小林希 世界50か国を旅した”旅女”が語る一人旅の魅力――世界の人々はこんなにも美しい 

写真提供/小林希

「旅のない人生なんて考えられない」

写真提供/小林希
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「旅のない人生なんて考えられない」――29歳で、生活の中心に旅を置くスタイルをスタートさせた“旅女”が注目を集めている。小林希(のぞみ)さんの新しい人生は、会社を辞めたその瞬間から始まった。生まれ変わったといっていい。そう確信できる自分が存在し、旅が、世界中の人々との触れ合いが彼女を変えた。これまで50か国以上の国々を訪れ、そのうちの14か国での人々との触れ合い、忘れることができない22の実話をまとめた彼女の著書『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』(3/17発売;幻冬舎)は、非常に“心地いい本”だ。1時間ちょっと世界中を旅している気分にさせてくれる。そんな“旅女”に、一人旅の素晴らしさをタップリと語ってもらい、さらに旅の途中に寄った瀬戸内の小さな島で、「島おこし」に参加して島再生のきっかけ作りをしたという、そのバイタリティ溢れる彼女の魅力に迫ってみたい。

中学時代初めて”世界のゆがみ”を知り衝撃を受ける。「世界に溢れる不平等ってなんだろう」

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小林希さんの“旅人生”は実は中学生の頃から始まっていた。仕事の都合でフィリピン・マニラに赴任していた父親の元を何度も訪れるうちに、「なんだこの国は!」と衝撃を受けたという。「住んでいる人達はみんな逞しくて、世界ってすごいなと思い、でもその時は私は日本に住んでいてよかったと思いました」。しかし父親に「日本にいる方が不幸なことがたくさんあるし、ここにいた方が幸せなこともたくさんある」と言われ、ショックを受け、自分なりに「幸せというものの価値観とか、豊かさって何だろうということを考え始めた」。中学1年の少女は、フィリピンで強い衝撃を受け、“世界”を少しのぞきたくなった。

その後も彼女の父親の赴任先は香港、中国本土へと変わっていき、当然小林さんはその度に父親を訪ねた。「最初は異国情緒を楽しんでいたのですが、そのうち人種問題や生まれとはなんだろう?という根本的な事をすごく考えるようになりました」。そして日本に帰国してからも、その問題について自分で調べ、考え、親から虐待を受けている子供たちが収容されている施設や、老人施設にボランティアで行き、触れ合ったという。「この世界に溢れる不平等ってなんだろうということに、真剣に向き合っていました」。それまでは気が付かなかったことに、世界に出かけて行くことで気づき、大切なことを感じた彼女の心の中に“得る感覚”がしっかりと刻み込まれた。

「自分の中の中心が空洞になっている気がした。もっと自分らしく生きたい」――29歳で会社を辞め、その日に旅立つ

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大学卒業後、サイバーエージェントに入社。アメーバブックスという出版部門で編集者としてブログ本や数多くの書籍を手がけ、忙しく働いていた小林さんは、旅の機会を失っていた。気が付くと28歳になっていた。「28歳の時、久々に友達とバックパックでチュニジアに行った時「これだっ!」て思ったんです。仕事は内容も人間関係も充実していたのですが、自分の中の中心が空洞になっているような気がしていました。もしかしたら、はたから見たら楽しそうに見えていたかもしれませんが、ただずっと流されるように、周りに合わせて生きている気がして、30歳を前にもっと自分らしい生き方をしたいと考えました。それに、自分一人で生きていく強さを持ち合わせていないと、将来結婚しても絶対続かないと思いました」。毎日を忙しく過ごしていく中で、どこか満たされない自分がいた。久々に訪れた海外でそれを再確認し、空洞だった自分の“ど真ん中”を埋められる唯一の方法を見つけた。彼女は迷うことなく会社を辞めた。そして辞めたその日に羽田空港からエアアジアというLCCでインドネシアに旅立った。バックパックの旅だ。「今は以前の自分とは違うのがわかりますし、年を取るにつれて楽しいと思えます。今は一年一年起こる色々な事が、自分の中心をしっかり埋めてくれていて、自分という人間が色濃くなっている感じがします」。何の衒いもなくそう言える彼女は、明らかに生まれ変わったのだ。考えているだけは何も変わらない、行動するからこそ人生が変わるということを彼女は教えてくれる。

