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yuiが"第二の人生"というバンド・FLOWER FLOWERで奏でる、愛の歌

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
左からmura☆jun、sacchan、yui、mafumafu
『スポットライト』(3月14日発売/初回生産限定盤)
『スポットライト』(3月14日発売/初回生産限定盤)

yui(Vo&G)がリスペクトするミュージシャンと共に結成した、「自慢したい」バンド・FLOWER FLOWER(以下フラフラ)が、3月14日に2ndアルバム『スポットライト』をリリース。ポップでプログレッシブ、彼女のリアルな感情が込められた、強くも優しい歌が詰まったこのアルバムは、どのように作り上げたのだろうか。メロディメーカーyuiと、数々のアーティストを支える凄腕ミュージシャンの集合体は、奇跡的な相性と距離感で、唯一無二の音楽、世界観を作り上げている。yuiと、メンバーのmafumafu(B)、sacchan(Dr)、mura☆jun(Key)の4人全員でのインタビューを敢行。

「「産声」のような、地に足が付いた一曲があるといいな」(yui)というイメージからスタートしたアルバム制作

――昨年の8月、シングル「マネキン」の発売タイミングでインタビューした時に、メンバー同士の絶妙の距離感が伝わってきましたが、2ndアルバム『スポットライト』を作った事で、そこに変化を感じていますか?

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mafumafu 距離感は意外と僕の中では変わっていなくて…僕はですけど(笑)。他が…。

mura☆jun 僕ら3人の距離は近くなった(笑)

――yuiさんはボス的な感じで。

yui 程よい距離感で、でも緊張があるとまではいかない位の、穏やかな心地さというか、それは感じます。

――相変わずyuiさんの、3人への全幅の信頼が、今回のアルバムにはすごく出ていますよね。

yui そうですね、寄りかかりすぎない程度にっていう意識はあります。でもすごく信頼しています。

――このアルバムを作る事になった時に、yuiさんの中でキーワードはあったんですか?

yui それが特になくて、ただ、「産声」のような、ちゃんと地に足が付いた曲が一曲あるといいなあというイメージは、なんとなくありました。

「スタジオに入って誰かが弾き始めた音に対して全員が反応し、yuiがアドリブで歌を乗せて曲を作っていく」(mafumafu)

「3周くらいするとメロディが固まってくる」(mura☆jun)

――今回のアルバムは、より人間味溢れるというか、このバンドがやりたいこと、求めている音というものが真っ直ぐ伝わってきて、スッと腑に落ちた気がします。

yui 前作のシングル「マネキン」の時と比べて、今回は肩の力が抜けている気がします。

――プログレッシブなものもあれば、ライトなもの、エレクトロトリックな感じもあって、多彩なサウンドを聴かせてくれますが、やっぱり言葉がきちんと届いてきます。yuiさん作詞・曲が3曲、FLOWER FLOWER名義の曲も収録されていますが、これは全員でセッションしながら構築していく感じだったのでしょうか?

『スポットライト』(3月14日発売/通常盤)
『スポットライト』(3月14日発売/通常盤)

mafumafu そうです、作曲がFLOWER FLOWER名義になっているものに関しては、スタジオに入って、誰かが弾き始めた音に対して全員が反応して、それに対してyuiがアドリブで歌を乗せていくという感じです。

yui それで大体できあがってしまうんです。

mafumafu そうなんですよね、大体曲の形が見えてきて。

mura☆jun 3周くらいすると、メロディが固まってきます。

mafmafu 本当に不思議なんです。「命」という曲は、スタジオに入った瞬間にできました。

yui みんながそのモードだったという感じで。じゃあちょっとDメロのコードくださいとかいうとすぐに出てきて、できてしまう感じ。私の中にはないコード感やリズムをくれるというか、みなさん凄いミュージシャンなので、アレンジも気が付くとできていたりします。逆に怖いのは、こういう感じをいつまでも続けられるかです(笑)。こんなにスムーズに曲作りをしてるという事は、多分すごく相性がいいのだと思います。

