Yahoo!ニュース

増えた?減った?地球の森林面積の研究は複雑怪奇

田中淳夫森林ジャーナリスト
衛星から見た南米大陸のアマゾン川流域。どこまでが森なのか。(提供:イメージマート)

 私は昨秋、『虚構の森』(新泉社)を出版したが、その冒頭でネイチャー論文を引用して、「地球上の森林の面積は、1982年と2016年を比べると7%も増えている」という研究を紹介した。米国メリーランド大学のSong博士の研究グループが2018年に発表した人工衛星からの地球の画像の解析により森林面積を割り出したものである。

 この研究については、私は第1報をYahoo!ニュースにも記していた。

地球上の森林は増えている!

 一般的には、人類の活動(農地開拓、木材生産など)によって地球上の森林は減少するばかりと思われている。しかし世界一査読の厳しいとされる科学論文誌のネイチャーに載っているということは、それなりの信憑性があるのではないか、と私も驚きながら記したのである。

 そこに衛星画像などを元に森林リモートセンシング技術の研究をされている方から連絡があった。

 拙著を読んでくださって、関連研究を調べてみたところ、衛星画像を解析することで世界の森林面積を割り出した研究は他に幾つもあり、さらにはそれらを比較検討した論文があったというのである。中国ハルビン工業大学のChen博士の研究グループが行い、2020年に発表したものだ。

 それが面白いので、ここで紹介する。私が執筆した記事がどう評価されるかも含めて研究とはいかなるものかと考えさせられる。

 Chen博士たちは、衛星画像解析による森林面積を評価した5つの研究と、FAO(食糧農業機関)が各国のデータを積み上げて出した世界森林資源評価も加えて6つの情報を比較した。ただし、各研究の対象期間が異なっているため、すべてが重複する2001年から2012年までの12年間を比較対象としている。

 その結果はどうなったか……。

 なんとSong博士の研究は170万平方キロメートルの森林が増加したとするが、ほかの5つは、10万平方キロメートルから160万平方キロメートルまで幅はあるが、全部減少しているという結果が出ていたのである。

 増えていると減っているでは大違いだ。ここでは、増えているとしたSong博士たちの研究は正しいのか、という点を検証している。

 そこで比較期間の森林面積の変化をグラフにしたところ、Song博士たちの研究結果は激しい増減を繰り返していることがわかった。とくに2004年に200万平方キロメートルも増加したかと思えば、翌年には100万平方キロメートル減少したケースもあった。

 そこでChen博士は、高精度なGoogle Earthの衛星画像で確認してみると、Song博士が森林としたところを確認したところ、農地などの場合があったという。

 つまり、地球全体で森林が増えているとした数値は、怪しいというわけだ。

 なるほど。私もうなる。

 もっとも拙著で紹介したとおり、Song博士の研究は、厳密には「森林」面積を調べたのではなく、地球上の植生を「裸地」「低木植生被覆地」「樹冠被覆地」の3つに分けて各面積を調べたものだ。そのうち樹冠被覆地とは、高さ5メートル以上の植物に覆われているところと定義づけて、それを森林としていた。

 しかし、高さ5メートルぐらいなら、農作物でも該当するものはあるだろう。私が最初思い描いたのはアブラヤシだが、その面積は20万平方キロをはるかに超えている。ほかにココナツヤシもあるし、オリーブやアーモンド、カシューナッツ……そして数々の果樹など5メートル以上に成長しそうな農産用樹木は数多い。残存ながら、両者を区別するのは、現在の衛星リモートセンシング技術からは難しいそうである。

 しかし、果樹園を森林とするには無理があるだろう。もっとも1、2種の樹木ばかりを植えた人工林(たとえば、スギやヒノキ林)は森林扱いするのだから……ややこしい。

 一方で、減少しているとした5つの統計も、その減少幅はあまりに広すぎる。どれが正確なのか、答は簡単に出せないだろう。

 それにしても……お見事です(笑)。何も私は『虚構の森』を否定されたと思っていない。このような検証は、むしろ大歓迎だ。

 増えたか減ったかという結論だけをつまみ食いするのではなく、その根拠を追って、さらに自ら考えてみることが大切なのだから。情報の受け取り手のリテラシーが求められそうだ。

 ちなみに、この研究を紹介してくれた「はやしま」さんは、結果をnoteに記している。

世界の森林面積、減ってる?増えてる?

 より詳しく紹介しているので参照してもらいたい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

田中淳夫の最近の記事