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BURNOUT SYNDROMES 『Dr. STONE』OPテーマは「完成品を掘り出す感覚だった」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/EPICレコードジャパン
「Good Morning World!」(8月21日発売/通常盤)
「Good Morning World!」(8月21日発売/通常盤)

美しい日本語とメロディ、重厚なサウンド、そして幅広い音楽性で若いリスナーを熱狂させる3人組ロックバンド・BURNOUT SYNDROMES(バーンアウトシンドロームズ)の、1年半ぶりの4thシングル「Good Mornig World!」が8月21日に発売された。人気テレビアニメ『Dr.STONE』(TOKYO MX他)のオープニングテーマになっているこの作品のMUSIC VIDEOは、8月2日に公開されて以来、早くも62万回再生(8月21日現在)と、注目を集めている。そんな彼らにインタビューし、デビューからアニメ主題歌に起用されることが多く、いずれも高い評価を得ているその音楽性の秘密、最新作に込めた思いを聞いた。

8月4日、BURNOUT SYNDROMESは『ROCK IN JAPAN FESTIVAL2019』の<WING TENT>のステージ立っていた。圧巻のパフォーマンスで、30分という時間を濃厚なものにした。ライヴ導入部のコミカルなノリと、演奏が始まってからの圧倒的な熱量とのメリハリが、集まったファンの心を撃ち抜いた。

「熊谷君が書く曲は、アトラクション。だから僕がライヴの導入部でアトラクションの案内人として、曲の世界観を説明する」(石川)

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「僕らのライヴはモッシュやダイブ、サークルで盛り上がるという楽しみ方ではないので、その分ステージの作り込みが大切だと思っています。僕がずっと言っているのが、熊谷(和海/G&Vo)君の曲はアトラクションだということ。アトラクションに乗る前には必ず案内人からの説明があって、その物語に入り込むための情報をインプットする。そのコーディネートしてあげたいと思い、ああいうスタイルを始めました。熊谷君が作る楽曲の振れ幅が大きくて、これが同じタイプのものばかりだと、そういう演出をやる必要はなく、でも例えばコーヒーカップ型の乗り物があったり、観覧車があったり、むっちゃスピードが出るジェットコースターがあったり、それがテーマパーク性を生み出していると思います」(石川大裕/B&Cho)。

石川大裕(B&Cho)
石川大裕(B&Cho)

ライヴの演出を担当している石川が、ライヴのオープニングからの流れに込めた意味を教えてくれた。ラジオが大好きな石川は、パーソナリティが曲を紹介してから曲を流すと、その楽曲の世界により入り込めるという体感から、それをライヴでやらない手はないと思い、デビュー当初はやっていなかったこの演出を始めたという。「最初はSEを使うくらいだったのに、石川君がどんどん進化させ、今の形になりました」(廣瀬拓弥/Dr)、「僕が台本を書き、二人に見せて意見をもらって完成させます。三人共飽きっぽい性格というか、ライヴでもサウンドでも新しい瞬間をどんどん生み出していきたいタイプなんです」(石川)。

音楽P・いしわたり淳治とタッグ。「超一流の人に叩き潰される経験が、自分には必要だった」

挑戦を続け、新しいものを創作し続ける3人は、結成10周年にあたる2016年3月、シングル「FLY HIGH!!」でメジャーデビュー。作詞・曲を手がけるボーカル熊谷が作り出す、文學的な歌詞、言葉の美しさが注目を集め“青春文学ロックバンド”というキャッチフレーズが付けられている。メジャーデビュー前のインディーズ時代のアルバム『文學少女』では、作詞家/音楽プロデューサーのいしわたり淳治をプロデューサーとして迎え、初めて“第三者”の感性と手法に触れ、新しいものを作り上げた。

熊谷和海(G&Vo)
熊谷和海(G&Vo)

「作詞家として有名ですが、プロデューサーとして協力していただいています。それまでは僕が書く詞については自分で判断していたというか、他の人には何も言ってほしくなかったわけですが、でも敢えて他の人に言ってもらうという選択肢を選んだのは、自分の人生にとって、大きな転機だったと思う。そういう人って貴重な存在だと思うし、しかも言われると反発心もでてくるわけで、そこの反発心をねじ伏せるくらいの圧倒的な力がその人にないと、言われても正直飲み込めないと思う。でもあれだけ一流の人に言われると『確かにそうかも』って思えます。叩き潰されるというか、でもそれが必要だったと思う。8曲入りのアルバムの『文學少女』では、歌詞をちょっと手直ししてもらうという話が、結局『8曲全て書き直しになるけど、やる?』と聞かれて、『やります』って言ったところから、始まりました(笑)」(熊谷)。

3人で作る世界観を大切にしてきたバンドの体内に、大物プロデューサーという劇薬を入れ、熊谷は自分の感性に刺激を与えることで、よりいいものを追求していった。「いしわたりさんがサウンドメイクに入っていない曲もあって、その時は好き放題やっています(笑)」と熊谷が言うのが、今作「Good Morning World!」のカップリング曲「Ms.Thunderbolt」だ。表題曲とは対照的なこの楽曲は、重厚でカラフルなサウンドに中毒性を感じる