――そういう作り方をしているバンド、あまり聞かないですね。誰かが大元になるものを作ってきて、それをみんなで練るというのは聞きますが。

mafumafu 聞かないですよね。どのバンドにいっても、え!?という反応です。

mura☆jun なんで!?嘘やろ?って、よく言われます。

sacchan こんなのセッションで無理でしょ、みたいな。

mafumafu yuiがいいメロディですごく引っ張ってくれるので、逆に驚かせてやろうと思って、何か変なコードを入れてみたり(笑)。で、またメロディが動いて、2周目が始まるとそこにハマるすごくいいメロディが来たりとか、とにかく曲作りが楽しいです。それを一回寝かせて、再構築していきます。

「歌詞は最新の自分で歌いたいのでレコーディング直前に書く」(yui)

「仮歌とタイトルも詞も全く違うものが上がってくるので、この作品は一リスナーとして新鮮に聴けた」(mafumafu)

――yuiさんは曲を作りながら、なんとなく言葉を当てていって、歌詞もおおよそはその時にできているんですか?

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yui 全然できていないです。どちらかというと、言葉よりもメロディの方が浮かんできます。世界観がまずできあがって、歌詞はわりと最新の自分で歌いたいので、レコーディングの直前に書きます。

mura☆jun ワードは、結構出てきています。

yui それが生かされている曲ももちろんありますが、基本的には割と新しく書き直しているものが多いですね。

mura☆jun その響きとメロディがいいなって思ったところは、歌詞を書く前に、あの響きいいよねとか、あの言葉残して欲しいなって、ボソッとリクエストしておくと、本当に残っている事もあって、嬉しかったりします(笑)。

mafumafu 僕らはわりとセッションでできた仮歌をずっと聴いているので、できあがった歌詞で歌録りしたものを聴くと、びっくりします。

mura☆jyun うおー、なるほど!って(笑)。タイトルも変っていて、タイトルと曲が一致しないとか(笑)。

mafumafu 僕らも一リスナーとして、新鮮にこのアルバムを聴けたというか(笑)。

「子供が生まれてから、心の中にある事を素直に出していこうと思った。メンバーも私の事をわかってくれていると思うので、「産声」は本当に大切な曲」(yui)

――セッションから生まれる多彩な音楽が詰まっている中で、強く優しい歌詞とメロディの「産声」は、シンプルだけど輝きを放っていますよね。

yui ありがとうございます。子供が生まれてから、とにかく自分の心の中にある言葉を、素直出していきたいと思って書きました。わざわざいいピアノが置いてあるスタジオを探して行って、ドラムの鳴り方もすごくよかったので、みんなで一発録りしました。すごくパーソナルな歌詞というか、メンバーとも5年位の付き合いになるので、「産声」ができるまでの時間もわかってくれていて、それぞれに思いがあると思います。色々な事を経て、こういう歌詞が出てきたんだなあって。フラフラとして初めてのシングル「宝物」も、すごく大切な曲ですが、この曲も大切です。

「「小さな窓」は、浮遊感の中で遠くの世界へいざなってくれ、吸い込まれてしまう、不思議な感覚」(mafumafu)

――『スポットライト』の中で、難しいとは思いますが、お一人ずつ特に印象に残っている曲を教えて下さい。「産声」以外です(笑)。

mafumafu 僕は「小さな窓」がすごく好きです。

――浮遊感がいいですよね。

mafumafu 昔からある曲で、同じコード進行の中で、単純にその浮遊感の中で、すごく遠い世界へいざなってくれるというか、吸い込まれてしまう感覚があって好きです。もの哀しいけど、どこか救われる感じがするというか、不思議な感じです。

――確かに、遠いところに連れて行かれる感覚というのはわかります。

mafumafu セッションしている時に出てきた歌詞に、<ワンダー>という言葉あって、それが仮タイトルになって、この言葉が曲調と合っていて。

yui <ワンダー>だけだと全然意味がないけど、響きが好き。その響きと、曲調が私もすごく好きな曲です。アルバムの全体で見ると「時計」と「日常」を、繋いでくれる大切な曲というか。

――「小さな窓」はyuiさん自身を表している?

