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バイオマス発電の輸入燃料が急増。日本の電力料金の海外流出は増えるばかり

田中淳夫森林ジャーナリスト
発電燃料となる木質ペレット。製材で出るおが屑を元につくられる(写真:ロイター/アフロ)

 2019年のバイオマス発電と石炭混焼発電用の木質ペレットとPKS(ヤシ殻)の輸入量の統計が発表されている。それによると、輸入木質ペレットは前年比1・5倍の161,4万トン、PKSは 同じく1・3倍の163,8万トンと爆発的に増えていた。(日本木材新聞より)

 バイオマス発電は、木材等のバイオマスを燃焼させて行う発電だからCO2排出が理論上ゼロ(燃やした分、また成長することで吸収する)ということで推進されてきたが、蓋を開けてみれば国内では調達しにくく輸入に頼ることになってしまった。それでは輸送にかかるエネルギーを考えただけでもまったくCO2削減に寄与しない、というより増やしてしまう。

 それだけではない。バイオマス発電はFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)で割高な電力料金に設定されている。つまり我々の支払う電気代に燃料費分が上乗せされているわけだが、輸入燃料を使うということは、その分を海外に流出させているということだ。環境には役立たない、日本の富が海外に出てしまうと、二重に馬鹿げたことを行っているのだ。(もちろん火力発電の石炭や石油、LPGなどの燃料だって海外から購入しているから富の流出だが、価格は安い。)

 せっかくだから輸入先(日本の富の海外流出先)を見てみよう。

 まず木質ペレットはベトナム産が1位の89万トン、全体の55%も占めている。昨年までカナダ産が首位だったのに様変わりだ。カナダのペレット工場でトラブルがあったことが原因らしいが、それでもベトナムの伸び率は大きい。ベトナムは木工業が盛んで、日本が輸入している建具や家具もベトナム製が多い。その製造時に出るおが屑もペレットとして輸入したということか。ほかマレーシアやタイも伸びている。

 PKSはインドネシア一国で128万トンと他国を圧倒している。2位のマレーシアが36万トンだ。ちなみにPKSの原料は、オイルパームのヤシ殻である。油分を含むので熱量が高いと喜ばれるが、何かと問題視されていることは繰り返し記してきた。ようするに日本は、パーム油の2大生産国からパーム油を搾った滓まで輸入しているわけだ。

グリーン・ライ(環境問題の嘘)をつくのは誰だ 

パーム油燃やすバイオマス発電の異常

本末転倒の巨大バイオマス発電所の建設が進む

 

 製材屑と油の搾り滓という廃棄物まで輸入してくれるのだから、これらの国にとって日本は超お得意さんになるだろう。

 ちなみに今度はアメリカの木質ペレット製造会社から長期の輸入契約(15~20年)をしたそうで、そのうちアメリカ産ペレットが席巻するだろう。

 しかし、バイオマス発電所が儲かるのは、FITの制度で割高に電力を購入してもらえるからである。そしてFITは20年間で終了することが事前に決まっている。つまり割高の買取がなくなる。通常は20年間で普及させて採算が合うようにすると見込んでいるためだが、バイオマス発電のコストは燃料代の占める割合が高くて、おそらく引き合わなくなる。そうすれば閉鎖になる可能性が高いのだ。

 事業者は、それまでに稼げたらよいつもりかもしれないが、バイオマス発電所の廃墟が林立することになりかねない。長期契約はそこまで見込んでいるのだろうか。付け加えれば、特定の国からの大量購入は、流通も含めた価格上昇を招くことも懸念されている。それでも維持できるのだろうか。視界不良のバイオマス業界である。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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