰まっていて、これを持って全国を飛び回っている。コロナ禍で各地に出向くことが難しくなったが、一番忙しい時は番組収録の合間を縫って、年間で全国200か所以上でショーや公演、ステージを行なっていたという。

「ステージ数でいうと1日2回公演ということも多かったので、年間400ステージはやっていたと思います。とにかくやるだけで精一杯だったので、番組が終わってからも、落ち着いてもう一回工作の楽しさを伝える何か、根本的なことを伝えることをしたいとずっと思っていました。コロナ禍で、保育園や幼稚園に招かれての対面での工作ショーは9割減で、オンラインでの親子工作教室が増えました。オンラインのいいところは、手元をアップにしたり伝えやすいところで、一方でオンラインでは伝え切れない部分、子供とのコミュニケーションの部分が問題になってきます。ある意味YouTubeもコミュニケーションの取り方が難しいです」。

2019年YouTuberデビュー。「やっていくうちにこれではいけないと思った」。2021年2月、新しいチャンネル『わくわくさんの工作教室』をスタートさせる

わくわくさんは2019年「ワクワクさんチャンネル」を立ち上げ、YouTuberデビューした。『つくってあそぼ』で得たこと、できなかったことを形にする、子供たちはもちろん親にもオススメの工作動画を次々と配信していき、登録者数約26万人という人気チャンネルになった。しかし一年前から更新が止まっていた。それはコンテンツを作り続けていくうちに、わくわくさんの心の中に様々な思いが湧き起こり「これではいけない」と強く思ったからだという。そしてそのコンテンツをブラッシュアップさせ2月、新たなYouTubeチャンネル『わくわくさんの工作教室』をスタートさせた。

「最初は面白いなと思いながらやっていましたが、でも工作の本当のよさ、楽しさを伝えきれていないと思い始めました。ただ楽しくて、面白いだけではなく本来の工作というものはどういうものなのか、何を子どもたちに伝えるべきなのか、原点というかもっと工作に特化したものを作ろうと思いました。つまり自分というものが本来はどうあるべきか、やっぱり自分で肩書きとして“工作の伝道師”と名乗っている以上、伝えるべき部分はきちんと伝え、面白いと思ってもらって、子供達に作ってみようって思ってもらえるものを提供しなければいけません。そこに立ち返りました。造形教育は大体幼稚園くらいまでがベースになると言われていて、小学校以上になると、美術の世界になってしまいます。だから、本当は小学校の低学年くらいまでに道具の使い方や材料の選び方も含めて、基本的なことを教えてあげるのが一番いいはずなんです。そういうYouTube番組を作りたいと思っていました。新しい『わくわくさんの工作教室』は、丁寧に作ることを心がけていて、正直地味です(笑)。『つくってあそぼ』をやっている時、問い合わせで一番多かったのは、『もう一度あの作り方を教えてください』、2番目が『あの材料どこで売っているんですか?』というものでした。でもNHKだからお店の名前や商品名を伝えることができませんでした。YouTubeでは購入した店舗をちゃんと伝えています。それと、例えば『100均のセロハンテープは子供には扱いづらいので、ニチバンのセロハンテープを使ってください』とか、とにかく細かく伝えています。それはセロハンテープがうまく切れなくて伸びてしまったら、それを見た親が、もったいないって子供を叱ってしまうからです。そうすると、その段階で子供の創作意欲は減ります。子供にしてみたら、わざとやったわけではないのに叱られたら、やる気がなくなりますよね。なので今度はただ材料や道具を紹介するトークだけの回があってもいいと思っています。本当の意味でのリニューアルをして、お父さん、お母さんたちが実際にできる工作を紹介して、是非作ってくださいというメッセージを込めたコンテンツにしたいです」。

「工作はものを作るだけではなく、親子の思い出を作る」

さらに「『つくってあそぼ』を観ていた人が新しい『~工作教室』を観たら、物足りなく感じるかもしれません」と正直に教えてくれた。しかし「私が伝えたいことを本当にやれるYouTubeにしようということです」と、あくまでもメッセージ性の強い、しかも楽しめるコンテンツを目指している。TwitterLINEInstagramなどSNSを駆使して“メッセージ”を伝えていく。コロナ禍で子供とのおうち時間が増えた親からも、新しいものを求める声が届いているという。

「お父さんお母さん方へのメッセージとして、なんでも楽しくさせる、子供たちに楽しくやらせることが大切ですと伝えたいです。大人も子供もそこは同じで、自分が楽しいと思うから続けられるし、やろうと思います。仕事もそうですよね。楽しいと思うから自分の仕事になるわけで、それと同じです。工作は突きつめればものを作るだけではなく、思い出を作るということなんです。親子の思い出を作るすべなんです。そういう思いで是非やっていただきたいです」。

「見た人にあれをやってみよう、作ってみようと思ってもらえるかが永遠の課題」

ライフワークである工作の素晴らしさを伝えることが「使命」と捉えている。

「『つくってあそぼ』が終わってから8年も経っているのに、皆さんに支えていただいて、その感謝の気持ちも込めて、一度自分が原点に帰って工作教室を重点に、それを主眼にしたYouTubeをやるべきだと思いました。『つくってあそぼ』での私とゴロリくんがそうだったように、見た人にあれを作ってみよう、やってみようって思ってもらえるかが永遠の課題で、それをずっと背負ったまま今に至っています。地道にできることを続けて、繰り返し伝えていきたいです」。

「絶対に“先生”になってはいけない。“わくわくさん”なんです」

今年60歳を迎えるわくわくさん。気持ちの上で大きな変化、思うところはあるのだろうか。

「50歳を過ぎてから色々考え方が変わってきました。自分の中で、男は40代まではパシリをやってもいいかなって思っていました。でも50代になったらそれはできない、それなりのことをするのが50男の仕事だと思うようになりました。60になるとまず体が言うことをきいてくれなくなります。そこが問題で、わくわくさんというキャラクターは20代後半という設定なんです(笑)。20代後半を30年やっていて、途中から『お兄さんって言うのやめてください、わくわくさんでいいです』ってなって(笑)。お兄さんは無理なので、何をするべきか考えたことが、気持ちが変わってきたきっかけのひとつです。でも気をつけなければいけないのは、絶対に“先生“にはなってはいけないということ。先生ではなくわくわくさんなんです。これをどう区別するかという難しさに50歳を過ぎてから悩んでいます。わくわくさんという自分、久保田雅人という自分。それから家で父親であり亭主である自分、少なくとも3人の自分がいるんです。これを上から操れる自分が欲しいです(笑)」。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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