「タイアップは“仕事”、カップリング曲、アルバムは“実験”」

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「メッセージもくそもないというか、でもなんかわかるなぁっていう気持ちが、引き出せたらOKだと思った。実はその手法って今までやったことがなくて、今まではずっとメッセージを込めるということを、いしわたりさんと一緒に追求してきました。でもそうではなく、メッセージ性の不在ということを、この曲からやってみようと思った。代わりに“共感”というものを目指しました。それと、そこまで歌詞に耳を引っ張らせないことによって、曲のカッコよさを引き立てることができると思う。歌詞に耳を持っていかれすぎると、曲のよさが入りづらくなってくると思っていて。洋楽は歌詞がわからないからすごくノれる。だから「Ms.~」は肉体的なものを目指しました。歌詞はそこそこ聴こえてきて、自然と体が動く曲、そのバランス感を考えました」(熊谷)。

さらに「僕はタイアップは「仕事」、アルバム、カップリングは「実験」だと思っています。カップリングやアルバムで色々実験した結果、いいものよくないものが必ず生まれます。そのいいところを自分の中でストックしておいて、シングルにぶつけてみる。タイアップ先に、これが我々のいいところ全部ですというレポートを提出するのが、タイアップだと思っていて」と、その仕事の流儀を教えてくれた。

「人間は観た事がないものを観たいと常々思っていると思うので、それをカップリングで叩きつけたい。「Good Morning World!!」は、『Dr.STONE』のオープニングテーマという事で、このアニメを始め、数々のアニメに貫かれているテーマと、ロックというものが積み重ねてきたカッコよさを詰め込んだつもりです。「Ms.~」は、全く聴いたことがない、『何これ?』という実験的な何かを、ここから我々のことを知ってくれる人に敢えてぶつけてみたいと思いました」(熊谷)。

「“アニメソング”と、いっしょくたにはできない」

しかしひと口にタイアップ、アニメソングといっても、当然だが一曲一曲全く違う意味合いを持っているし、創作に臨む姿勢も一回一回異なる。

「Good Morning World!」(『Dr. STONE』盤)
「Good Morning World!」(『Dr. STONE』盤)

「アニメといってもひと括りにはできない、それぞれ色々な性格と意味があって、例えばメジャー・デビューシングル「FLY HIGH!!」は、テレビアニメ「ハイキュー!! セカンドシーズン」第2クールのオープニングテーマで、第1クールはSPYAIRさんが歌っていました。2ndシングル「ヒカリアレ」の時は、同じく「ハイキュー!!烏野高校VS白鳥沢学園高校』のオープニングテーマで、2期連続でオープニングテーマを担当させていただくという珍しいケースでした。この2曲の背景は全く違うし、別ものだと思います。「FLY HIGH!!」では、SPYAIRさんの存在を意識しなければいけなくて。やはり第1クールでオープニングテーマを歌うアーティストが、その後のイメージも決定づけると思っているので、SPYAIRさんの「イマジネーション」を聴きまくりました。でも2回目の担当となると、前回担当したときの自分達との違い、前回のベクトルをどう超えていくかということが、メインになってきます。今回の『Dr.STONE』は、我々が一発目のオープニングテーマになるので、参考にするアーティストもいなくて、自分達が作るものが、そのアニメを決定づける何かになると思う。その場合何が大切なのかを考えるのが大事で、アニメとひと口に言ってもこの3つだけ見ても、全然条件が違うし、同じ仕事はひとつもないんです」(熊谷)。

「アニメソングは、昔の作品のようにタイトルを叫ぶところがカッコイイと思う。でも今はタイトルを叫ばないで、シンクロ感をどう出すかが大切」

幼い頃、「アニソンを好んで聴いてきた」(熊谷)ほど、アニソンには人一倍こだわりがある熊谷が作るタイアップ曲は、当然書き下ろしにこだわり、ありったけの熱量を注ぎ込む。

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「タイアップは考えなければいけないことが多いです。作品の内容、アニメの立ち位置、それまでの主題歌、そして先方からのオーダー、それから90秒という時間も考えなければいけないですし、制約も多いので詰め込まなければいけないカロリーも高くなります。制約があるがゆえに生まれる発想もあるし、“必要は発明の母”ということでもないのですが、90秒に、なんとしても収めなければいけないという不便さが生み出す発明というか。例えば、ここでイントロを半分にしなければいけないという、それまでやってこなかった行為をやらざるを得なくなる。でもそれが結果として、イケてる!となることが結構あります。その中で発見があるということが制約だと思うし、逆に自由にやれと言われる方がきついです。僕は、アニソンしか聴いていなかったと言っていいくらいのアニソン好きで、しかも60年代の「サイボーグ009」や70年代の「宇宙戦艦ヤマト」や80年代の「銀河鉄道999」とか、あの頃のアニソンがベストだと思っていて。何がいいって、とにかくタイトルを叫ぶじゃないですか。曲の中で、あの瞬間が一番かっこいいと思っています。だから書き下ろしにこだわります。今のアニソンはタイトルを叫ばないし、それがもうカッコいい時代ではないということはわかりますが、せめて書き下ろしをして、このアニメのために書いたんだという感動は、残したい。タイトルを叫ばずに、あのシンクロ感をどう出すか、『ハイキュー!!』と叫ばずにいかに『ハイキュー!!』のことを言うかが、勝負だと思う』(熊谷)。

