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【インタビュー】バカリズム 「嫉妬の対象の音楽の分野でも立ち位置を守り、プライドを持ちお笑いをやる」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「結局音楽が持っていきやがる、という事はいつも思ってます(笑)」

その多彩な才能は音楽のフィールドでも注目を集める

その“発想力”には誰もが一目を置く表現者、お笑いタレント・バカリズム――お笑いを主戦場に、地上波レギュラー番組7本を抱える他、ネット配信や雑誌の連載など、その活躍の場は広がり続けている。また、「素敵な選TAXI」(フジテレビ系)で連続ドラマの脚本を初めて手掛けて以降、「かもしれない女優たち」シリーズ(同)、「桜坂近辺物語」(同)と3クール連続で、連続ドラマの脚本を担当するなど、脚本家としても評価が高い。先日オンエアされた『FNS27時間テレビ にほんのれきし』(フジテレビ系)でも、縄文時代から近現代まで網羅した「にほんのれきし博物館」の館長を務め、さらに番組内のスペシャルドラマ2作の脚本を手がけた。

その才能を発揮する場所を、音楽のフィールドも広げている。MCを務める音楽番組『バズリズム』(日本テレビ系/毎週金曜24:30~)を発信基地にして、人気アーティストから新進気鋭のアーティストまでが顔を揃えるフェス、『バズリズムライブ』を毎年行ったり、今年8月26日には、バカリズムの楽曲制作プロジェクト「バカリズムと」と、シンガー・ソングライター秦基博との音楽ユニット「ハタリズム」として配信シングル「「いくらだと思う?」って聞かれると緊張する(ハタリズム)」で、メジャーデビューを果たした。

「売れる曲ではなく、記憶に残る曲を作る」をコンセプトに、バカリズムが作詞、ボーカル、秦が作曲、ギター&コーラスを担当し、話題を集めた。その第2弾、水野良樹(いきものがかり)とのコラボレーション「ミズノリズム」として「白が人気(ミズノリズム)」を、9月30日に配信リリースする。秦基博に続いて、水野良樹という人気ミュージシャンとのコラボレーションが続くバカリズムに、今回の取り組み、楽曲、さらに音楽の魅力について話を聞いた。

「水野さんは3曲も作ってくれ、そのどれもが本当に素晴らしくて、ビックリしました」

――「バカリズムと」も第2弾ということで、今回の制作はスムーズに進みましたか?

バカリズム そうですね、やっぱり緊張はしますが、1回目(ハタリズム)よりは確かに慣れたというか、最初はスタジオに入った時に「こんなにマジなんだ!?」と完全にビビってしまいました。でも今回は、雰囲気にのまれないようにという心構えでスタジオに入りました。それでも緊張はしましたけど。

――バカリズムさんと水野さんお二人の、打合せという名の探り合いの様子が、『バズリズム』でも放送されていましたが、あれが面白かったです。

バカリズム 以前、いきものがかりのアルバムのCMをやらせていただいたり、パンフレットのイラストも描かせていただいたり、『バズリズムライブ』で共演させていただいたり、水野さんとは色々と絡んではいたのですが、ここまで一緒にちゃんと作るのは初めてだったので、気を遣いながら、お互い下手なことを言えない、ダサいアイディアは出したくない、という感じが出ていましたね(笑)。

――水野さんから曲があがってきた時の最初の感想を教えて下さい。

バカリズム さすがだなと思いました。3曲もあがってくると思っていなかったので、しかも全部メロディが素晴らしくて、スッと入ってくるんです。気持ちよくて、それぞれ世界観が違って。どれを出してもいいくらい完成度の高いものが3曲送られてきたので、恐ろしいな、すごいなと思いました。

――水野さんは水野さんで、やはり前作の秦さんの作品には負けられない、という気持ちが強くなりますよね。

バカリズム そうですよね、それはありますよね。秦さんの曲もすごく良かったので、だから本当に真逆というか、バラードではなくダンスナンバーを作り上げてきた水野さんはすごいと思います。

「「白が人気」は、素晴らしいメロディに大喜利感覚で言葉を探し、乗せていきました」

――3曲の中からこのキャッチーなダンスナンバーを選んだ理由を教えて下さい。

「白が人気(ミズノリズム)」(9月30日配信スタート) 配信ジャケットは前作に続きバカリズムが手がけている
「白が人気(ミズノリズム)」(9月30日配信スタート) 配信ジャケットは前作に続きバカリズムが手がけている

