インスタフォロワー数33万人、その世界観にハマる人続出 話題のマルチクリエイター・パントビスコって?

「あまりギラギラしないで、みんなで楽しめればいいかなって」

写真が中心のインスタで、イラストをアップし続け、注目を集める

――SNS上でちょっとシニカルで、でも誰もがニヤリとしてしまうイラストを発信しようと思ったきっかけから教えて下さい。

Photo/板垣佑介
Photo/板垣佑介

パントビスコ 5~6年前、Facebook上の友達限定で、クスッと笑わせたくて趣味のイラストをたまにアップしていた時期があって。その友達の中に画家をやっている先輩がいて「これ世の中にもっと出した方がいいよ」って言われて、その時ちょうどInstagram(以下インスタ)がキテいるときだったので、じゃあインスタで全世界公開、鍵を付けずにみんなが見られるようにしてアップしてみようと思いました。当時、写真をアップする人がほとんどで、イラストをアップする人は全然いませんでした。

――それも最初から目立っていた原因ですね。

パントビスコ 最初は、「なんでイラストなんて描いてアップしてんの?」という反応でした。「写真の共有サイトなんじゃないの?」って。そういうところにあえて僕がイラストを投下していったら、珍しいのと目立つのとで、どんどんフォロワーさんが増えていきました。しばらくするとマネをしてくる人も増えてきましたが、新しい領域、インスタという場所で、あまり人がやっていないことをやったという事で、認めてもらえたのだと思います

「インスタを始めて、女性向けのネタへの反応の大きさに気づき、そこから今のスタイルになった」

――インスタは女性ユーザーが多いメディアですが、そこは最初から意識していたのでしょうか?

パントビスコ いえ、どういう層がメインとか、全く知らずに始めました。でも車や野球ネタは全然「いいね」が増えなくて、逆にファッション、コスメ、こんな女の子いるよねあるあるとか、そういうネタには「いいね」がたくさん付く事に気づいて。そこからは、ある意味迎合した部分があるかもしれない。だったらもう女性向けのネタをたくさん描いてみようって思って、今のスタイルに至る感じです。

――パントビスコさんの作品を見ると、吉田戦車の「伝染るんです。」や植田まさしの「かりあげクン」を思い出しました。

パントビスコ うれしいです。僕のクリエイティヴの礎となっているのが、まさに吉田戦車先生と植田まさし先生、そして1990年頃に一世を風靡したバンド・「たま」さん、『VOW』(宝島社)が、僕のクリエイティブの全ての根源になっています。

「角を立たせたくないし、誰も傷つけたくない。だから「好き」も「嫌い」も言わない」

――パントビスコさんの作品は、シニカルさの中に優しさが滲み出ています。

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パントビスコ そうですね、あまり角を立たせたくないというか、誰も傷つけないというところが、支持していただいている部分だと思います。作品を見て、ちょっとでもネガティブな要素があると、飛ばしたり、フォローを外したり、「いいね」もしてくれないと思うので、少しでも楽しんでもらえるものを表現したい。狙って刺々しい表現にしてフォロワーさんを増やす人もいますけど、僕は「ああ、楽しいね」ってみんなで共有できるようなネタを描いています。例えば、僕が福岡県出身なので、「ホークス最高」というネタを書いたら、残り11球団のファンの人がきっとムっとしますよね。だから作品の中では「好き」も「嫌い」も言わないようにしています。

「一時期は芸能人にも憧れましたが、すぐに諦めて、裏方でイラストを描いて、人知れずアップするという、今の表現方法が合っていると思った」

――やはり優しい性格が作品に出ている。

パントビスコ いえ、優しいのではなく打たれ弱いんです(笑)。人から悪く思われたくない、そこだけなんです。だから「嫌い」とは絶対言わないし、「好き」とも言わない。「好き」というとやっぱり裏側を見る人がいるので。

――昔から、人を喜ばせたい、楽しませたいという気持ちが強かったのでしょうか?

パントビスコ それはあったかもしれません。お調子者じゃないですけど、求められてもいないのに、変な絵を描いてプレゼントするとか、そういう奇想天外な部分はあったかもしれないですね。

――それは先ほど出た、人から悪く思われたくないという思いからですか?

パントビスコ それはなかったです。たぶん、自分ってこんな面白い絵を描けるんだよっていうのを、ちょっと見せたかっただけだと思います(笑)。絵をもらった子は喜んでくれるし、僕は僕でちょっと満足するっていう。インスタはそれがワールドワイド版になったような感覚です。表現するという事でいうと、一時期芸能人に憧れてチャレンジした事もありました。でもある時、自分が矢面に立って何かを表現するという事が、全く向いていないと気づいて。すぐにあきらめて、じゃあ何ができるんだろうって考えた時、やっぱり裏方で、イラストを描いて人知れずアップする、今の表現方法が合っていると思いました。

ネタを一日平均4回アップ。「ファンのみなさんとのコミュニケーションだと思い、自分が一番楽しんでやっている」

――日常の気になる事がネタの中心になっていると思いますが、やはり出すタイミングはかなり考えているのでしょうか?