「絵コンテを書いているつもりで、歌詞を書いている」

『Dr.STONE』のあらすじは――<一瞬にして世界中すべての人間が石と化す、謎の現象に巻き込まれた高校生の大樹。数千年後──。目覚めた大樹とその友・千空はゼロから文明を作ることを決意する>というSFサバイバルで、熊谷はそのアニメ制作の一員になったつもりで、スタッフとディスカッションを重ね、曲作りに臨んだ。

「僕も絵コンテを書いているつもりで、歌詞を書いています。実際そのイメージ通りの絵が上がってくると、自分もアニメサイドのスタッフの一員にしてもらえたって思えて、嬉しいです」(熊谷)。メンバーは「Good Mornig World!」が熊谷から上がってきたときに、どう感じたのだろうか。

廣瀬拓哉(Dr&Cho)
廣瀬拓哉(Dr&Cho)

「僕は単純に原作の大きなテーマである「科学」のことは歌わないんだ、と思いました。元々『Dr.STONE』のファンなので、そこを歌わないんだとビックリしましたが、すごくカッコよくて、なんかわかるなと思って、このアニメのファンの僕がそう思うということは、正解だということだと思います」(石川)。「最初の<おはよう世界>という一行でやられました。「FLY HIGH!!」の時は、曲のド頭にバスドラが入っていて、それが浮遊感を出していましたが、今回はスネアの音が岩をイメージさせる感じになったので、バッチリだと思いました」(廣瀬)。一方熊谷は「科学式のことを入れ込む案もあったけど、こっちになりました。ただ科学式を入れると、エンディングぽくなると思いました。暗いというか、明るい画が思い浮かばなかった」というと、石川と廣瀬も「なるほど」と納得していた。

再生回数が60万回を超えているMUSIC VIDEO、採石場で演奏しているスケール感のあるシーンが印象的だ。

「ああいうちょっとした寄り添いがいいと思う。コラボレーションというか、レンズの重なりというか、逆に全部が重なるとダサいと思う。全く関係がない内容ではなく、ちょっと被っているという感じ。『Dr.STONE』だから「石」なのかという、そのちょっとした重なりがカッコイイのだと思います。それが原作とオープニングテーマという位置関係で、科学式を前面に出すと被りすぎる。60年代アニソンの話は真逆になってしまいますが(笑)。でも今のカッコよさってこういうことだと思います」(熊谷)。

「完成品は最初の一行を置いた瞬間にある。それをあらゆる角度からノミを入れ、“掘り出す”感覚。「作る」という感覚とは違う」

「Good Moning World!」には、熊谷が情熱を詰め込んだメッセージが強くも優しい言葉になって、聴き手の心を熱くする

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「難しい言葉が並んでいるかもしれませんが、そういう部分も、刷り込みという言葉で説明できると思っていて。リスナーのこれまでの人生の中で、単語を知らなくても文脈でなんとなくわかることってあると思います。僕はそこを大事にしていて、わからない単語があったとしても、その前後でなんとなく推察できるのであれば、日本語としてOKなのかなって。そのギリギリのバランスをついています。だから難しい単語を平気で入れられるし、難しさを感じないというか、そこが自分の持ち味だと思う。この曲は、最初の<おはよう世界 Good Mornig World!>の部分は、歌詞とメロディが同時に生まれて、そこから最初の2行をどう成立させていくか、成立させるためのメロディと歌詞を考えて、パズルをしていくように作っていきました。だから無理をしていないというか。自然にできていきました。ミケランジェロが言う「石の塊の中に埋まっている彫刻を取りだす」という感覚に近いと思う。それは曲を作り始めた時からずっとある感覚で、完成品はこの一行を置いた瞬間にあるなという感じがしていて、それを色々な角度からノミを入れてみて、試していく。結局は試していくしかなくて、それも科学っぽいと思う。色々なパターンを試してみて、一番良かったものを組み合わせてみると、あらゆるところがかみ合っていて、自然と流れていく歌詞になるので不思議だなと思います。作っているという感じはあまりなく、掘り出す感覚だった」(熊谷)。

来年の結成15周年へ向け、12月からは来年2月まで続くバンド史上最大規模の全国ツアーを行う。

「これからは“個”をもっと鍛えて、3人が集まった時にそれが大きな力になるチームワークを、さらに磨いていきたい」(石川)。

BURNOUT SYNDROMES オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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