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昭和の歌が一番輝いていた時代を切り取った“歌姫名曲集”で、昭和歌謡の真髄に迫る

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

TV各局で昭和歌謡特集が組まれたり、40年の時を超え松原みき「真夜中のドア~STAY WITH ME~」が世界中で注目を集めるなど、昭和の音楽に大きな注目が集まる

最近テレビ各局で昭和歌謡特集が組まれたり、1979年に発売された松原みきの名曲「真夜中のドア~STAY WITH ME~」が今、Spotify「グローバル バイラルチャート」を賑わせ40年の時を超えて世界的なヒットになっている。ここ数年70年代~80年代の日本のシティポップが世界的に注目を集めているが、国内でも歌謡曲やニューミュージックへの注目度が再び高まる中、今年はコロナ禍で、STAY HOME、外出自粛が求められたこともあり、レコード会社各社が企画したそれらのCD-BOXが通販で好調だという。

                『歌姫クラシックス』(10月23日発売)
                『歌姫クラシックス』(10月23日発売)

その中でも2008年の発売以来、その人気からシリーズ化されている“歌姫”CD(ソニー・ミュージックダイレクト)の最新作『歌姫クラシックス』(10月23日発売/¥8000+税)が話題だ。歌謡曲の黄金期といわれる1967(昭和42)年から1979(昭和54)年にかけてヒットした、女性ボーカルの名曲90曲を収録した4枚組CD-BOXで、音楽シーンの流れが、歌謡曲からニューミュージックへと変わっていくその瞬間を捉えた楽曲構成、そしてレア曲が収録され注目を集めている。制作者のこだわりと熱が詰まったこの作品について、ディレクターの加納糾氏(ソニー・ミュージックダイレクト制作グループ)に話を聞いた。

「『歌姫クラシックス』は、昭和の歌が一番輝いていた時代を切り取った」

歌姫シリーズで、2009年に発売のフォーク、ニューミュージックのヒット曲を集めた『歌姫BOX AGAIN~女性ヴォーカリスト・スペシャル・セレクション』は5000セット売れればヒットといわれているCD-BOXマーケットの中で、6万セットを超える売り上げを記録、ロングセラーになった。そのシリーズの最新作は、まさに昭和という時代を照らした個性的な女性歌手の歌の“競演”だ。

「通販のメインターゲットはやはり年齢層が高い方々なので、そこにジャストフィットするような商品を作りたくて、『歌姫クラシックス』の制作に入りました。昭和の歌が一番輝いていた時代を切り取りました。この時代は、ミリオンヒットはそんなに出ていませんが、テレビでは毎日音楽番組があって、ラジオも人気だったし、有線の街鳴りがすごかったので、レコードを持っていなくてもみんなが知っている歌がたくさんありました。55歳~65歳の人にとってはど真ん中の作品だと思います」。

コロナ禍での生活の中で、“巣ごもり需要”から各社通販が好調で、在宅勤務で音楽を聴きながら仕事ができる環境になったことも大きい。そんな中でよりターゲットを明確にした『歌姫クラシック』だが、そのこだわりも含め、時代の流れに乗って結果的に幅広い層へ訴求することに成功している。

こだわった選曲、「意味のある選曲」

「選曲基準は、既発の『歌姫BOX AGAIN』の姉妹商品であるので、それと曲目が被らないで、でももちろん誰もが知っている曲という大テーマがありつつも、それ以外の部分にこだわりました。例えば「あなたのすべてを」(1967年)という曲は、美空ひばりさんやテレサ・テンさん他色々なシンガーがカバーしていますが、オリジナルは徳永芽里で、「誰もいない海は」(1968年)トワ・エ・モワや越路吹雪さんが歌ったものが有名ですが、大木康子さんが最初にレコードで出しました。赤い鳥の「翼をください」(オリジナルは1971年。収録されているのは1973年録音)は『歌姫AGAIN』にも収録されていますが、そちらはスタジオ録音バージョンで、2番のAメロがカットされていて、今回収録したライブバージョンではきちんとそこも入っていて、山上路夫さんが書いた歌詞を全部をちゃんと聴いて欲しいと思いました。雪村いづみさんの「ひこうき雲」(1972年)も、実はユーミンが雪村さんのために書いた曲なので、カバーを収録したのではなく、“意味”がある選曲になっています」。