yui 実はこの曲もすごくパーソナルな曲で、ファンタジーな雰囲気はありますが、ところどころ本音が漏れるという感じです。あまり濃すぎない世界観になったらいいなと思って書きました。歌詞がない状態の時からこの曲が大好きで、このメンバーとやっていてよかったなあって思う曲です。だからライヴ前とか集中したい時に聴いていたので、大切に思いながら歌詞を書きました。

――「コーヒー」で、心のささくれというか、汚れみたいなものをyui さんが代弁してくれて、アルバム後半でこの「小さな窓」とか「日常」のような、背中を押してくれる曲が並んでいて、終わり方が心地いいですよね。

yui 「コーヒー」が話題になっていると聞きましたが、この曲が好きだって言ってくださるファンの方もいて。SNSで「ライヴで聴きたい曲をリクエストして下さい」と募集したら、「コーヒー」と言ってくださる方が意外と多くて。だったら大切にしてあげようと思いました。確かにシニカルな曲になってはいますが、例えば上司に怒られたり、色々な事で心がささくれる瞬間だってあるだろうし、そういう時にこの曲がぴったりハマって、ふと力が抜ける瞬間があるといいなと思いました。

「「命」は歌詞もメロディも好き。サウンドはヒステリックさと美しさとが共存している」(sacchan)

――次はどなたの推し曲、いきましょうか。

sacchan やっぱり「命」ですかね。メロディも歌詞もすごく好きで、エネルギッシュな事を言っていると思いますが、<真実は闇の中に>というところがすごく好きで。何が真実で、本当の事かというのは誰にもわからないし。でもそのフィルターは自分の中に持っておくべきで、色々な情報の中で、判断するのは自分だというところも個人的にはすごく響く部分です。サウンド的には、ちょっとヒステリックな部分、といっても美しさが共存しているような気がします。

「「パワフル」はいい曲なのになかなか世の中に出せなくて、でも今回フラフラらしくこの曲を壊しつつ進化させ、ようやく皆さんに聴いてもらえる」(mura☆jun)

――ストリングスの疾走感がいいですよね。

sacchan そこはmura☆junのアイディアです。ただ広がる感じだけでなくて、ちょっと怖いような雰囲気もあって、そういうのが同居している感じが、個人的にはとても気に入っていて。それと、みんなで一斉に同じ方向を向いて曲を作れたというのは、とても嬉しかったです。

mura☆jun 選ぶのは難しいんですけど、やっぱり「パワフル」かなあ。この子は、世に出るチャンスが来ては逃し、というのを繰り返して来た子だったので、今回アルバムに入れる事ができて、本当によかった。元々yuiの弾き語りの曲で、サビのメロディもすごく強くて、でもyuiはテーマがちょっと恥ずかしい、これはフラフラじゃないかもって言っていて。いや、でもこのサビはすごくいいって、推しました。

「一曲に必ずひとつ、爪痕を残したいと思い、いつも演奏している」(sacchan)

――強くてキャッチーですよね。

mura☆jun そうですよね。すごくいい曲なのにずっと寝かされていて。で、みんなで、フラフラらしくこの曲を壊すというか、いいところを残して楽しくやるには、どうやればいいんだろうと、試行錯誤しながら進化させていったので、思い出深い一曲です。

yui みんなすごく引き出しが多いので、それを制限したり、逆に引き出してくれるのが意外とエンジニアさんだったりして。それぞれが、自由すぎないくらいがいいというところがあるみたいで、フラフラっぽさってなんだろうというのもそれぞれがあるみたいなんです。それが似ているところにあるから、そんなに大きくはズレないのだと思います。といってもそのフラフラっぽさに縛られているという感じでもなくて。だからなんでこんなアレンジになったんだろうって、よくわからない曲もあります(笑)。

mura☆jun ありますね(笑)。

mafumafu アレンジしているつもりはないけど、アレンジになっている事がよくある。

mura☆jun 誰かがまとめに入って、それに同調している瞬間に合致したり、逆にもう収拾がつかないので、あとよろしく、という時もあるし。でも最後は、歌という柱がある安心感です。その積み重ねだと思います。

sacchan 一曲にひとつ爪痕を残したいというのはいつも思っていて。それは聴いている人にとっては、面白い事かどうかはわからないのですが、自分がいいと思った事は、何かしらひとつは残したいといつも思っています。「産声」のドラムがシンプルの極みみたいな感じで…。

mura☆jun それが逆に爪痕みたいな感じだ。

sacchan ばかみたいにガッツリいく時と、そうじゃない時の対比が面白いと思って。

「ポップな曲もいいけど、「塵」と「踊り」は印象的な曲」(yui)

