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スピッツ 結成30周年記念ツアースタート 「まだまだ通過点」と未来を感じさせる、”希望”に満ちた時間

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/内本順司

スピッツの結成30周年全国ツアー『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』の開幕戦、静岡エコパアリーナ公演を1日、観た。ツアー初日という事で、当然その内容やセットリストに関して、オープンにできる事は限られているが、それでも素晴らしいライヴだったので、その感動を伝えたくて、少しだけレポートしてみたい。

7月5日にシングル・コレクション・アルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection-30th Anniversary BOX-』が発売されるという事で、集まったファンはセットリスト、そして30周年についてのメンバーからのコメントが気になるところだ。開演前の客席はそんなワクワク感と、ツアー初日という事もあってドキドキ感とが入り混じた雰囲気。でもやっぱりみんな30周年のお祝いに来ている。だから幸せな空気で満ち溢れていた。

草野マサムネ(Vo/G)
草野マサムネ(Vo/G)

スピッツがメジャーデビューしてこれまで、静岡県で20回ライヴを行い、この日が初のエコパアリーナでの公演という事を、開演前のアナウンスで知った。小高い山の上にあるこの会場の周辺の風景を、草野マサムネは「昔みんなで行ったスコットランドみたいな感じ」と表現していた。

三輪テツヤ(G)
三輪テツヤ(G)

客電が落ちた瞬間、歓声が上がり、総立ちになった客席の温度は一気に上がる。メンバーの登場を大きな拍手で迎え、アニバーサリーツアーの幕はいよいよ切って落とされた。セットリストは新旧織り交ぜ、緩急をつけた約20曲を披露。疾走感ある瑞々しいロックナンバーの、記念すべきデビューシングル「ヒバリのこころ」、シングル・コレクション・アルバムに収録されている、『めざましテレビ』のテーマソングとしておなじみの「へビーメロウ」は、シンプルな構成だからこそリピートしたくなる中毒性がある。草野がこの日唯一曲名を紹介し歌った、名曲「ロビンソン」を歌うと、客席に感動の波が広がっていくのが伝わってきた。そして2004年の作品で、今年前半SUBARU『フォレスター』のCMソングに起用された事も記憶に新しい「スターゲイザー」、打ち込みのリズムと、草野がかき鳴らすアコギのコントラストが印象的な「運命の人」などを聴かせてくれた。

田村明浩(B)
田村明浩(B)

甘酸っぱいメロディを歌い、どんな曲にも切なさを纏わせる草野マサムネの声、胸を躍らせ、時には優しく歌に寄り添う三輪テツヤのギター、雄弁かつ豪快なサウンドで、スピッツの音を支える崎山龍男のドラムと田村明浩のベースのリズム隊。その強固でしなやかなバンドアンサンブルは、30年だからこそのもののはずだが、どこまでも新鮮さを感じさせてくれた。ベースの田村は「楽しい!」を連発していたが、4人が心から楽しみながら演奏しているのが伝わってきた。スピッツは“永遠のロック少年”4人が集まっているバンドなんだと改めて思わせてくれた。

崎山龍男(Dr)
崎山龍男(Dr)

先日ここで書いたスピッツの記事の中でも触れたが、“誰もが共感できる”、誰の心にも重なるという普遍性がスピッツ最大の強みだが、でも例え100%共感できなくても、「どこか、なんとなく共感できる」部分が多いのが、最高の武器になっている。この日も幅広い年齢層のファンが集まった客席は、腕を突き上げ盛り上がったり、時には体を揺らしながら歌に包まれたり、また座って目をつむって、まるで何かの思い出と共に愛おしそうに聴いているかような、そんな思い思いの楽しみ方で、4人が奏でる、誰もが口ずさめる名曲の数々を体と心で堪能していた。

実はメンバーの三輪と田村が、共に静岡県出身の幼馴染という事で、草野が「このバンドは四捨五入すると静岡のバンドです」と言うと、大きな拍手が沸き起こった。“息の合ったゆるい”MCもスピッツのライヴの魅力のひとつだ。30年前の7月に初めてライヴを行ったスピッツ。この日は”30年”という言葉がメンバーの口から何度も出て、感慨深そうに時間を遡っていたが、「まだまだ通過点。これからもおもろい曲、不思議な曲をたくさん作るので期待してて」という草野の言葉通り、常に新鮮さを追求し、音楽を楽しむ4人の姿を見せ、音楽で意思表示をする場が今回のツアーである事を、その初日にしっかりと感じさせてくれた。

この日は、客席、スタッフ、そこにいる全ての人達が、30周年を祝福したいという気持ちを持ち、ライヴに臨んでいた。そんな多幸感溢れる空間で歌い、演奏したメンバーは、その想いを受け取り、全国11か所で22公演を行いながら、“希望”をお返しとして一人ひとりに渡していく。ファイナルの10月1日宮城公演まで、スピッツの“希望”に満ちた旅は続く。

スピッツ オフィシャルサイト

※崎山龍男の「崎」の正式表記は、立つ崎(たつさき)。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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