パントビスコ はい、そこは考えています。ネタは思いついた時にストックしていて、それを適切なタイミングに適切な表現でアップするようにしています。例えばバレンタインの時期は、そのネタを出しますし、昼向きのネタじゃないなと思ったら、夜にアップしようとか、その辺は綿密に自分の中で決めて配信しています。Twitter、インスタは基本的に同じ作品をアップしていて、最近は平均1日4回くらい更新しています。

――毎日ですよね。きついなと思う時はありませんか?

パントビスコ そうして続けていく事が、ファンのみなさんとのコミュニケーションだと思っています。これまで続けてきた事を評価してくれる方が33万人もいるので、そういう方たちの期待を裏切らないという気持ちも強いですが、自分が一番楽しんでやっています。

「どんな理由であれ、炎上は炎上。だから作品にネガティブな要素は一切入れない」

――先ほど人の嫌がることは描かないとおっしゃっていましたが、SNS上での炎上というものをどう捉えていますか?

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パントビスコ 炎上商法というのもあると思いますし、意図せずに「え、こんな気なかったのに」っていうところに突っ込んできて、炎上させられてしまうという事もあると思います。ただ、どちらも同じ炎上には変わりないので、そこにはかなり慎重になっています。だから死を連想させる事とか、ケガをする事、誰かを揶揄する事とか、とにかく1ミリでもネガティブ要素が入ると、「いいね」の数が上がらなくなります。でも僕はそこで何かをせめぎ合っている人間ではないので、だったらもうネガティブ要素は一切入れないスタンスでやっています。

――これまでに2冊著書を発表し、6月8日にも最新作『ぺろちの本』が出版されますが、主戦場はSNSですがやはり本、紙にこだわりたいという気持ちも強いのでしょうか?

パントビスコ そうですね。SNSから出てきた人間とはいえ、わりと紙にはこだわりがあって、形で見る事ができるものに愛着があります。吉田戦車先生や植田まさし先生の本を集めるのが好きでした。もちろんSNSでの反応も嬉しいですけど、やっぱりこう物体として、本ができあがることにこだわりを持っているので、それを手にすると、何か認められた感覚になります。実際にSNSでフォロワーさんを増やして、書籍化するというパターンが、ここ数年凄く増えているじゃないですか。それがハードルが上がったか下がったかというのは、一概には言えないのですが、本ってやっぱり認められたメディアだなと思います。一昨年本を出した時に、突然「先生」って言われるようになったんです、パント先生って(笑)。

「誰かのクリエイティブに触れ、いいなと思ってしまうと、自分のクリエイティブのオリジナリティが、どんどん人のものになって行く気がする」

――毎日1日4作品インスタとTwitterにアップし、アウトプットし続けている状態ですが、インプットはどうされているのでしょうか?

パントビスコ 今はほとんどやっていません。単純に物理的に時間がないという事もありますが、逆になるべくインプットしないでおこうと考えている自分もいます。色々引っ張られてしまうと思っていて。だからなるべくイラストレーターさんのSNS をフォローしないようにしています。例えば似たような画風やクリエイティブの人を見て面白いなと思うと、真似はしないものの、深層心理で引っ張られてしまうところがあるのかなって。作家さんの個展にも行きたいけど、行かないようにしたり、そうじゃないと、自分のクリエイティブのオリジナリティが、どんどん人のものになっていくような気がしていて。だからあまり人から影響を受けたくないという気持ちが、今は強いです。

「イラストレーターではなく、マルチクリエイターと名乗っていて、イラストはあくまで表現のひとつ」

――本もそうですが、映像にも力を入れていて、SNS上だけにとどまらず、活動の幅が広がっていますね。

パントビスコ 私は、イラストでみなさんにお目にかかる機会が増えましたが、実はイラストレーターと名乗っていないんですよね。

――確かに。

「パントビスコの本当にくだらない個展」(6/8~24/池袋PARCO パルコミュージアム)
「パントビスコの本当にくだらない個展」(6/8~24/池袋PARCO パルコミュージアム)

パントビスコ マルチクリエイターと名乗っていて、というのは、やっぱりイラストはあくまで表現のひとつに過ぎないと考えていて、映像も好きだし音楽で表現するものいいし、オブジェのようなものも作ってみたいし。そういう思いが、今回の個展(「パントビスコの本当にくだらない個展」(6/8~池袋PARCOミュージアム)に繋がっています。インスタの人ね、SNSの人ね、だけで終わらないようにしたい。もちろんそこから恩恵を受けた人間ですが、ちゃんと次のステージでも活動、活躍できるようにしたいのと、あとは自分でいうのもおこがましいのですが、後進の人たちにも同じ夢を持ってもらいたいからです。SNSきっかけで出てきて、さらに別の世界で実績を残すことができたんだよ、という前例になりたいんです。それがインスタへの恩返しになると思っています。