――yuiさんの、特に印象的な曲、教えて下さい。

yui 一曲に絞るのは難しいですけど、きっと本来はポップな「時計」や、「アイス」を推すべきだと思いますが、そうではなく、「塵」とか「踊り」でしょうかね。「塵」は、まずmafumafuがずっと違和感を感じているというのが面白くて。

mafumafu 4つのコードを繰り返しているシンプルな曲で、僕はこのコードの1小節目が、みんなは2小節目が頭だと思っている、そのズレがずっと気になっていて(笑)。

yui 3人は同じ意見なのに、mafumafuだけがずっと違うって思っているらしく。

mafumafu ずっと気持ち悪いっていいながら録っていて、今だに気持ち悪いです(笑)。

yui 「踊り」はちょっと思い入れがあって、この曲も昔からある曲で、「フジロック」という仮タイトルでした。それはなぜかというと、バンドを結成した時に、私が「フジロックに出たい!」っていって作った曲なんです。でも時間が経って、そこに囚われず、色々やっていきたいっていう思いに変わって、「パワフル」と同じで、陽の目を見る事がない曲になってしまって。歌詞を書くのがすごく大変でした。

――他の曲は、自分の心情とか、ここ何年かの中で感じた事、見えている事を歌詞にしている感じがしますが、「踊り」は、ぼんやり見えている事を、手探りで歌詞にしているような感じがすごく出ていて、ちょっと温度感が違います。

yui やったことがない事をやってみたくて、ずっとダンスを踊っている人の動きを真似したり、スカートのひらひらを、これってなんて表現するんだろうと考えたり、私なりにちょっと挑戦してみた感じです。

――「あなたと太陽」のウィスパーボイスも印象的でした。

yui ウィスパーボイスを20本くらい録って、疲れました(笑)。

「休んでいたので、世の中の移り変わりに疎い。だから逆に皆さんにどういう風に聴いてもらえるのか、楽しみ」(yui)

――聴きどころ満載の一枚に仕上がっていますね。

yui そうなんですけど、皆さんに手にとってもらえるか不安で。私は4年位休んでいたし、みんなは活動していたけど、世の中の変わり方とかも、全然わからないままこうして出てきているので。ヒット曲も、私が現役の時とは全然違うと聞いています。

――現役じゃないですか(笑)

yui そうですよね(笑)。今、第二の人生が始まっています。逆にどういう風に皆さんに聴いてもらえるのか、楽しみです。

「私自身、いい意味で叩きのめされた時期があってよかった。このメンバーに出会い、第二の人生が始まった」(yui)

――第二の人生を共にするメンバーとの空気感、いいですよね。曲の作り方然り、この絶妙な距離感も。

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yui 面白いなぁと思うのが、フェスに出た時とかも、4人一緒に行動しないし、バラバラなんですよね。そういう感じがすごくいいのかなって。でもこうやってインタビューの時に聞いていると、みんな意外とこのバンドの事が好きなんだって思ったり(笑)

mura☆jun 愛情を確かめ合う(笑)。

mafumafu メンバーとスタッフのグループLINEがあって、そこでさんざんやり取りした後に、yuiは必ず最後に「愛してるよ」ってメッセージを送ってくれるんですよね。

yui 「愛し合ってるかい?」って、(忌野)清志郎さんみたいな感じで(笑)。

mafumafu それってすごくいいなって思うんですよね。

yui 恥ずかしい(笑)。でもこの4年を経て、みんなに「愛してる」って普通に言えるし、私自身、いい意味で、とことん叩きのめされた時期があってよかった、この4年があってよかったと思えます。普通はそんなに休んでいたらメンバーは待ってくれないじゃないですか。それでこんなにいい環境でまた音楽を作る事ができるのは、本当に感謝しかなくて。もう、一生かけて恩返しするしかないですね。

FLOWER FLOWERオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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