「会社を辞めた時、先の事を考えるのをやめ、旅に集中したかった。まだ旅の途中」

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それにしてもいきなり会社を辞め、後悔や経済的な不安などはなかったのだろうか。「会社を辞めた時に、先のことを考えるのは一切やめようと決めたんです。完全に旅に集中しようと。日本に帰ったらアルバイトをして、食べるくらいならなんとかなるだろうと気楽に考えていました。なので後悔は全くなく、例えば白鳥が「そろそろ旅立ちの時だな」って越冬するために次の地へ飛び立つのと同じくらい自然な感覚だと思います(笑)」。本能だった、と。「(笑)でもこの航海に色々な事が起きるだろうなという不安とか、生きて帰ることができるだろうかという恐怖はありました。経済的な不安もその時はなかったです。数年間、毎月少しずつ貯金していたのと、旅に出ると決めてからさらに頑張って貯金しました。当時世界一周は120~150万円くらいでできるという情報をチェックしましたが、実際はまだ世界一周も完了していなくて、旅の途中です(笑)」。

「会いたい人がいるからその国に行く」――『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』は世界中のステキな人達との物語

世界の人々との素敵な出会いを綴った『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』
世界の人々との素敵な出会いを綴った『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』

最初の旅はインドネシアから始まり、アジア~ヨーロッパを中心に一年間世界を周った。そしてその中のアジアを旅した3か月間をまとめた『恋する旅女、世界をゆく―29歳、会社を辞めて旅に出た』(2014年 幻冬舎文庫)で作家デビューした。毎日書いていた日記が元になっている。その後も彼女の旅は続き、世界の国々とそこに暮らす人々の美しさを発信し続けている。『女ふたり台湾、行ってきた。(地球の歩き方コミックエッセイ)』(2015年 ダイヤモンド社)、世界中の猫と街の風景とプチエッセイで構成された『世界の美しい街の美しい猫』(2015年 エクスナレッジ)、『恋する旅女、美容大国タイ・バンコクにいく!』 (2015年 幻冬舎文庫)と作品を発表し、最新刊が『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』(幻冬舎)だ。

写真提供/小林希
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登場する国=人々は、メキシコ、キューバ、メキシコ、フランス、イタリア、スリランカ、チェコ、チュニジア、クロアチア、ボスビア・ヘルツェゴビナ、プエルトリコ、ドミニカ、ハイチ、インド…おなじみの国からなかなか行く機会がない国、様々だが、共通しているのは彼女の旅は決して豪華な旅ではなくむしろその逆だということ。リュックに一眼レフのカメラとパソコン、最低限の洋服と化粧品、これが彼女の旅の基本スタイルだ。そして聞いたこともない小さな街で、普通に暮らしている人々の中に溶け込み、一緒に生活をする。これが彼女流の旅。人々が何気なく生活している中にこそ感動が存在し、そこで出会う人達とのふれあいを綴っている。この22篇の小さな物語は大きな出会いの証でもある。そしてこの本の中の写真は自身で撮ったものがほとんどで、時には自分を被写体にして、街で出会った人々にシャッターを押してもらうこともあるという。でも、そんな何気ない写真だからこそ切り取ることができた空気や色が溢れ出ていて、どの写真もイキイキしている。「「どこの国がよかったですか?」とよく聞かれるのですが、やっぱり人との出会いが印象的だった国ですね。同じ国に何度も行くのは、そこに会いたい人達がいるからなんです。チュニジアも、最近よく行くキューバも、素敵な家族に出会えたからなんです。今、香川県の讃岐広島で島おこしをやっているのも、なぜ数ある島の中でそこなのかというと、会いたい人達がいるからなんです」。

瀬戸内の小さな島・讃岐広島の人々と共に、”島プロジェクト”をスタートさせ、古民家を再生、宿泊施設を作る

写真提供/小林希
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讃岐広島で”島プロジェクト”を立ち上げ、島の人達と作り上げた宿泊施設「ひるねこ」
讃岐広島で”島プロジェクト”を立ち上げ、島の人達と作り上げた宿泊施設「ひるねこ」

猫の写真を撮るために、瀬戸内海の島々を巡っている途中で立ち寄った小さな島、讃岐広島で出会った人々に魅了され、彼女は過疎化に悩む島を活性化するプロジェクトの手伝いをするようになった。今では旅と共に彼女のライフワークのひとつになっている。「2014年に知人の勧めもあって訪れたのが最初です。その時、島の方に本当によくしていただいて、まるで海外にいる時のような人との距離の近さ、優しさをすごく感じて、たまらなくなっちゃったんです。島の人達と色々話をしていくうちに過疎化が進む現状、なんとかしなければいけないという話を聞き、島のために自分に何ができるかを考えました」。

小さな島の25人の小さな集落が海外からも注目を集める。「島にもっと人を呼びたい」

彼女は“何もない”島と、そこに住む人達の優しさに魅了され、島が廃れていく現実を目の当たりにして、いても立ってもいられなくなり、1年間、毎月島を訪れ積極的に「島プロジェクト」を立ち上げた。「島の方達と協力して、まず空き家の古民家を再生して、ほぼお金をかけずに宿泊施設を作ることになり、「ひるねこ」という宿が完成しました」。「意見が合わずに泣きながら議論し、仕事でもないのになぜ?と何度も途中で投げ出したいと思った」という。「でもやっぱり自分で言い出したことだし、本当にいい人達ばかりなので、続けることができました。畑で好きなだけ野菜を獲って、海で魚を釣って自炊して、という自然の生活を体験して欲しいです。私も東京から友達やその家族を連れていって、生活を体験してもらっています。そうやって毎月島に人がたくさん来ることが話題になるといいなと思い」。

