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先読み・植林面積世界一。中国は巨大な木材輸出国になる!

田中淳夫森林ジャーナリスト
近い将来、中国は巨大な木材輸出国になる、かも。(写真:ロイター/アフロ)

 今、中国と言えば武漢の新型肺炎を思い出してしまうが、それらのニュースに触れても、とにかく人が多いことを感じてしまう。15億人もの人口を抱える世界一の人口大国なのだ。それが強みでもあり、弱みにもなっているのだが……。

 最近、新たな「中国の世界一」に気づいた。人工林面積で中国は世界一になったのだそうだ。

 中国の国土面積は世界第4位だが、森林面積はさほどではない。砂漠や黄土地帯や高原地帯の半砂漠が広がっているからだ。新中国成立初期(1950年前後)は、森林率が8,6%にすぎなかった。国土の1割もなかったのである。しかも、その後の開発で減り続けていた。ところが、その後経済成長とともに、猛烈に造林を進めて今では21,66%まで上がっていた。約40年前は5%前後、1990年で16,4%だったというから、恐るべき伸び率だ。最終的には2050年に中国全土の42,4%となる406万9000平方キロメートルの造林をめざしているという。

世界の植林を牽引する中国とインド

 地球上の森林面積は約40億ヘクタールで、そのうちアジアは約6億ヘクタールである。そのうち中国の森林面積は2億800万ヘクタールと半分近くを占める。そして人工林面積は6933万ヘクタールになったという。

 このような紹介をすると「中国の統計は信用できない」と、懐疑的な声が出るのだが、たとえば国連食糧農業機関(FAO)が発表した報告書「世界森林資源評価2015」でも、2010年から15年までの間、中国は森林面積純増量が年平均で154万2000ヘクタール増である。桁違いの造林面積だ。

「ネイチャー」の論文でも世界の森林面積は増えており、その大きな理由が中国やインドの植林だとしている。熱帯地域では森林減少が続いているものの、温帯地域で森林が増えた結果、地球全体でもプラスになっているのだ。

広大な人工林から木材生産が始まる

 ところで前世紀の中国は、木材も自給していた。しかし2000年前後に洪水などの災害が相次いだため、天然林の伐採を禁止した。そして必要な木材は輸入する方針に切り換えている。

 結果として、今や世界一の木材輸入大国となった。ロシアのシベリア材に始まり、現在はニュージーランド、北米、そしてヨーロッパからの木材輸入が激増している。かつては日本が世界一の木材輸入国だったのだが、今では日本は中国に木材輸出する国になっている。その量は輸出量の大半を占め、その需要が日本林業を支えるほどになった。

 戦前日本の森林面積は、約17万平方キロメートルで森林率では約46%だったが、戦後は急速に伸びて現在は約25万平方キロメートル、約67%とされている。森林蓄積(材積)で言えば、4倍から5倍に増えた。

 一方で人口は減少期に入って木材消費は伸びなくなった。結果として現在「木余りの時代」を迎えている。だから、もっと木材を使えと「木づかい運動」が起こされ、なかにはバイオマス発電で燃やしてしまっている。だから木材輸出も企てるようになったのである。

 そこで、ふと勘づいた。それと同じことが、遠からず中国でも始まるのではないか?

日本の木材輸出に将来はあるか

 日本は中国への木材輸出を続けられるだろうか。ここで、もう少し先の将来を考えると、森林面積が増える中国は近く木材大国にもなることが予想できる。人工林は木材を生産できるのだから、適齢期になった人工林から木材を収穫する時代が来るだろう。いや、造林された多くが早生樹種であり20~30年で十分な太さになるから、すでに伐期を迎えた人工林も増えているはずだ。

 そして中国も人口減社会を迎えている。すでに昨年、生産人口がマイナスになったことが発表されている。おそらく日本以上のスピードで人口が減るだろう。そうすると木材需要も落ちるに違いない。

 今後、莫大な木材が使い手を求めて出荷される時代を迎えるだろう。

 

 そうなれば、日本の木材を中国に輸出するどころか、ほかの輸出国も中国に取られる可能性が高い。韓国、台湾、アメリカ、ベトナム……などが全部中国産木材に切り替わるかもしれない。そして、日本にも入ってくるだろう。すでにホームセンターなどでは、中国産ポプラの集成材などが出回っている。また中国ではポピュラーなコウヨウザン(中国杉)も建築材として有望視されている。

 日本は、木材生産を強化して輸出に向けようとしているが、むしろ中国から木材が入ってくる心配をすべきだろう。

 産業の振興を考える場合、とくに国の政策は将来の展開を読んで、常に先手を打たねばならない。今、日本は木が余っているからどんどん伐れ、今、中国が木材不足だからどんどん輸出しろ……では将来に大きな禍根を残すのではないか。とくに樹木は使える太さまで成長するまで数十年かかり、長期の視点が欠かせない。気づいたら日本の木材資源は枯渇して、中国産木材が席巻する可能性だってあるのだ。

 世界の環境事情は急速に動いている。常に先読みしておかないと、とんでもない間違いをしでかすかもしれない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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