ほとんどの曲がシングルレコードの音源が収録されている。DISC1.2は当時流行歌とよばれていた“ど真ん中”の歌謡曲、3がフォークソング寄り、そして4がアイドルに寄った選曲になっている。90曲をセレクトして、改めて昭和の歌謡曲と対峙して気が付いたこと、感じたことを聞くと――。

             五輪真弓「少女」
             五輪真弓「少女」

「60年代後半から70年代後半までの10年間で、サウンドに大きな変化が。その変化を楽しんで欲しい」

「面白いなと思ったのが、60年代後半から70年代後半、たった10年でサウンドが全く違います。その変化に驚きました。4チャンネルと16チャンネルで録音したものは全く違います。だからシャッフルして選曲するのは難しいと思いました。徐々に変化を感じてもらうように選曲しないと、アレンジも全く変わって来て、60年代は“伴奏”という感じでしたが、それがサウンドを聴いただけで『この曲いいね』と思えるようになってきました。例えばDISC3は、五輪真弓「少女」(1972年)、雪村いづみ「ひこうき雲」、ハイ・ファイ・セット「海を見ていた午後」(1975年)の並びにはこだわりました。ここから音がガラッと変わっていきます。「少女」はLA録音で、キャロル・キングがピアノを弾いています。この五輪さんの歌は素晴らしいです。当時の人は本当に歌がうまいし、やっぱり歌に圧倒的な“個性”があります。これは誉め言葉ですが、ものまねしやすい歌が多いと思います」。

「これまであまり陽の目を見ることがなかった、洋楽アーティストによる日本語曲にも注目して欲しい」

またこの作品の聴きどころのひとつとして、ジリオラ・チンクェッテイ「雨」(1969年)、スリー・ディグリーズ「にがい涙」(1975年)、ペギー・マーチ「忘れないわ」(1969年)など、当時人気だった洋楽アーティストによる日本語での歌など、これまでボックスセットにはあまり収録されなかった楽曲も収められているところだ。「日本語バージョンが、陽の目を見る事があまりなかったのでそれを入れるのも今回の狙いでした」。

そして、先頃死去した昭和歌謡界最高のヒットメーカー・筒美京平さんの作品が、90曲中15曲を占めているところにも注目が集まっている。改めて筒美京平さんが作る音楽の素晴らしさを教えてもらった。

「筒美京平さんの作品は、洋楽を纏いながらも日本的で、“切なさ”が絶対にメロディのどこかに入っているから心の琴線に触れるのだと思う」

「5月から制作をスタートさせたので、筒美さんの作品ということを意識しないで選曲しました。意識するとほとんどが筒美さんの作品になってしまいそうなので(笑)。その作品は、洋楽を纏いながらもすごく日本的なところが特徴だと思います。“切なさ”が絶対にメロディのどこかに入っているからキュンとするというか、心の琴線に触れるのだと思います。もちろんどの曲にも素晴らしい歌詞がついていますが、先にメロディで泣いてしまう感じです。常に時代を捉えた曲を書いていて、そして70年代の作品はほとんどご自身でアレンジもやられていたので、イントロを含めてサウンドへの意識が強かったと思います」。

最後に加納氏に個人的にお気に入りの作品を紹介してもらった。

             岡崎友紀「私は忘れない
             岡崎友紀「私は忘れない

「岡崎友紀「私は忘れない」は何回聴いても、本当に素晴らしい曲です。麻生よう子「逃避行」の、千家和也さんの歌詞は切なくて、改めて泣けました。この曲はこのまま埋もれさせたままにしておくのはもったいない名曲です。誰かがカバーするべきだと思います」

11月13日から公開されている映画『ホテルローヤル』(波瑠、松山ケンイチ他)の主題歌「白いページの中に」はこの作品にも収録されている、柴田まゆみの1978年の作品で、今回Leolaがカバーしている。これまで八神純子や岩崎宏美など多くの歌手にカバーされている名曲が、令和の時代も色褪せることなく、再び人々の心を潤している。『歌姫クラシックス』はそんな、昭和の薫りを纏った個性的な歌達が輝きを放ち、感動を届けてくれる。

OTONANO『歌姫クラシックス』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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