「「そもそもパントビスコって何?」という事と、インスタ出身者でも、大きな会場で個展ができるという事を伝えたかった」

――そういう意味でも今回の個展は、またひとつ上のステージにあがる絶好のタイミングになりそうです。

パントビスコ はい、まさに。今回の個展は来てくださる方や、告知で知って見に来てくださる方は、インスタのフォロワーさんじゃない人の方が、圧倒的に多いと思います。30万人のフォロワーさんがいても、実際に会場に足を運んでくださる方は全体の中でほんの少しだと思っていて、それを想像したときに「そもそもパントビスコって何?」というところから、発想を広げなければいけないと感じました。そこで「イラスト描いてる人ね」という見せ方だと、あまりにもこじんまりとし過ぎるので、せっかく池袋PARCOミュージアムという大きい場所でやるのであれば、やりたいことを全部やっちゃえっていうのが、今回の発想の起点です。イラスト、映像、オブジェ、フォトスポットなど、てんこ盛りです。それともうひとつテーマがあります。それは先程も出ましたが僕はインスタから出てきたアーティストですが、インスタ出身の人で、ここで個展をやった人はいないと思います。市民権を得たインスタから出てきた“インスタドリーム”じゃないですけど、こんなに大きな会場で、でかいことができるという事を見て欲しいし、知って欲しいです。それこそお昼休みに、こそこそ絵を描いていた延長線でここまでできるようになっちゃった、オーディションなしで誰でもできるんですよ、という事を伝えたい。

――カルチャーの新しい流れの中に、一石を投じたという感じです。

パントビスコ 個展ってちゃんとしたところで実績があったり、大企業の広告で名を馳せたような人達がやる事が多いと思いますが、僕は割と変な形でできたというか(笑)。でもひとつの形として、フォーマット化されて欲しいというか、あとに続いて欲しいです。こういう、僕みたいな人間が出てくるのもありなんだという事を、みなさんに提示したいし、そういう気概でやっています。

「キャラクターを中国をはじめ、海外のマーケットにアプローチしていきたい」

――インスタでしか見たことがない世界が、どう広がっているのか楽しみです。

パントビスコ やっぱりインスタってネット上のもの、スマホの小さな画面の中の平面でしかない。それがこんな広いところで展開できて、大きい立体人形があったり、パネルも1000枚近く展示していて、リアルを体感できる凄まじい場所だと思います。だからよりたくさんの人に観に来てほしいです。

――「大福くん」「やさ村やさし」、「ぺろち」「にんにん」他、パントビスコさんの作品は多くのキャラクターが登場しますが、これから活動の領域を広げていく上では、キャラクターの存在が大きな武器になりそうですね。

 やさ村やさし(C)Pantovisco Sony Music Entertainment inc.
やさ村やさし(C)Pantovisco Sony Music Entertainment inc.

パントビスコ そうですね。やっぱりコンテンツ、IPを持っている強みというものを、描きながら感じています。キャラクターを持っていると、そのクリエイターさんを表現するときに、「あ、あのワンちゃんのキャラの人ね」ってすぐにマッチングできるじゃないですか。それと企業さんのやりたいことに直結しやすいと思います。僕がキャラクターを抱えているタレント事務所の社長みたいな、そんなイメージです。このキャラクター達をコンテンツが不足している、まずは中国をはじめとするアジアのマーケットにアプローチしていきたいです。

サラリーマンのまま活動を続ける。「冒険はしない、安全な橋を渡っていたい性格なんです」

――パントビスコさんは現在会社員ですが、ビジネス規模が大きくなっても、このスタンスは変わらないんですか?

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パントビスコ そうですね、2年前からパントビスコというクリエイターにスイッチして、今の会社内にそのプロジェクトを立ち上げてもらいました。最近はイラストもそうなんですが、先ほども出てきました、映像の仕事の依頼が増えてきています。アニメ、実写、やっぱり映像を次のステージの軸にしたいと考えています。僕、非ギャンブラーなんです。賭け事が苦手で、やったら大体負けるんですよ。じゃんけんも弱いし。安全な橋を渡っていたいという気持ちが常にあるので、冒険はしません。ちゃんとご飯が食べられればいいんです。例えば、明日僕が何かの理由で、突然炎上してしまってアカウントも閉鎖されて、ファンもいなくなった時、フリーだったら終わりだなと思ってしまって。でも会社に在籍していたら「すみません、元に戻って頑張ります」ってやれるのかなって(笑)。

――なるほど。でもそういうパントビスコさんの性格が、イラストのタッチや雰囲気に出ているから、辛口でもどこか憎めない作品になっているんでしょうね。

パントビスコ そうですね。あまりギラギラしなくてもいいかな、みんなで楽しめればいいかなって、いつも思っています。

パントビスコ オフィシャルサイト