2015年12月23日付朝日新聞に”島プロジェクト”が取り上げられ、注目を集める。写真提供/小林希
2015年12月23日付朝日新聞に”島プロジェクト”が取り上げられ、注目を集める。写真提供/小林希

彼女が様々なところでこのプロジェクトのことを発信したことで、メディアも注目するようになり、香川県丸亀市が「空き家再生プロジェクト」を立ち上げ、市の予算に助成金を計上し、他の島の空き家も宿泊施設にしようという取り組みが始まった。「私がお世話になっているのは茂浦(もうら)という25人の小さな集落なんですけど、そこに2軒目の宿泊施設「たびねこ」が完成しました」と彼女は嬉しそうに語ってくれた。同じ香川県の“アートな島”で有名な直島には、今海外からの旅行者が数多く訪れている。もちろん“何もない贅沢”を体験できる讃岐広島の、一泊3,000円で泊まれる「ひるねこ」の情報も徐々に広まっているようで、国内だけではなく、フランスやフィジーからの旅行客がすでに利用し、これからどんどん増えていくインバウンドから注目を集めそうだ。

「旅は手っ取り早くたくましく成長できる方法。生きていることを実感できる」

写真提供/小林希
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美しい風景や美味しい料理を求める旅もいいが、そこに住んでいる人達とのふれあいこそが旅の醍醐味で、そういう体験を通して新しい自分を発見できると小林さんは言う。「旅は手っ取り早くたくましく成長できる方法だと思います。私自身が旅に出る方が感情が素直に出てきます。いいことでも悪い事でも感情が芽生えてくることで、心が満たされると思うんです。生きていることを実感できるというか…。それと、私ってこういうことされると嬉しいんだとか嫌なんだということもわかってきて、自分のこと全然知らなかったんだなということが旅に出てわかりました」。一人旅はその人の“実力”が試され、その分強くなれるということだ。そして心が豊かになる。

女性の海外一人旅、危険回避法は?

写真提供/小林希
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小林さんはこれまで世界50か国以上を訪れているが、危険な目には一度も遭っていないという。女性の一人旅、ふりかかってくる危険を回避するとっておきの術が何かあるのだろうか。「どこの国に行ってもビビることはなくなりました。東京の暗い道で後ろから人がついてくるほうが、よっぽど怖いです。海外で遭遇する危険は、8~9割は自己回避できると思います。まず日本の常識で物事を考えない事です。とはいえ、いい人と悪い人の判断なんてなかなかできないですよね。片言の日本語で話しかけてくる人は、危ないと思った方がいいです。それと助けて欲しい時は、自分から声をかけます。「助けてあげるよ」って声をかけてくれる人は、たぶん9割はいい人なんですよ。でも申し訳ないんですけどそれを断って、おばさんを探して一生懸命話しかけます」。おばさんパワーは万国共通のようで、困っている人を見ると、とにかく一生懸命解決してくれようと動いてくれるようだ。困ったらおばさんに聞く、女性一人旅の際に覚えておいてほうがいい知恵のひとつだ。

自由に自分らしく旅をすることで、気づいていない自分に出会うことができる

写真提供/小林希
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自由に自分らしく旅をすることで、気づいていない自分に出会うことができる。色々な旅があるとは思うが、心のままにその土地の生活、時間、空気に身を委ねていればいい。なぜなら旅は冒険ではなく生活の延長だから――ということを小林さんに教えてもらった気がした。『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』のあとがきにある「人が暮らす場所には、取るに足りないような些細な出来事が溢れ、そこにはかつて見た事のない色がたくさん隠れている」という言葉に、旅への想いを掻き立てられる。

小林希さん
小林希さん

<Profile>

1982年生まれ、東京都出身。立教大学在学中からバックパッカーとして海外を旅する。2005年サイバーエージェント入社。アメーバブックス新社で編集者として、多くの書籍を手がけ2011年末に退社。その日の夜から旅に出る。1年後帰国して、その旅のことを綴った『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家デビュー。現在も旅を続けながら執筆活動に勤しむ傍ら、香川県丸亀市の讃岐広島で”島プロジェクト”を立ち上げ、島おこしに奔走する。3月17日に最新刊『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』(幻冬舎)を発売。5月15日(日)神奈川県・藤沢市の湘南T-SITE「湘南蔦谷書店」で、出版発売記念トーク&サイン会を行う。詳細はこちら

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