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工藤静香 初の洋楽カバーアルバムで見せた新境地「ようやくここにたどり着けることができた」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

「深い呼吸をしながら、リラックスして聴いて欲しいという思いを込めて作ったアルバム」

『Deep Breath』(6月19日発売/通常盤)
『Deep Breath』(6月19日発売/通常盤)

「家事や仕事で慌ただしい毎日を送っていると、だんだん呼吸が浅くなって、深く息をすることを忘れてしまっている方が多いと思います」――工藤自身がいつからか感じていたことだ。「だからそんな人達にほんの一曲でもいいから、深い呼吸をしながら、リラックスして聴いて欲しいと思って」作ったのが、6月12日に発売した工藤にとって初の洋楽カバーアルバム、その名も『Deep Breath』だ。工藤のカバーアルバムは2008年8月に発売した中島みゆきの名曲の数々をカバーした『MY PRECIOUS-Shizuka sings songs of Miyuki-』以来、通算3作目になる。洋楽カバーアルバムということで、もちろん全編英語詞でジャズのスタンダードナンバーから、アデル、エド・シーランまで幅広いセレクトで、どんな世代が聴いても楽しめる一枚となっている。

ライヴPhoto/福岡 諒祠
ライヴPhoto/福岡 諒祠

「全曲洋楽のカバーにしたのは、何も考えずリラックスしたい時に日本語だとダイレクトに入ってきて、また色々考えたりするでしょ?だから単純に音とグルーヴと全体を楽しむという感じのアルバムにしたかった」と、日々の中で、一瞬でも煩雑なことを忘れて心からリラックスして欲しいという願いを込めて、作り上げた。「家ではクラシックやジャズ、ロック、ポップス…常に音楽が流れていて、特に次女がジャズをよく聴いているので、私も元々好きなこともあって、改めてジャズの魅力にハマりました。英語はやっぱり難しいので、娘たちに協力を仰ぎ、指導してもらった後は、お風呂で練習したり、夜中、ボリュームを落としてこっそり練習していました(笑)」。

「『EX-FACTOR』は、気持ちが上がっている時も下がっている時も、いつ聴いても歌の力を感じる大好きな一曲」

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工藤がセレクトした、最も歌いたい洋楽が10曲。工藤が昔から聴いていて「気持ちが上がっている時、下がっている時、いつ聴いても歌の力を凄く感じる大好きな曲。ジャズっぽい仕上がりだけど、そのまま終わらせるのではなく、後半のファルセットの部分は、ケイト・ブッシュをなんとなくイメージしながら歌ってみたりしました」という、ローリン・ヒル「EX-FACTOR」は、シンプルなアレンジが、原曲が持つ寂しさや切なさを活かしたボーカルを際立たせる。「RUMOUR HAS IT」は2011年に発売され、全世界で大ヒットしたアデルのアルバム『21』に収録されている楽曲で、「絶対に歌いたかった」という一曲。そしてミュージシャンとアレンジャーに『カッコいいリフが欲しかったので、レニー・クラヴィッツを出して欲しいとか、リズム隊には絶対ジャニス・ジョプリンでとか(笑)、何回聴いても飽きないリフを出して欲しいというリクエストをしました」と、具体的なアーティスト名を出して、その空気感や特徴ある音を出すことにこだわった。

一曲一曲のアレンジのイメージを、ミュージシャン、アレンジャーに伝え、理想とする音を表現

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この曲に限らず、工藤がアルバムで歌いたい曲、入れる曲を選んだ時点で、頭の中ですでにアレンジを含めて曲のイメージができあがっていたという。「原曲は絶対に越えられないし、越えようと思っていなくて、“リラックス”がテーマの作品なので、そういうサウンドと歌が欲しいと思いました。『RUMOUR HAS IT』と『SHAPE OF YOU』、『COME ON A MY HOUSE』、『EX-FACTOR』は特に明確な音像が浮かんできました。『EX-FACTOR』は、ウッドベースを使って、ちょっと重めのビートで始めて欲しいとかリクエストしました」。エド・シーラン「SHAPE OF YOU」はピアノとホーンをバックに、変幻自在のボーカルを聴かせてくれる。