バカリズム なんとなく大喜利感覚で、お題として当てはめやすいというか、「白が人気」というところ、サビの部分が一番耳に残るし、大喜利し甲斐があった感じというか。単純に面白いかどうかで選びました。サビを歌ったときに、何を入れても面白くなりそうだなと思いました。どんな言葉を当てはめたらいいかな、どんな言葉だったら当てはめるほどでもないかな、という感じでテーマと言葉を探していきました。

――メロディと歌詞が覚えやすくて、耳に残ります。

バカリズム いきものがかりとは真逆の詞を書こうと思って(笑)。本当に歌詞にするほどでもない情報を入れようと。3分も使って訴えかけることでもない、よりムダなことを言おうと思いました(笑)。「白が人気」というテーマを決め、あとはそれを引き延ばす作業でした(笑)。色々な角度からいって、ここでこういう展開させて飽きさせないようにしてとか、オチを入れてという感じで、お笑いやドラマの台本を書くのと割と近い感覚、手法でした。

――前作も今回の「白が人気」も、バカリズムさんの書く詞は、誰もが思っている、感じている、でもなかなか口にできない日常の一コマを切り取って言葉にしてくれていて、それが親しみのあるメロディと相まって伝わってくるので、共感できる人が多いですよね。

バカリズム 「「いくらだと思う?」~」は特に共感を意識しました、保険というか(笑)。「白が人気」は共感というより、もうちょっとメロディを使って遊んだ感じになりました。共感ってひとつの手法でしかないと思うので、また全然違う感じのものができればと思いました。でもあまりにも突拍子もない笑いで、笑わせにかかりすぎている詞だと、ちょっと違ってくるのでその辺のバランスが難しいですよね。

――シンガー・ソングライターの秦さんが作る曲と、バンドのソングライター水野さんが作る曲は、バカリズムさんの中ではやはり違う感触でしたか?

バカリズム 距離感というか、作る工程が違う感じはしました。秦さんは仮歌もガッツリ歌って、レコーディングもずっと参加していて、まさにソロのシンガー・ソングライターという感じでした。いきものがかりというチームの曲を作っている水野さんは、距離感というか、いつもこうやって作っているんだろうなぁというのを感じる事ができて、二人のスタイルは全然違いました。ビックリしたのが、水野さんの仮歌は、本当に適当な歌詞を当てはめて歌っていて、でもそれがストーリーとして成立しそうなんです。歌詞に意味なんて全くなく、書き起こしてみても何の意味もない詞なのに、でも聴くとひとつの話になっているんです。すごいですよね。

「秦さんも水野さんも、もっと歌に入ってきて欲しかった。そうしたらクオリティが上がったのに(笑)」

――完成した「白が人気」を聴いて、いかがでしたか?

バカリズム ハタリズムの時もそうでしたが、秦さんの声が入れば入るだけクオリティがあがるのでもっと入ってきて欲しかったですし、水野さんもっと入ってほしかったです。曲のクオリティのためなら、そこまで僕をたてなくても……とにかく作品重視なので、ドラマの脚本を書く時も、自分が出ない方がいいなと思ったら、全然出なくていいと思っているので。

――全く雰囲気が違う2作が完成して、第三弾、四弾が聴き手としては楽しみです

バカリズム バリエーションが大切だと思っていて。僕も単独ライヴ用のネタを作る時は、極力ネタ同士のイメージや雰囲気を離すようにして、色々な真逆のものを入れるように構成するので、ハタリズムをやっている時点で、次は真逆の雰囲気のものになるんだろうなとは思っていました。それで水野さんの名前が挙がったので、しっくりきたというか、絶対合うと思いました。やっぱり秦さんも水野さんもただのミュージシャンではなく、日本の音楽シーンを代表するヒットメーカーで、そういう方達から、当たり前のように「あざーす!」って曲をもらっているけど、すごい事だと思っています。

「お笑いのプロとして自分の立ち位置を守って、詞を書くことを意識しました」

――ヒットメーカーという点においては、バカリズムさんもそうだと思います。

バカリズム いや、音楽に関してはやっぱりすごいですよ。

――水野さんも秦さんもバカリズムさんをリスペクトしていて、バカリズムさんのために少しでもいい曲を書かなければ、いいパフォーマンスを見せなければ、と懸命に取り組んでいると思いました。

バカリズム お二人が本当に一生懸命取り組んでくださったので、僕もお笑いのプロとして、変にいい感じのホロっとさせたり、感動させるとか、そういう自分がやったことがないところに近づくのではなくて、ちゃんと自分の立ち位置を守って、自分のプロの仕事として詞を書くことは意識しました。

ミズノリズム(水野良樹(いきものがかり)、バカリズム)
ミズノリズム(水野良樹(いきものがかり)、バカリズム)

