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ウクライナ戦争で木材増産、それが世界の森を破壊する

田中淳夫森林ジャーナリスト
ウクライナの森は戦争で森林火災が頻発して傷ついた。(写真:ロイター/アフロ)

 ウッドショック、そしてウクライナの戦争は、世界中で森林破壊を進めている。

 もともと木材不足だったところに起きたウクライナ戦争では、西側諸国でロシアとベラルーシへの経済制裁で木材輸入を禁止した。しかし、ロシアは世界最大の針葉樹材の輸出国である。それを止めたのだから、より木材不足になる。

 そこで各国は、輸入できない分を国内の森林から調達するため、また木材価格が高騰しているから利益増を狙って増産を進めている。そのため森林の保護規定を取り除き、持続的な林業を失いつつあるのだ。

ウクライナ危機で、ウッドショックはどうなる?

 もっとも顕著なのは、実はウクライナである。ウクライナも木材輸出国なのだが、戦費を捻出するため木材の増産を企てた。そのため春から初夏まで伐採を禁じていた森林保護の規制を解除した。

 加えて、砲撃などのため各地で頻発している森林火災も放置されている。消防を担う人材が兵士となって引き抜かれたうえ、戦場は危険すぎて消火できないのだ。

 もともと違法伐採が横行していると言われたウクライナだが、より森林破壊は進みそうだ。

「ウクライナの森」が日本に輸入される裏事情

アメリカでも、輸入の減少分を補うため国内の伐採を増やしている。そのための法案も提出した。またバルト海沿岸のエストニアは、国有林の伐採制限を緩和した。伐採面積はほぼ25%増になるという。

 そのほか伐採量を増やしている国は多い。これまで脱炭素絡みで森林保護を進めていた国も、舵を木材増産に切り始めた。

フィンランドの林業は冬戦争から

 もっとも野心的なのは、フィンランドだろう。もともと林業は基幹産業だが、木材が高値の今、経済成長を狙って増産を進めている。21年の伐採量は前年比10%超増の7600万立方メートルで、過去最高を記録した。その結果、フィンランドの森林は、とうとうCO2の吸収源から排出源に転じたことが統計からわかる。

 さらに増産計画は進んでおり、伐採量は毎年3%ずつ増やして、2025年までに8000万立方メートルにするという。

 余談だが、フィンランドが林業先進国になったのは、第2次世界大戦初期にソ連がフィンランドの実質的な併合を狙って攻め込んだ「冬戦争」が大きく影響している。ソ連に対してフィンランドは徹底的に抗戦した。結果、甚大な被害を出したソ連だが、フィンランド側も孤立無援で継戦能力を失い講和に持ち込む。その際の条件が領土の1割割譲と賠償金の支払いだった。

 工業地帯を奪われ、莫大な賠償金を支払うために、フィンランドは大規模に森林を伐採するようになる。これが皮肉なことに林業の大規模化・近代化を進め、基幹産業に育てられたのだ。しかし、そのためフィンランド全土で大規模な皆伐が行われるようになる。だから現在の森は、ほとんど戦後に再造林されたもので、原生林は姿を消した。(参考『フィンランド 虚像の森』)

 今再びウクライナ戦争をきっかけに木材増産に走れば、それは冬戦争の教訓を活かせていないことになるのではないか。

 それはウクライナにも言えるだろう。今現在の戦いのために木材資源を利用したい気持ちは非常によくわかるが、戦後復興を考えると、慎重になってほしい。

 また石油や天然ガス不足も、森林に暗い影を落としている。代替燃料として目を向けたのが木材、つまりバイオマス燃料としての木質チップや木質ペレットなのである。各地でバイオマス発電が強化され、また暖房にも重宝されるようになった。

 もともと再生可能エネルギーとして需要は増加していたが、これ以上の増産は、森林破壊につながるだろう。すでに建材にできる立派な木さえ砕いてチップにされている有り様である。

日本は在庫積み上がり安値に

 2021年にイギリスのグラスゴーで開かれた気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、参加した世界中の国々が、30年までに森林減少を食い止めると宣言を公表した。だが、その実現は風前の灯火だ。

 日本国内に目を向けると、ウッドショック以降、国産材の増産が進んでいる。しかし、皮肉なことに在庫が積み上がってしまった。円安などの景気低迷で、建築需要が伸びないためだろう。製品価格は今だそこそこ高値を保っているが、原木価格は安値のまま。それでも補助金が出るから、増産は続く。安値になればなるほど、量で稼ごうという不思議な心理が働くのだ。しかし、生産された木材の多くは、バイオマス発電などに回っているらしい。

ウッドショック崩壊? 木材価格は暴落するか

 ともあれ戦争は、必ずと言ってよいほど自然破壊、とくに森林破壊を招く。日本でも太平洋戦争直後の山は禿山だらけだったため災害が頻発した。今ならCO2の排出増を増やし、気候変動を激化させる。それは水害の発生を増やし激甚化につながる。甚大な災害は戦争被害に匹敵するだろう。

 森林問題を考えるには、長期的視点が欠かせない。心する必要がある。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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