小西康陽が2曲アレンジを手がけていることにも注目したい。エルヴィス・プレスリーやコニー・フランシスが歌ったことで有名なロックバラード「HEARTBREAK HOTEL」は、ロックが大好きと公言している工藤が“歌っておきたかった”一曲。ロックンロールとR&Bのアレンジが印象的だ。ポール・アンカの1958年の大ヒットナンバーでマイケル・ブーブレなど、これまで数多くのシンガーがカバーしている「PUT YOUR HEAD ON MY SHOULDER」は、美しいジャズバラードに生まれ変わり、オリジナルのドゥーワップテイストの雰囲気も、工藤の声を重ねたコーラスで生きている。

「色々な人がカバーしているけど、ナンシー・ウィルソンがカバーしたものをよく聴いていた」という「I WISH YOU LOVE」は美しいストリングスとピアノの音色が全体を包み、温もりのあるボーカルが、爽やかさの中に残る切なさを見事に表現している。工藤が敬愛するジャズシンガー、エラ・フィッツジェラルドがこよなく愛し、カバーした曲達ももちろん取り上げた。「FOR SENTIMENTAL REASONS」は、甘く、艶やかな歌を聴かせてくれ、「HOW HIGH THE MOON」では、ジャズバンドとのセッションを楽しんでいるような、軽やかなスキャットと高揚感が伝わってくる歌は、まさに“名演”。

「シンプルな演奏なので、歌を遊びすぎるとくどくなり、控えめになりすぎると隙間が目立ち、そのさじ加減が本当に勉強になった」

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ノラ・ジョーンズの名曲「TURN ME ON」は、気持ちを解きほぐしてくれるような甘いボーカルが印象的だ。「難しかったです。今回、どの曲もそうなんですけど、シンプルな演奏だけに、“遊び”の空間が多い曲は、遊びすぎるとくどくなり、控えめになりすぎると隙間が目立ち、そのさじ加減が歌手として本当に勉強になった」と語っている。「COME ON A MY HOUSE」でも、テンポ感がある中で、やや抑えめのボーカルで感情を表現するなど、改めて“歌”というものと正面から向き合う時間でもあった。同時にこの作品は、最初に工藤が「グルーヴと音を楽しんで欲しい」と語っているように、歌に寄り添っている演奏が、実はそれぞれのパートがきちんと主張していて、どこまでも心地いい音、グルーヴを作り上げ、聴かせてくれる。

「洋楽のカバーはいつかやりたいと思っていた。ようやくここにたどり着いたという感覚です」

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「洋楽のカバーはいつかやりたいと思っていたので、ようやくここにたどり着いたという感覚です。今回、こういう色々な音に触れてみて、また新しいアイディアも出てきたし、本当にこのアルバムを作ってよかった。忙しい毎日の中、音楽って贅沢な時間を演出してくれると思います。だからキッチンやリビング、それからいつも乗っている通勤、通学の車や電車の中で、このアルバムを聴いている時、少しでもいつもと違う時間になると嬉しいです」。

ゴスペルシンガー、マヘリア・ジャクソンが大好きだという工藤だが、今回は残念ながらそのカバーを収録することは叶わなかったが、それは次回のお楽しみにとっておきたい。

ピアノ一本で、“しなやかな歌”を披露する全国ツアーがスタート

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6月13日からは全国ツアー『工藤静香 Acoustic Live Tour 2019 POP IN 私とピアノ〜Deep Breath〜』がスタートしている。ピアノをバックに、工藤の“しなやかな”歌が、ひと時の“深い呼吸”へといざなってくれる。そして心の奥深くに感動を届けてくれる。

工藤静香 ポニーキャニオンオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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