「ミズノリズム」の水野良樹はバカリズムと「白が人気」について、「バカリズムさんの美声と、胸の中がいつもとは違う意味で痛くなる歌詞には、今まで何度も「このひと、ほんとマジはんぱねーな、才能えぐいな」と思い続けておりましたが、今回、自分の書いたメロディにその言葉たちが乗せられて感無量でした。ファッション業界の在庫管理に大きな影響を与えること間違いなしのこの楽曲、ぜひ皆さん洋服屋さんの店頭で、これみよがしに大きな声で口ずさんでほしいです」と、今回の共演を心から喜び、楽しんだ。

「ミュージシャンの方も音楽とお笑いは共通点があると言ってくださいますが、決定的な違いがある」

――バカリズムさんの中で音楽は、なくてはならないものですか?

バカリズム 芸人として嫉妬の対象ですね。若手の頃ミュージシャンの方と、ネタと歌で共演することがありましたが、圧倒的に音楽の方が盛り上がるんですよ。そのコンプレックスみたいなものがずっとありますね、結局音楽が持っていきやがってって(笑)。どうやれば音楽に勝てるんだろうと考えた事もありましたが、単純に音が大きいし、もう迫力が違うんですよ。お笑いのライヴは、シーンとした中で笑い声だけを起こさせるものなので、それはそれで良さがあるのですが、なんだかんだで音楽に持っていかれるなと、ずっと思っていますね。

――大きな括りで見ると、芸能もお笑いも音楽も、観ている人、聴いている人を2時間、3時間だけ現実を忘れさせてあげるという共通点はありますよね。

バカリズム そういうふうに考えたりもしましたし、割とミュージシャンの方も、お笑いと音楽は共通する部分があると言ってくださいますが、決定的に違う部分があるといつも思っていて。それはお笑いはお笑いを観ようと思ったら、お笑いを観るしかなく、それが面白いか、笑えるかどうかなんです。お笑いを観ている時間に、嫌なことを忘れられるとか、とても面白かったと言ってもらえますが、音楽って、その人の生活の中にも流れていたりして、記憶に張り付いているものだと思います。この曲を聴くと、楽しかった思い出を思い出すとか、色んな楽しまれ方をするものなので、そこがお笑いとの決定的な違いですよね。

――その人の色々なシーンに寄り添っているというか。

バカリズム そんな感じがしますよね。観ている人にとって、ミュージシャンが主役の場合もあれば、本人が主役で音楽がBGMとして流れているというか。

「自分のお笑いは最初の面白さがマックス、音楽は聴いていくうちによくなることもある」

――このプロジェクトのテーマは「記憶に残る曲を作る」ですが、お笑いも記憶に残る芸人さん、ネタもあると思います。

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バカリズム 記憶には残っているけど、思い出しているときには最初よりは面白くないですよ。面白かったという体験は記憶しますが、小さいとき観て面白かったものは、今観て改めて面白いかというと、当時と比べるとやっぱり面白さは落ちるんですよ。それがずっとテーマですね。ネタは何回観ても面白いというのはあり得ないので。曲はだんだん良くなってきたりするじゃないですか、最初好きじゃなかったけど、聴いていくうちにハマったとか、これが決定的な違いですね。お笑いライヴって基本的には新ネタじゃないですか。落語のように同じネタを色々な人が演じて、磨いていってというパターンもありますが、僕がやるタイプのお笑いに関しては、最初の面白さがマックスだと思いますね。

――そこが一番の嫉妬の部分ですか?

バカリズム そうですね、だからたぶんそれは僕らが悪いのではなくて、音楽という文化を発明した人と、お笑いという文化を発明した人の差ですよね(笑)。

――お笑いライブのために毎回毎回新作を考えるのは、想像を絶する大変さですよね。

バカリズム 大変です(笑)。作る数、量の大変さは、絶対芸人の方が大変だと思います。

※『バズリズム』はリニューアルし、『バズリズム02』(バズリズムツー)として10月6日(金)から、放送時間が毎週金曜24:59~(一部地域を除く)に変更になる。

Profile/本名升野英知(マスノ・ヒデトモ)。1975年11月28日生まれ、福岡県田川市出身。1995年『バカリズム』を結成。2005年12月よりピン芸人として活動。現在、TVレギュラー番組を中心に活動するかたわら、定期的に単独ライブを行っており、発売と同時に即完売となる人気を誇る。他にもナレーションや役者、脚本、イラスト、書籍など多方面で活動中。

バカリズムと「白が人気(ミズノリズム)」

「『いくらだと思う?』って聞かれると緊張する(ハタリズム)」MUSIC VIDEO配信

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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