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”劇場体験型映画”は新しいライヴの楽しみ方!? 最高の音響環境がもたらす、新たな映像体験に注目

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
『KISS Rocks VEGAS』/(C)2015 GAPP 2002 LTD

「極上爆音」が人気。映画館のサウンドシステムはどこまで進化するのか

立川にある380席の映画館、「シネマシティ」は相変わらず連日大入りが続いているようだ。「極上爆音」上映で、映画ファン、音楽ファンの心をがっちりつかんでいる。昨年6月、『マッドマックス 怒りのデスロード』を公開する際、ドームやアリーナクラスの会場で使用するサブウーハーという、重低音専門のスピーカー設置のスクリーンで上映を行い、大きな注目を集め、最終的には約1年に渡る異例のロングラン上映を記録した。さらにサウンドのクオリティの追求はとどまることを知らず、ラインアレイスピーカーという、映画用というより音楽用の、音が垂直方向に広がらず、水平方向に広がっていくので天井や壁からの余分な反射が少なく、狙ったエリアに音を届けることができるスピーカーを導入。これにより「産毛まで揺れる」と言わしめるほどの極上の爆音を作り上げた。これもひとえにお客さんによりいい音で映画を楽しんでもらおうという、こだわりのサービスだが。映画館という空間に新たな付加価値をもたらし、お客さんの満足度と共に、大入りが続く同館の収益もうなぎ上りであると予想できるが、その収益をまた新たなサウンドシステムの構築に投入し、更なるサービスの向上に努めるその姿勢は美しい。同劇場には合計23個ものスピーカーが、スクリーンの真裏と左右に積み上げらている。

この「爆音上映」は現在は全国に拡がり、映画の新しい楽しみ方として浸透しているが、立川シネマシティには唯一無二の「極上爆音」を求めて全国からお客さんが押し寄せている。

「スクリーニング」に集まる注目

映画館でのライヴビューイングというのも、ライヴの新しい楽しみ方として市民権を得ている。残念ながらチケットを手に出来なかったり、遠方のライヴ会場に足を運ぶことができなかったファンから喜ばれていて、ライヴ会場に負けない盛り上がりを見せている。また、アーティストのドキュメントも映画も百花繚乱、ファンは確実に映画館に足を運ぶため、興行収入もおしなべて堅調だという。さらにライヴ映画も増えてきて、ライヴビューイングではなく、4Kカメラなどで撮影された高画質ライヴ映像が、クオリティの高い音と共に世界同時公開される=スクリーニングが、ここ数年で一般的になってきた。これまでもロジャー・ウォーターズ、イマジン・ドラゴンズ、MUSE、ワン・ダイレクションなどのライヴ映像が世界同時公開されている。映画館のサウンドシステムの向上に伴って、お客さんの満足度という部分でも、このライヴ映画への注目度が高まっている。そんな中、先日、度肝を抜く“劇場体験型映画”を観る機会に恵まれた。

KISSのプレミアライヴ『KISS Rocks VEGAS』を、ドルビーアトモス音響システムでライヴ上映。そこで感じた新しい映像体験

それは、キャリア40年以上を誇り、昨年東京ドームでもライヴを行った世界最高峰のライヴバンドの一組、KISSのラスべガスのクラブで行われたスペシャルショーを収めた作品『KISS Rocks VEGAS』のジャパンプレミア上映会だ。

全国から集まったKISSフリークと野宮真貴(中央)
全国から集まったKISSフリークと野宮真貴(中央)

約500席のチケットはソールドアウト。普段は数万人規模のアリーナ公演が多いKISSが、4,000人収容のスタンディングスタイルのクラブに、新しいステージセットを持ち込み、スタジアムクラスのショウを再現したというだけあり、貴重な映像だ。そんな作品を世界的には5月25日、日本では5月29日に1夜限り&1劇場限定でのプレミア上映会になった。なんといっても注目は、日本国内で2例目のドルビーアトモス音響システムでのライヴ上映ということだった。“音が見えるよう”だと比喩されるこのシステムは、3次元空間に音を自由に配置して、縦横無尽に移動させることができるため、最大で64チャンネルの独立したスピーカーを劇場内に配置し、個別に稼働させることで、効果音も含めてかつてないほどの立体感のある音を創りだしていた。新しいミキシングで、従来よりもより精密に音の位置や動きを表せるようになり、これがまるでライヴ会場にいるような臨場感を感じさせてくれるのだ。楽器の音は詳細で緻密かつクリアで、特に重低音は体中に響いてくるようだった。またKISSの代名詞でもある大量の火薬を使用してのパイロの爆発等、特効の爆音が前後左右へと頭上を飛び交い、実際に目の前で起こっているような生々しさで、熱さも伝わってくるようだった。まさにライヴ会場だった。生き生きとした映像、音、とにかく臨場感を全身で感じることができる迫力は、ライヴビューイングとも爆音映画ともまた少し違う感じ方だった。ドルビーアトモスシステムを導入する映画館は全国で拡大しているようだ。近い将来はどこででも“劇場体験型映画”を楽しめそうだ。

ライヴ会場で観るライヴとはもちろん違うが、限りなくライヴ会場に近いド迫力の音と、臨場感を創りだすことに成功

もちろん、ライヴ会場で生で観るライヴとは、肌で感じる感覚や匂い、会場で巻き起こるグルーヴなど、圧倒的に違うかもしれないが、でも限りになく近い感覚だ。ここまでリッチな映像と音響が基準になるのであれば、こだわりを持つミュージシャンも納得のコンテンツになり、スクリーニングが世界的にもこれまで以上に広がりを見せそうだし、音楽の新しいビジネスとしての展望も明るいのではないだろうか。

大きな反響を受け『KISS Rocks VEGAS』の最後のアンコール上映決定

今回の『KISS Rocks VEGAS』はジャパン・プレミアということで、TOHOシネマズ新宿1館だけでの上映だったが、ファンからのリクエストの声が多く、6月12日(日)に全国14都市17劇場で最後のアンコール上映も決定した。今回同様にドルビーアトモスでの上映や、5.1ch音響システムでの上映も行われ、大迫力のサウンドが楽しめる。

求められる新しいエンタメ。音響も映像も劇場の在り方も、更なる進化が期待される

昨年横浜に完成した世界初の常設ホログラフィック劇場「DMM VR THEATER」は、各分野の最新テクノロジーによる映像技術と、9.1chサラウンドの音響設備が備わり、それを駆使して、気鋭のクリエイターたちが、今まで観た事がない新しいエンターテイメントをどんどん創りだしていて、若い人たちを中心に、その衝撃が口コミでどんどん広がっている。ユーザーが受け取るメディアがどんどん多様化していき、それに伴ってどんどん耳も目も肥えていき、求めるもののレベルも当然あがってくる。映画館も含めた劇場の在り方や使い方もこれから劇的に進化しそうな予感がするし、ユーザーもそれを求めている。10数万円するソニーのハイレゾ対応ウォークマンもそう、このVR劇場もそう、「極上爆音上映」も、ドルビーアトモスで聴くライヴ映画もそう、目も耳も肥えたエンタメにうるさいユーザーは、圧倒的な感動を求めてくる。最初はひと握りのユーザーの間で評判になり、それがやがて大きなマーケットになっていく。作り手がユーザーを育て、ユーザーが作り手を育て、日本の“エンタメ力”がますます鍛えられ、市場は活性化していきそうだ。

『KISS Rocks VEGAS』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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