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ラルク アン シエル その美しく強靭なバンドアンサンブルに、11万人が熱狂した特別な夜

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
コンセプトは「マジカルクリスタルナイト」。レアな曲が次々と披露され、ファンは熱狂

1年8か月ぶりのライヴは、初のクリスマスライヴ。2日間で11万人を動員

hyde(Vo)
hyde(Vo)
ken(G)
ken(G)
tetsuya(B)
tetsuya(B)
yukihiro(Dr)
yukihiro(Dr)

かくも美しく、芳醇な時間、空間だった――ラルク アン シエルの1年8か月ぶりのライヴ「LIVE 2018 L'ArChristmas」が、12月19、20日東京ドームで行われ、2日間で11万人を動員、全国の映画館でも多くのファンがライヴビューイングを楽しんだ。その20日の公演を観た。コンセプトは「マジカルクリスタルナイト」。冬をイメージした楽曲を中心にしたセットリストで、レアな曲も披露され、集まったファンの中には、涙を流しながら聴いている人も多かった。ステージセット、照明、映像まで、その世界観には美意識が貫かれ、スペシャルな空間を作り上げていた。しかしなにより、4人が奏でる、4人だからこそ生まれる音楽が持つ「美しさ」が際立ち、改めて極上のバンドアンサンブルに感動させられたと同時に、バンドとしての圧倒的なプライドを感じることができた。

hyde(Vo)、ken(G)、tetsuya(B)、yukihiro(Dr)の4人がステージに揃うと、この日、この瞬間を待ち焦がれていた客席からの大歓声が響き渡り、ドームの空気が揺れる。オープニングナンバーは「winter fall」。yukihiroのドラムとtetsuyaのベースが作り出す強烈なリズムに心も体も躍る。無数のレーザービームが飛び交い、幻想的な雰囲気の中で放たれた「Caress of Venus」では、気持ちいいリズムに乗りながら、メンバーもライヴを楽しんでいる様子が伝わってくる。大ヒット曲「snow drop」のイントロが流れるとどよめきが起き、観客に配布されていたLEDリストバンド「L'edバンド」が一斉に点灯。客席のブロックによって、完全にコントールされている、ドームらしい壮大な独特の強烈な世界観を持ち、それが奇跡的な出会いを果たし、奇跡的な音楽を作り上げている。

テクニックはもちろん、独特の強烈な世界観を持ち、それが奇跡的な出会いを果たし、奇跡的な音楽を作り上げている

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満員の客席だからこそ成立するこの美しい光景は、ステージ上のメンバーの目にはどう映っていたのだろうか。tetsuyaのどこまでもメロディアスな独特のベースラインと、hydeの表情豊かな声から繰り出される歌の相性の良さは、やはり出色だ。4人の演奏と歌を聴いていると、ふと、ジミ ヘンドリクスの“最小限の人数で、最大限の音を”、という言葉を思い出した。ジミ ヘンドリクス エクスペリエンスの3人が出す音は、3人とは思えないほど豊かな音色で、それぞれのプレイヤーが、テクニックはもちろん、独特の強烈な世界観を持ち、それが奇跡的な出会いを果たし、奇跡的な音楽を作り上げている。

hydeは「どうですか、これ。4人揃ってる。1年8か月ぶりに揃いました。これはすでにクリスマスの奇跡が起こってるということではないのか?平成最後のラルク アン シエルを最後まで一緒に楽しもうぜ。師走の平日にいらっしゃる皆様は、かなりのマニアとお見受けしました。今日は久しぶりの曲を用意させてもらいましたので、最後まで楽しんでください」とメッセージ。その言葉通り、「静かの海で」「Dearest Love」「I Wish」など、20年以上ぶりに披露する楽曲に、客席からはそのイントロが流れる度にどよめきと歓声が起こっていた。

Photo/今元秀明、岡田貴之、緒車寿一、加藤千絵、田中和子
Photo/今元秀明、岡田貴之、緒車寿一、加藤千絵、田中和子

kenの、「BLESS」で聴かせてくれたむせび泣くようなギターソロ、サビで大合唱が起こった「MY HEART DRAWS A DREAM」でも、曲の輪郭をより際立たせてくれるそのギターの音色は、抜群の余韻を残してくれた。コード感を大事にしたバッキングやリフ、強い音と弱い音でダイナミクスをつけていくその独特の音と、yukihiroが叩き出す強烈なビートと、tetsuyaのメロディアスで自由度が高いベースは、“強固な絆”を感じさせてくれる音だ。その音と、hydeの変幻自在に表情を変える歌が作り出す世界は、独特の「空間」を作り出し、その「空間」は、どこまでも「美しい」のだ。色気も感じさせてくれるその美しい歌を、4人は聴き手に、わかりやすく伝えてくれる。その伝えるという想い=歌に、優しさがしっかりと存在している。だからファンはずっと離れられないし、新しいファンも獲得でき、さらに海外でも支持される――と、眩い光が交錯するドームで、ステージを観ながら考えていた。

アカペラで始まった「Hurry Xmas」では、コーラスするtetsuyaの肩をhydeが抱くと、客席からは歓声があがる。MCで楽しそうに話をするメンバーの姿は、コンセプチュアルなライヴの中で、アットホームな空気を作り出す。「trick」ではスライディングステージで4人が、ギターを抱えて背中合わせになり、交互にヴォーカルを務める。そしてメインステージでは4人が横並びになるという珍しいシーンに、客席からは驚きの声が上がった。「次の曲はアマチュア時代からやっている、長い曲です。案外クリスマスっぽい雰囲気だったので、選ばしてもらいました」とhydeが語り、「White Feathers」を披露。ベースが重いリズムを刻み、全員がかみしめるように演奏し、歌っていた。

「こうやって出会えた奇跡、愛し合えた瞬間は確かに存在してた」(hyde)

12月19日の“ラルクリ”
12月19日の“ラルクリ”

一旦客席が明るくなり、客席通路、花道にサンタクロースが登場し、ウェーブを煽る。5万5千人が波を起こし、もっともっと、というファンの気持ちを乗せ、客席に広がっていく。その思いに応え、再びステージに登場した4人は、最新曲「Don't be Afraid」を披露。激しい歌声を響かせるhyde。この日激しく情熱的に、時に優しく、妖艶に歌を披露してきたhydeだが、最後の曲を前にあることを告白した。「今日、実は朝起きたら声が出なくて……いろんな人に助けてもらって、なんとかいつものような声が出るようになりました。メンバーにも助けてもらったし、色んな人に助けてもらって、あと1曲絞り出したいと思います。みんなの笑顔を見られて、ホントに今日ここに立てた幸せとか、みんなからのプレゼントをすごく感じたんで、自分も感動して泣きそうになっちゃって」と語った。さらに「クリスマスっていうことで神様っているのかな?って考えてみました。でもね、神がいなかったとしても、クリスマスってたくさんの人に夢を与えることができてるじゃないですか。信じるとか信じないとかじゃなくて、今日僕たちがこうやって出会えた奇跡、そして愛し合えた時間、これは確かに存在してた。とても重要なことだと思います。導いてくれたこの日に感謝します」とファン、メンバー、そしてスタッフに感謝の気持ちを贈り、「雪の足跡」を切々と歌い上げた。

ラルク アン シエルの楽曲と演奏は、やはり美しかった。圧倒的な熱量のライヴは深い感動を残し、4人からは「その先へ」向かうという、強い意志を感じることができた。ファンにもそれは伝わっているはずだ。

ラルク アン シエル オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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